第19話 ニコバル諸島の戦い 後編

  中国海軍は、ほぼ全てにおいて、ドイツから軍艦を輸入していた。

  1943年3月5日、長田達の情報通り、中国海軍は、チッタゴンを

  出航して、以下の艦艇をニコバル諸島に向けて、侵攻した。

   

   空母:遼寧(りょうねい)、フリゲート


   戦艦:ドイッチュラント


   重巡洋艦:アドミラル・ヒッパー


   軽巡洋艦:ブリストル、アリシューザ、ホーキンス


   駆逐艦:ギアリング、フレッチャー、以下計9隻


  3月6日午前、中国海軍は大ニコバル島の北東200浬の地点から

  以下の航空機を発進させた。


   戦闘機24機


   艦攻36機


   艦爆28機


  これは搭載していた艦攻、艦爆の全機であった。戦闘機は事前に、

  中国軍に日本軍が接近するとの情報があったため、

  直掩に27機を残し、それ以外全て発進したのであった。

   

  そして、日本軍がチッタゴンを攻撃するとの情報があったため、

  その威嚇として、中国艦艇は全てその場に留まり、

  陸上上陸部隊を乗せた、商船が中国艦艇に先駆け、ニコバル諸島に

  向けて、侵攻していたのであった。


  一方、事前に中国軍の動きを長田、加古川から情報を得ていた

  日本軍は3月4日に、アンダマン・ニコバル諸島を出航していた。

  日本軍は合計16機の直掩機(ちょくえんき:零戦)を護衛につけ

  チッタゴンに向かっていた。


  3月6日午後、大ニコバル基地に、中国航空機の攻撃が始まった。

  日本の零戦は徹底的に、中国航空機の、戦闘機のみを狙い、

  撃破していった。

   

  しかし数に劣る零戦は、中国軍戦闘機5機を残し、全機撃墜、

  または不時着のため、戦闘不能になった。

  そして中国軍、艦攻、艦爆は、停泊していた日本艦艇と

  大ニコバル基地に攻撃を開始した。

   

  日本軍の必要最低限の乗員しか、載っていなかった、老朽化した4隻の

  艦艇は反撃するだけの、砲撃がほとんど出来ず、

  逃げ惑う-ふり-ばかりであったが、中国軍の執拗な攻撃により

  全艦撃沈した。

   

  第五艦隊から割いて配備してあった第六駆逐隊、駆逐艦:

  響(ひびき)、暁(あかつき)、帆風(ほかぜ)は猛攻撃を

  受けたが、反撃をしながら帆風が小破したが推進に支障は

  大してなく、駆逐艦:響、暁、帆風はそれぞれ、

  老朽化した4隻の乗員を移乗させ、大ニコバル島を脱出し、

  第五艦隊へと向かった。


  その間に響は第五艦隊の旗艦那智に中国軍の攻撃開始と

  日本軍艦艇の攻撃の終了の暗号を送っていた。

  この暗号は第五艦隊が受信していた。

   

  日本軍がチッタゴン攻撃のためその大半が、ニコバル諸島から

  離れ7隻の、空母を含まない、艦艇のみが、大ニコバル島に終結し、他の

  島には、日本軍が居ないとの、情報を得ていた、中国軍は大ニコバル島基地

  を攻撃しつくした後、他のニコバル諸島へ攻撃を、開始した。


  そのころ第五艦隊はチッタゴンに向かう為に北上し、

  中国軍の東80浬の地点に迫っていた。

  長田と加古川の情報操作により、チッタゴンを攻撃するためそこに

  中国軍が終結しており、そのため、日本軍は中国軍を攻撃しないで

  戦力を温存し、チッタゴンに向かうと、考えていた中国軍は、戦闘機を

  日本軍に向かわせることもなく、また日本軍は中国軍を無視して

  チッタゴンに向かうのであった。

   

  そこへ中国軍艦攻、艦爆隊が爆弾を打ち尽くし、中国軍にもどって

  いった。

  第六駆逐隊からこの知らせを、第五艦隊は受けた。


渋野忠和「今です、細萱中将」


細萱戊子郎「うむ、全艦急速反転、先ほど通過した中国艦艇を攻撃せよ。

      向こうの大ニコバル島やニコバル諸島全域もここまでは

      作戦通りだな、渋野中尉」


忠和「そうですね、この後も作戦通り、うまく行ってくれればいいんですが、

   ってまだ私は中尉じゃないですよ」


細萱「まあまあ、でこれが今回の君の最上の策だな。事態の変化に応じて、

   君は何段階か、途中から切り替われる策を、用意していたな」


忠和「その場合、切り替える内容とタイミングが、かなり難しいですが。

   しかしここまで来たら、長田さんと加古川さんを、全面的に

   信じる他、他の策はかなり難易度が高いですね」


細萱「心配しなくても最悪、最後の策をとればいいだけだし、負けは

   しないはずだ」


忠和「まあそれは最後の手段ですがね」


  日本軍は戦闘機のみをまず全機発進させた。内訳は、

  零式艦上戦闘機16機、九〇式艦上戦闘機 21機で、

  残りの計8機の戦闘機は直掩にあったった。


  3月6日晩日本軍戦闘機は中国軍戦闘機と交戦状態に入った。

  これは中国軍としては情報と違うものであったため混乱が生じた。

  零戦の攻撃は、かなりのものであったが、九〇式艦上戦闘機は

  ドイツから輸入した中国軍戦闘機に、性能が劣り、劣勢であった。


  次に日本軍はこの様子を見て、零戦の活躍により、全体的には

  敗北しないと見た日本軍は、艦攻、艦爆を発進させた。

  内訳は、艦攻42機、艦爆23機であった。


  戦闘機同士の戦闘は中国軍戦闘機が、10機ほどになったとき

  零戦10機、九〇式艦上戦闘機 8機に激減していた。


  そこへニコバル諸島を攻撃した、中国軍航空機が帰ってきたが、

  爆弾を全て打ち尽くしてきたため、日本艦艇への

  攻撃は、出来なかった。

  

  これが忠和の最大の狙いの一つであった。


  現存していた、中国軍戦闘機は、日本軍の、艦攻、艦爆に襲い掛かろうと

  したが、日本軍も零戦を始め戦闘機が、中国軍の艦攻、艦爆を無視できた

  為、中国軍戦闘機に、日本軍、艦攻、艦爆に、手出しさせなかった。


  そして中国軍にたどり着いた日本軍、艦攻、艦爆は二手に分かれて

  空母:遼寧、フリゲートを徹底攻撃した。


  フリゲートに襲い掛かった日本軍、艦攻は左側面を、魚雷攻撃した。

  側面には、徐々に穴が空き始め、フリゲートは、次第に左に傾き始めた。

  また艦爆も、フリゲートに急降下爆撃を加え、3発が命中した。

  上空と側面から攻撃されたフリゲートは、艦砲の狙いが定まらず、

  反撃の射撃に、困難をきたした。

  艦攻によって、左側面に攻撃を受けたフリゲートは、その穴を更に広げ、

  浸水し、艦爆からの攻撃に、炎上した。

  甲板を鎮火しようとしたが、爆発は防げず、全員退去の命が下った。

  乗員を無くし、抵抗力を失ったフリゲートは、艦攻の攻撃の的になり

  浸水して沈没確実となった。


  制空権を確保しつつあった、日本軍戦闘機は、中国軍戦闘機を帰投させ、

  自らも、交互に龍驤、隼鷹に帰投して補給を受けた。

  依然、日本軍戦闘機は、中国軍艦攻、艦爆を無視して、敵戦闘機に、

  にらみを利かせていた。


  もう一手の日本軍、艦攻、艦爆は、遼寧に襲い掛かっていった。

  フリゲートに、多くの戦力を割いていた、日本軍であったが、

  フリゲートの、沈没確実を、確認するとそちらの戦力も、

  遼寧攻撃に加わった。

  日本軍艦爆は、遼寧に急降下爆撃を行い、5発が命中、1発が

  艦橋すぐ近くに命中した。

  艦攻は、遼寧の右側面に攻撃を集中して、側面にいくつもの穴を空け、

  そこから、次第に浸水していった。

  制御を失った遼寧は、日本軍の艦爆の攻撃にさらされ、更に2発が命中、

  1発が艦橋に命中した。

  艦橋を吹き飛ばされた遼寧は、まったく制御をうしない炎上して、

  艦攻のなすがままになった。

  艦攻は遼寧右側面にどんどん、魚雷を打ち込み、おもいっきり

  浸水して、沈没した。 


  この時点で日本軍戦闘機は、中国軍戦闘機の大半を撃墜または

  戦闘不能にしていた。ただ日本軍戦闘機は、中国軍戦闘機が日本軍

  艦攻、艦爆を狙うのの、護衛に専念した為、その撃滅に困難を

  きたし、その数もかなり、減少していた。


  日本軍は次に、中国軍戦艦を狙った。

  ドイッチュラントを、艦爆が急降下爆撃し、3発が命中し、主砲2門を

  破壊した。

  艦攻は、ドイッチュラントの左後部を、一点集中攻撃した。

  流石に戦艦の装甲は厚く、なかなか傷を負わなかったが、それも

  予定済みであり、一点集中攻撃をしたため、側面後部に穴が

  空き始めた。

  そこをとことん集中攻撃したため、大きな穴が空き、そこから浸水

  しだした。

  ドイッチュラントは左に傾き増々浸水した。

  更に艦攻が集中攻撃をしたため、船体は大きく傾き、沈没は

  確実となった。

  ドイッチュラントの乗員は、移乗の命を受け、各艦艇にわかれた。


  日本軍、艦攻、艦爆は魚雷と爆弾の無くなった機体から、逐次龍驤、

  隼鷹に帰投していったが、ここでほとんどの機体が、魚雷、爆弾を

  使い果たし、帰投したのであった。


  残った日本軍、艦攻、艦爆は計5機であったが、更に重巡洋艦

  アドミラル・ヒッパーを、集中攻撃した。

  艦攻は、徹底的に左側面後部に、狙いを定めて攻撃したが、少ながらず

  傷をつけたものの、浸水には至らなかった。

  艦爆は、一発が艦橋付近に命中、一発が主砲に命中した。

  これにより、アドミラル・ヒッパーは、中破となった。

  艦上では、退避は行われなかったものの、消化作業に乗員が

  駆り出された。

  ここで5機の艦攻、艦爆は全ての魚雷、爆弾を打ち尽くし全機、

  龍驤、隼鷹に帰投していったのであった。


  日本艦艇が中国艦艇を攻撃しようと、進撃していたが、中国軍は

  2隻の空母を撃沈されてからチッタゴンに逃走を開始していたため、

  追撃したが、追いつかなかった。

  日本軍はそれ以上、追撃しなかったのである。


  そしてニコバル諸島に、上陸するために、進行していた上陸部隊は

  大ニコバル島以外の、ニコバル諸島に上陸各島を、占領していた。

  大ニコバル島を占領するために、海上にいた商船は、第六駆逐隊、

  駆逐艦:響、暁、帆風により、全艦捕獲された。

  第六駆逐隊、駆逐艦:響、暁、帆風の前に、抵抗をやめた商船は、

  各商船にそのまま、待機の暗号を送った。

  この知らせを受けた、第五艦隊は中国軍の追撃を完全にやめ

  ニコバル諸島へ向かった。

  

  第五艦隊は各ニコバル諸島の商船を、破壊し上陸部隊を、捕虜と

  したのであった。

  この戦いの損害は、中国側:空母2隻撃沈、戦艦1隻撃沈、

               重巡洋艦1隻中破 

           日本側:駆逐艦一隻小破    

   と日本側の一方的な勝利であった。


細萱「ほぼ完全な我々の勝利だな。防衛どころか、かなり敵軍を

   殲滅して、捕虜も獲得した」


忠和「ですね」


    忠和の声から覇気が消えていた。


細萱「これも渋野次期中尉、いやもう中尉確実だな、

   君の手腕のおかげだ」


忠和「私よりも長田さん、加古川さんの功績が大きいです」


細萱「何か声が小さいな。君は今回が初陣だったな、大体わかるが」


忠和「恐らくお察しの通りだと思います、細萱中将」


細萱「そういう事だな。君は早めに山本長官と岡本少佐の元に

   帰ったほうがいい。

   後の事くらいは、君の作戦を我々だけで完遂できる」


忠和「ご配慮ありがとうございます、細萱中将」


細萱「最後に角田少将だけには、挨拶していけばいい。君の功績は

   持ってきた、作戦の全体内容も含め、今回の詳細を

   書面にて、山本長官と永野総長宛てに書く。

   君の手から直接、手渡しなさい」


忠和「ありがとうございます。では長田さんと加古川さんにも

   挨拶をしていきます」


細萱「うむ、それとここへ来る時、君は1人で来た経路が

   あるのかね?」


忠和「いえ、全て同行された方がいます」


細萱「それならいい」


    細萱は、忠和が、一人になったら、何をするか気がかりで、

    念のため、それを確認したのであった。

    その後、細萱は角田を呼び忠和は角田と長田と加古川にも挨拶を

    して、3月上旬、旗艦大和に帰還していった。

    あとは忠和の作戦の完遂をする為に、引き揚げていた日本軍を

    元のニコバル諸島に戻して、第五艦隊の内、巡洋艦と駆逐艦の

    半分が、日本に中国の、ニコバル上陸兵を、捕虜として、連れて

    帰ったのであった。  

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