第20話

 一条の防具には一定の攻撃力以下は全て自動で弾く力があった。

 それが現在発動している。


「黒塗りの針、か? めんどくさいな」


 自分の周囲に壁を構築するイメージを一条は構築する。

 氷の壁が一条を包み込み、針が来ようが弾く。

 自動防衛で防げるが、それ以上の攻撃力の武器で攻撃されるかもしれない。

 そのような考えで安全策を取ったのだ。


(にしても数が多いな)


 異常なまでの音が全方位から聞こえる。

 万単位の数の針が一条に向かって放たれているのだ。

 当然、そこそこの時間は攻撃を受ける事になる。

 収まると一条は氷の壁を消す。


(見当たらないな)


 姿も見えなければ気配も感じない。

 剣を構えて警戒するが、ある事に気づく。

 それは、自分のギルドメンバーの存在が居ないと言う事だ。


(何故だ。何処にいる)


 しかも、気配も感じないのだ。


(まさか、殺したのか?)


 だが、と続けて考える。

 確かに暗は人を殺さないと言っていた。

 確かに他人の言葉を信用してはダメだ。だが、本当に殺したのか?

 その考えが一条の頭を巡る。


「何を考えている」


「ッ! 武技【速激斬撃】」


 後ろに現れた暗に向かって高速の斬撃を放つが、暗は屈んで躱した。


「これで3回」


 3本の針を一条に刺す。

 しかし、すぐに抜いて投げ捨てる。

 魔力を流して再生能力を使い、穴が空いた箇所を再生させる。

 暗は一条から少し離れた所にいる。


 右手を一条に向け、掌を上に向ける。

 ゆっくりと、握り締めるように右手を閉じて行く。

 刹那、一条が心臓の位置を抑えて苦しみ出す。


「ググ、な、んだこれは」


「任意性の毒だよ。お前は耐性があるようだから一撃だと無理だったが、何回も違う箇所に打ち込み、体全体に毒を回した。後は私の任意で毒を活性化させる事が出来る。例えば、今やっているように心臓に激痛を与えるとかな。麻痺毒に切り替えれば心臓麻痺を起こす。肺を麻痺させれば呼吸困難で窒息死、脳を麻痺させれば植物人間に、どれが良い」


 毒の活性化を収めて一条の返事を聞く。

 だが、不利だと分かった一条は剣をアイテムボックスに収納し、暗とは反対側に逃げる。

 木が会ってもお構い無しに走って逃げる。

 木を破壊しながら突き進み、そして暗が目の前に現れる。


 足を引っ掛けられ転ける一条。

 一条の今の速さなら暗に追い付かける事はないと思っていた。

 実際に一条の方が速かった。


「ちゃんと人の話を聞きなよ」


 バシュ、一条の右腕が切り落とされる。

 ボトン、と地面に落ちる自分の腕を見て、少し固まった後に発狂する。

 認識したのだ。確認したのだ。分かったのだ。自分の腕が切られた事に。

 その切断面はとても綺麗な物で、糸が巻かれていた。


「い、いつの間に」


「お前が私から視界を外した時だ」


「そんな一瞬で?」


 実際は姿を消して、針を放ちながら糸をそこら中に仕掛けていたのだ。


「回復魔法を使っても無駄だ。それは魔法では治せない病となる。お前の命は私が握っている」


「⋯⋯」


「嘘だと思うのならここから去れ。私が全てを話す前に逃げたら全身の毒が活性化する。他にも、この事を誰かに話しても発動する。再び悪意を持って人を攻撃しても発動する」


「⋯⋯」


「他の人も全員公園の外に出している。さっさと行け。そして同じような事を伝えろ。伝えなくても発動する」


「分かった」


 一条は自分の心臓で感じた痛みと苦しみを思い出し、暗の言葉を鵜呑みにした。

 実際、そんな都合のいい毒は存在しない。

 任意で活性化させる毒だが、効果は1時間程度である。


 一条達が居なくなった事を確認した暗は皆の下に向かった。


 暗を見つけたおじさんは開口一番に暗の心配をした。

 暗はそれが堪らなく嬉しく、にこりと笑い、大丈夫だと伝えた。

 それに安心したおじさんも笑う。


 ◇


 ランダム召喚、それは基本最低レアリティしか出ない代物。

 しかし、一定の割合で最低レアリティよりも1つ上のレアリティを出す。

 そのタイミングこそ七回目である。

 確実に確定を引かせないようにするランダム召喚の考えは当然、俺とシェロを怒らせる結果となった。


 そして、俺とシェロはその怒りを旨に、昇格試験へと来ている。


「アチキも居ますよ」


 俺達3人は規定のダンジョンを攻略した事により、Eランク昇格試験を受ける権利を得た。

 ハンター協会の受付の人にハンターカードを見せればEランク昇格試験を受けさせる認定書を発行してくれる。


 最初はハンター協会の奥にある試験会場で筆記試験だ。

 これはハンターとしての心構えなど⋯⋯要はアンケートだ。

 他にも数人見える。


 シェロを見て幼女、暗はその素質故か、見られる事はなかった。

 フードを被っている暗は本当に気配が薄い。透けて見えるもん。


 アンケートを順に答えて行く。


 Q:どうしてハンターになったか?


 A:俺、成り行きで。

 シェロ、強くなって沢山稼いで、ついでに強く硬い生物を破壊しまくるため。

 暗、いっぱいお金を稼いでアチキに家の作り方を教えてくれたおじさんに恩返しする為。


 Q:ハンターとしての目標


 A:俺、とにかく運気を上げて人生イージーにしたい。レベルを上げて強くなりたい。強くなって仲間の隣に立ちたい。大金稼いで悠々自適のゆったりとした生活を手に入れたい。出来れば巨乳で優しめのお姉さん的なオーラを醸し出す年下の嫁さんが欲しい。


 シェロ、Sランクに上がってSランクの硬いモンスターをギッタンギッタンにしたい。とにかく破壊したい。SランクダンジョンとFランクダンジョンの違いのこの手で確かめたい。壊したい。ダンジョンの内部全てを破壊したい。地面を破壊したい。世界の原理を破壊したい。神を破壊したい。来る終焉の日に訪れる神を破壊したい。壊す。壊す。


 暗、大金持ちになって、恩人のおじさん達に大きな家を買って上げたい。自分の意志を強く持ちたい。ホームレスでも真っ当に生きていると証明したい。ホームレスだから、障害だから、そんなくだらない理由の差別をこの世から全て排除したい。


 Q:ゴブリンに襲われているおばあさんと、ドラゴンに襲われている子供が居ます。どっちを助けますか?


 A:俺、シェロ、暗、どっちも助ける。

 シェロ、ついでに破壊する、

 暗、ついでにぶっ殺す。


 Q:ハンターとしての心構えは?


 A:俺、シェロ、暗、特に無いかも。

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