第16話 出陣前

    晃司と忠和は大和艦橋へ戻った。


渋野忠和「ただいま戻りました、山本長官」


岡本晃司「僕も一緒に戻りました、長官」


山本五十六「おう2人とも戻ったか。園田中尉と井上胡桃さん

      だったか、話はよくできたか?」


晃司「はい、彼女たちは井上さんの提案で、女性下士官、女性将校の

   養成学校設立をし、その教育に当たるとのことです。

   まだ国会の議決が通ってないので、どうなるか

   わからないのですが」


山本「ほう、女性下士官に女性将校か。確かにお前たちの世界の日本じゃ、

   軍隊じゃないとはいえ、将校にあたる女性が少なからずいる

   のだよな。

   しかし男でもきついのに女が軍人とはな、しかも将校か」


忠和「確かに軍隊というのは、そうかもしれないですけどね。

   しかし我々の世界や日本では、色んな企業の幹部やトップ、

   政治家までも、女性の社会進出が、当たり前になっています」


山本「時代かあ、確かに一世紀もしない前の、江戸時代までは、

   女は読み書きすら、そんなにさせてもらえなかったからなあ」


晃司「考えてみれば、我々男も、女から生まれる訳で、遺伝と言う事を

   考えれば、男と女から、両方の遺伝的素質を受け継ぐ訳ですし、

   それなら当然、女性の中でもある分野において、優劣はあるし、

   男性に比べても下手な男より、よっぽど色んな方面で優秀な女は、

   いると考えれるはずですが、江戸時代も。

   それに女だからと言って、学問の自由まで与えられにくいと言う

   のは、僕らの常識から考えても、信じられませんよ。

   だいたい傾向として語学なんかは、男より女の方が優秀な人間が

   圧倒的に多いんですから」


山本「そうかお前らの時代では、それが明らかなのか」


晃司「ええ、それは人間の脳と言うのは、知っている限りでは大雑把に

   言うと、右脳と左脳に分かれていて、右脳は感覚等を司る脳で、

   左脳は計算などの論理的思考を司る脳で、その両方をつなぐもの

   に、脳梁(のうりょう)と言われるものがあり、女性のほうが

   これが分厚く、男性のそれは、貧弱なんです。

   このせいもあるかも知れませんが、男性と女性では傾向として、

   得手不得手に、その差が明らかにあります」


忠和「女性は右脳と左脳の連携が濃密で、このため傾向として例えば、

   失恋の痛手なんかは女性の方が、切り替えが早い人が多く、

   男性はいつまでも、忘れられずにいると言われています。

   あと男性はこの情報のやりとりが、苦手なため、右脳や左脳に、

   偏った人物が多く、そのために例えば、右脳が特に発達した

   芸術家などは、男性に多かったりすると言う訳です」


山本「うむ、やはりお前たちの時代はかなり科学の分野で進んでるが、

   それも西洋式なのか?」


晃司「多分そうでしょうね。恐らく今のは、大脳生理学の分野と

   思われますが、まあ医学の内ですから、西洋の可能性が

   かなり高いですね。」


山本「まあ技術的なことも、幕末の頃以前から、西洋式のものが

   発達していたが、江戸時代のころに、イギリスでは産業革命が

   起こったくらいだからな。

   お前らの時代でも西洋の方が進んでいるかやっぱり」


忠和「自分達の時代の日本人は、この時代からすでにそのようですが、

   物まねがうまく技術立国日本と呼ばれています。

   敗戦後の日本はわずか数十年で車なんかも、アメリカでも

   コストのかからない、日本車がかなり多く普及してます」


山本「うむう、大したものだなあ我々の子孫も。それで、でお前たちの

   ことも、彼女達に話したか?」


忠和「はい、それで思い出しましたが長官、老朽化した廃棄同然の

   日本の軍艦をできれば、五隻以上集めて欲しいのですが」


山本「五隻もか、どうしようというのだ」


忠和「今回の作戦に使います。まあ詳細は、細萱中将と角田少将と

   打ち合わせて成功してから、長官には話したいのですが」


山本「うむ、まあいいが、分かった。五隻集まるかどうかわからないが、

   出来るだけやってみよう」


忠和「ありがとうございます」


山本「他に何かないか?」


忠和「長官には、今の所これくらいですかね」


山本「俺には、ひょっとして軍令部に行った時、永野総長か伊藤次長に

   なにか頼んだのか?」


忠和「申し訳ないですが、今はこれ以上は、勘弁してください。いずれ

   ばれるにしろ今は、でかい事言って、失敗したら面目が立たないので」


山本「軍艦の件以外にも、何か手を打ったようだな。防衛のために

   そこまでやるか。まあインド洋方面の重要性を説いたのは

   俺自身だがな。今回についてはそんなところでいいのだな」


忠和「はい、長官。向こうについてからも、何かあったらまた連絡

   しますので。

   なんせなかなか、じっくり知識を得て、考える暇が

   無かったものなので」


山本「分かった、その折には、また出来る限りの事はしよう。今日は

   二人ともまた、旗艦の視察等をしたらいい。なんだったら忠和君、

   君はここをたつまでも、じっくり作戦を考えたらいいぞ」


忠和「そうですね、でもまあ動いている方が、案外色々思いつくかも

   しれませんし、晃司と旗艦の視察にあたります」


山本「そうか、あそうだ晃司、今日からお前はしばらく毎晩対局の

   相手をしろ、晩は作戦室で待っている。渡辺と藤井もつれてこい」


晃司「分かりました、言ってましたもんね。しかし半年たっても

   一向に熱が冷めてませんね」


山本「おう、俺もそうだが、渡辺と藤井もだぞ」


忠和「ほんとその辺は、史実通りですね」


山本「やっぱり、そんなに有名か?」


忠和「そりゃもう山本長官の、博打と将棋好きは、後世でも有名ですよ」


山本「そうか、まあお前らの時代は相当な、情報化社会らしいからな。

   インターネットというやつだったかな、そのせいか」


忠和「よくご存じですね、晃司から聞かれたのですね。あれは確か、

   この時代にもうあったかもしれませんが、ソ連軍の兵器利用と

   言う形で、根拠地が破壊されても、遠隔操作で情報をコントロール

   するように、作られたものが、平和利用されて世界中に広まった

   ものなんです」


晃司「そうやったんか、それは俺も知らんかったぞ、誠一」


忠和「知らなかったのか、晃司、お前ともあろうものが」


山本「俺はもちろん知らなかったがな」


忠和「まああと、モールツ信号から始まった電話等、一つみても軍事利用、

   兵器利用が少なくとも時間的には、平和利用のほぼ全部

   と言っていいほどに、その発展に寄与していると言えますね」


晃司「僕もそれと似たような意見です。歴史的に見ても、ほぼほぼ

   科学技術の兵器利用は、平和利用より先に行われた訳で、

   その理由は経済的には、国家等の勢力争いや最低限存続の

   ために一番必要であり、研究開発等に投入されていましたし、

   技術的なことに関しては単純に、兵器利用のほうが、平和利用より、

   その開発等が、簡単であったので、兵器利用によって平和利用は、

   その発展に寄与された、訳でもあります。

   ですから僕は科学技術の、兵器利用すら否定しません」


山本「お前ら敗戦したとはいえ、平和な日本の国民だよな、それでもそうか。

   俺は職業上、日本の兵器開発はどんどん発展してもらわないと

   困るんだが、お前らの日本には、お前らの様な考え方の

   人間ばかりなのか?」


忠和「それは詳しくはわからないですが、自分たちの日本では敗戦を

   迎えたわけで、それによって極端に言うと、自分たちと全く反対の

   意見をもった、左翼と言う人種が敗戦後の日本でも、少数派ですが

   登場します。

   左翼はあらゆる戦争を否定し、我々の日本では、自衛隊があったわけ

   ですが、自衛隊が自衛のために行う戦争、つまり専守防衛での

   自衛戦争まで否定します。

   それどころか自衛隊の存在すら、否定していたかと思います」


山本「自衛戦争までできなかったら、国が侵略され最悪、国民が滅亡して

   しまうだけではないか」


忠和「それが敗戦のせいで、戦後から、アメリカの占領軍、GHQと

   言いますが、GHQの策略で日本の教育を変え、日本軍は悪者だなんて、

   偽の思想を植え付け、日本の教育基盤を根本から操作して、日本国民

   自身に、自虐史観に基づいた教育を行い、更には極端には、

   日本でも左翼なんて、日本人自身が悪物と言う人種が出来るんですよ。

   ひょっとしたら左翼なんて、それまで影を潜めていて、もともと

   持ってる、遺伝かもしれないとも、疑ってしまうくらいですよ。」


山本「大日本帝国の時代なら、そんなやからが思う所を発言しただけで、

   相当重い刑に、処せられるな」


晃司「まあ左翼なんて、僕たちの日本でも、ほとんど事実上相手に

   されてないですけどね。しかしGHQの策略により日本人が日本人を

   悪く言う様な教育が行われ、その様な思想が根付き、多くの人が

   間違った思想を持っています」


山本「相手にされないのは、そりゃそうだろうなあ。

   色んな考え方の人間がいるもんだな。

   しかしなんてことをしてくれるんだアメリカは。

   まあこれから、いくらでも語れる。

   俺も任務があるし、このくらいしとこう。

   いいな健司、今日から晩だぞ。

   先にあいつらと、対局を始めてるかもしれんがな」


晃司「分かりました、頃合いを見て参ります。」


    その後、晃司と忠和は艦内視察を行った。そして夜が訪れ

    晃司は渡辺と藤井を呼び久々に、山本、渡辺、藤井、健司は、

    将棋のリーグ戦をしたのであった。

    そして忠和が出立の日を迎えた。


山本「忠和君、あれからいい知恵を思いついたか?」


忠和「まあ、一応臨機応変に、それなりに対応できるように、作戦の

   バリュエーションを、揃えてみたくらいですね。

   これだけ言ってしまうと、最悪極力味方の犠牲を少なくして、

   晃司に交代するくらいでしょうかね」


山本「そうか、まあ初陣だ。あまり奇をてらったようなことをすると、

   返って致命傷を負う恐れがあるから、それでいいと思うぞ。

   軍艦に関しては戦艦は無理だったが、重巡洋艦を含めて、

   駆逐艦等、合計4隻揃えた。

   細萱中将に手配して送っておくので、思う様に使うといい。

   事前に渡しておいた、細萱中将宛ての命令書は持ったな 」


忠和「ありがとうございます。はい持ちました、自分で手渡します」


晃司「まあ、お前の事や、俺の出番は無いと思うけど、もし無理やったら

   俺と交代してもええから、また交代してそれからかたをつけたら

   いいしな」


忠和「それもそうだな」


山本「まあそういう事だ、よし行ってこい」


忠和「はい、では行ってきます」


    1943年2月上旬、こうして忠和は、旗艦大和を後にして、

    第五艦隊旗艦那智に向かったのであった。


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