第12話

ようやく今日は、待ちに待った神殿に離縁の手続きをしに行く日だ。

あの事件以来、元夫(まだ離婚前だが)とも久し振りに会う。

正直、私的には顔も会わせたくない。でも、みんなが一緒なら大丈夫だと思えるから不思議。

神殿には裏口からそっと入る事になってるの。なんせ、世間を賑わせている二人が揃うからね。


私は鍔の広い帽子に目の細かいベールを付けて、顔が見えないようにした。と言うのも、ちゃんとサインするまでは顔を見せては駄目だって言われたの。

私の顔は確かに美しいと思う。自画自賛に聞こえるかもしれないけど、あの神様の映画館で見た時から第三者的な目で見てたから、素直に思うのよ。

ただ、無表情だったから他人から見れば怖かったと思うけど。

今は普通に喜怒哀楽が表現できるから、かなり印象が違うみたい。

だから、離縁届にサインして、すぐにレン兄様との婚姻届けにサインするまでは顔を見せては駄目だって。


―――そうなの!私今日、レン兄様と結婚するの!!お式はおいおい考えるとして、変な横やりが入る前に手続きしてしまおうって!ふっふっふっ・・・


離縁と共に婚姻すると聞いたのが昨日の事。

日本とは違って、この世界では離縁してもすぐに婚姻できるらしいわ。

その代わり、世間からの目は厳しくなるらしいけどね。

でも、私の場合は離縁原因が原因だから、どちらかと言えば同情的で「良かったね!」と歓迎ムードみたい。嬉しい事だわ。

何よりも、初恋の人と結婚できるなんて嬉しすぎて昨晩は眠れなかったの!

プロポーズはされたけど、結婚はもっと先だと思っていたもの。


神殿に向かう馬車の中で緩む口元を必死で堪えていると、隣に座るレン兄様がそっと目元を撫でてきた。

「眠れなかったの?」

お化粧でごまかしてもらったけど、目元にはうっすら隈が出来てた。

嬉しすぎて眠れなかったんだけど、レン兄様は別の理由で眠れなかったと勘違いしてるみたい。

「嬉しすぎて眠れなかったの。だって、こんなにすぐ結婚できると思わなかったんだもの!」

きっと今の私は喜びで、顔面崩壊してるわ!だらしないくらい。

そんな私を見てレン兄様は目を見開き、頬をほんのり染めながら破顔した。

「僕は少し不安で眠れなかったんだ。朝目が覚めたら、夢だったなんて事だったら・・・・怖くてね」

「まぁ、私とは反対ね。私は、早く朝が来ないか気持ちがたかぶっちゃって。でも、明け方には寝てしまってたんだけど」

起こされて寝てしまっていた事に気付いたけど、ちゃんと眠っていた方があっという間に時間が過ぎたのにと、ちょっと後悔。

「ふふふ・・・アリスといると、色んな事を真っ直ぐに良い方向へと考える事が出来そうだよ」

「そう?私もレン兄様といると、とても穏やかで優しい気持ちになるわ」

お互いに笑い合っていると、向かいからクスクスと笑い声が聞こえてくる。

そう、私とレン兄様の向かいにはお父様とお母様が座っているの。


お父様とお母様はとても仲が良くて、本当に愛し合っているのがよく分かる。

美男美女で未だにモテるのだけど、愛人や恋人など作る事無く信頼し愛し合っていて、私の理想の夫婦像でもあるの。

伴侶を大切にする様は、両親とは血は繋がっていない筈なのに、レン兄様そっくり。

お父様はいつも食事の時にお母様に、手ずから食べさせているの。

家族でお茶するときなんて、気付けばお母様はお父様の膝の上だったって事がよくあるのよ。

幼い頃は私も、レン兄様の膝の上でお菓子を食べさせてもらったりしていたから、不思議に思わなかったけど・・・・今ならわかるのよ!

これが「溺愛激甘ラブラブ夫婦」なのかっ!と。正に「求愛給餌」だわ。

幼い頃からこうだったから、アリスティア自身も何の疑問も持っていなかったみたい。

だけど、幼い頃と違い思春期を過ぎて日本人特有の常識を身に付けてしまった私にしてみれば、見ていてこちらが恥ずかしくなる位よ。

本当、幼い頃はレン兄様にグイグイいってたのが嘘のように。


だから、レン兄様も私に求婚してからは両親と全く同じことをしてきて、長い事一緒にいると似てくるのかしら・・・と、羞恥に悶えてしまう。

今も、私達のやり取りを微笑ましそうに眺めながら二人は、イチャイチャしているわ。

それに負けじと、レン兄様も肩を抱き寄せこめかみに唇を寄せてくる。

別に競っているわけでは当然なくて、なんか我慢をやめたレン兄様の私に向ける感情が、敢えて言うならメーターを振り切っていてめちゃくちゃ激甘!

私の心臓が持たないんじゃないかって思う時があるのよ。

でもね、とても幸せで嬉しいからいいの。


別にずっとイチャイチャしていたからという訳ではないけど、あっという間に神殿に着いてしまった。

初めて見る神殿は色鮮やかで、イメージしていたものとは大きくかけ離れていた。

神殿は白と言うイメージが固定していた私は、極彩色で彩られた美しい建物から目を離す事が出来なかった。


そう言えば、ギリシャのパルテノン神殿は本来は白ではなく色鮮やかだったとテレビで見た事があるわ。

日本の寺院の装飾だって色鮮やかな所があるわよね。考えてみれば。

まるで海の様に青い柱や、赤や黄色、緑などで彩られたレリーフ。

聞けはこの国の観光名所にもなっているらしい。


賑わう正面から、馬車は裏口のほうへと回り込み、止まった。

先に両親が降り、レン兄様と共に降りると優しい眼差しで手を差し伸べ、神殿の中へとエスコートしてくれた。

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