第10話 R side

とうとう、アリスに求婚した・・・してしまった!

嫌がられるだろうか・・・と、緊張と不安で死にそうだったけれど、アリスから言われた言葉に情けない事に半分意識が飛んでしまっていた。


アリスが僕を好き?初恋?まさか・・・自分の都合がいい様に変換されたわけじゃないよな!?


今起きている出来事が信じられなくて呆然としていると、ぽすんと胸に重みを感じ見ればアリスが抱き着いていた。

その瞬間、頭の中で何かが切れる音がして、本能に忠実に行動してしまった自分は決して悪くない、はずだ。


抱き着いてきたアリスを膝の上に抱き上げ、互いの額を重ねた。

溢れ出る言葉が止まらない。

「好きだよ。愛している」

「ありがとう・・・薄情な私を待っていてくれて、ありがとう」

「君は薄情なんかじゃないよ。当然の選択をしただけだ」

「ありがとう。私も好きなの。レン兄様が大好き」


蕩けた様な表情で告白され、黙っていられる男はいるだろうか。

そっと顔を寄せ、可愛らしい唇に触れる。

夢にまで見た、恋い焦がれる女性が腕の中にいる。そして、自分を好きだと言う。

これは夢ではないのだと確かめる様に、レンフォードは一切の加減もなくアリスの唇を貪った。

そして我に返った時には、息も絶え絶えのアリスが健気にも嬉しそうに抱き着いてくる。

その仕草に、又も理性が飛びそうになったが流石にこれ以上は彼女も自分もまずいと、グッと堪えた。


今まで我慢できたんだ。あと少し位、我慢するさ。


ぎゅうぎゅうと抱き着いてくるアリスが可愛すぎて、「僕を殺す気!?」とも思うが、幼い時からそうだったなと思い出す。

好きな事、気になる事には遠慮なく手を伸ばしてくる。別に我侭なわけではないし、強要するわけでもない。

ただ純粋な好意と誠実さを示しながら、無邪気に笑い手を伸ばしてくるのだ。

異性から真っ直ぐな好意を向けられた経験が無かったレンフォードは、戸惑いながらも好きな子から伸ばされた手を握り返し、気付けばアリスを抱きしめていた。

幼い頃は、膝の上に抱き上げ、お菓子を食べさせ笑い合っていた。

抱きしめ合いながら昼寝をしたり、花冠を作ってはお互いの髪を飾った。

年齢を重ねるごとに無邪気な触れ合いは控えるようになってきたが、それでもいつも手を繋ぎ見つめ合っていた。

幸せで優しい思い出。


まるで、あの頃に戻ったようだ・・・

あの頃と違うのは、この触れ合いに想いが重なった事。


握っていたケースから指輪を取り出し、アリスの左手薬指に嵌めた。

指輪が嵌められた手を見つめ、幸せそうに笑うアリスは、正に女神。ソファーに座っていなければ、膝から崩れ落ちていたに違いない。

この世界では指輪の交換という習慣はない。だが、幼い頃に語ったアリスの世界の結婚の時の儀式は、とても魅力的で憧れでもあった。

同じ指輪をはめて互いを縛り付け、互いが誰のものだと知らしめる行為。当然、結婚指輪も用意している。


恋人に、妻に何かしらの贈り物をし、想いを伝える事はあっても、自分の妻だと、彼女は既婚者なのだと言う明確な区別ができるものはなかった。

だからこそ結婚式は盛大に行い、誰が誰と婚姻したのだと世間に知らしめるのがこの世界の習わしでもあった。


確かに結婚式も大事な事だ。けれど、アリスに関しては再婚になってしまう。

しかも離縁の原因が、毒殺未遂。愛人が正妻を殺害しようとするなんて、醜聞もいいところだ。未だに巷を騒がせており、収まる気配が見えない。

原因が原因だから、盛大な結婚式は控えようという話にはなっていた。


――― 一体、誰の結婚式の話なのか・・・


まだ離縁の手続きも終わっていないのに、家族内では既にレンフォードとの再婚話がアリス抜きで進んでいたのだ。

求婚の際に言っていた通り、アリスが拒絶しようと二人の結婚は決定事項。というか、両親はアリスが拒絶するなど考えてもいなかったというのが正しい。

幸いにもその通りになったのだが。

そして、ようやくアリスの体調も安定し医者からも許可を貰い、神殿へ行く日が決まった。

求婚もそうだったが、先に手続きの日程を報告する為に来たはずなのだが・・・


「アリス、離縁の手続きなのだが、七日後に神殿で行なうことになったよ」

「そうですか・・・・」

神妙な顔で頷き、嵌めたばかりの指輪をしきりに撫でるアリスが心配で、そっと顔を覗き込んだ。

本当は、あんなクズ野郎に会わせたくはない。できる事なら、アリスの代理を立てて離縁させたかった。

だが、両親の思いは違っていた。彼等の考えを聞かされ、自分もそれに乗る事にしたのだが、やはり会わせたくない気持ちの方が強い。

「・・・・彼奴に会うのが、怖い?」


怖いだけならいい。彼女の気持ちが揺らいだら?また、僕から離れていったら?

アリスに怖いのかと聞いておきながら、本当は自分が怖いだけなのだ。


僕を好きだと言う言葉は嬉しい。信じられる。

だけど、あの男に会ったら?アリスとアリスティアは一つになった。だけど、アリスティアの気持ちが無くなったわけではない。


彼女は、アリスでありアリスティアでもあるのだから・・・

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