第16話

 暗は既に協会前に居た。

 暗を連れて協会の中に入って今回の狙うダンジョンを探す。

 そんな時である。


「おいおい。こんな所にガキ⋯⋯」


「ちょ、シェロ何してんの?」


「こいつが私の事を小さいチビガキって言うから」


「小さい2回言ってね? しかもそこまで言ってないし」


 話しかけて来た図体の良いおじさんがシェロを見ながらガキと言った瞬間にシェロがおじさんを殴り倒した。

 あぁ。最悪だ。目の前に協会の人が俺達を睨みながら手をクイクイ動かしている。


 奥の客室に連れて行かれてソファーに座らされる。

 反対側には協会の人が座る。

 協会の人は胸にバッチを付けているのでひと目でわかるようになっている。


「どうして問題を起こしたんですか?」


「違うんです。あの人がこちらの、シェロの事を⋯⋯小さいクソガキのアマと罵詈雑言を言われまして、超絶短気のシェロが攻撃してしまったのです。見てください。この小さな手を。これでちょっと殴っただけで倒れたんです。きっと酔っていたんですよ」


 そんな事を俺が言うと、シェロが俺に聞こえる程度の小さな声でボソボソと言う。


「色々と捏造してない?」


「気にすんな」


 相手をひたすら下げれば穏便に終わる可能性があるんだ。

 だから黙っていろよ、暗!

 凄く俺に対して疑心暗鬼の目を向けている暗よ!


「ですが、実際に小さなお子さんですし」


 確かにね。俺の年齢ならこのくらいの子供居てもおかしくないだろう。

 だがな、シェロは銀髪よ? 俺黒髪よ?

 血縁関係あると思っているのだろうか?

 バカやん。


「シェロ」


「はいはい。これ」


 シェロは懐からハンターカードを取り出す。


「⋯⋯調べてくれ」


 後ろに待機していた協会のスタッフがシェロのハンターカードを取って、部屋を後にする。

 あぁ。凄い睨まれている。

 出来ればさっきシェロに気絶させられた人が起きないと良いな。

 起きても記憶忘れていたら良い。

 レベル20になって、ステ振りも行ったし、実力を確認したいんだけど、本当時間が潰されている。


 それから数分が経ち、さっきのスタッフが戻って来た。


「ほ、本物でした」


「⋯⋯(え、まじ?)」


 ハンターカードはハンター協会から発行される。

 そもそもこんなの偽装して何か得があるのかね?


「あの、もう行って良いですか」


「え、はい」


「シェロ、暗、行こ」


「うん」


「はい」


 場所を移動してFランクダンジョンのゲートの前へと来ていた。


 ◇

 名前:伊集院柊

 レベル:20

 ステポイント:0

 スキポイント:0


 筋力:37

 敏捷:34

 魔力:7

 忍耐:3

 器用:3

 運気:115


 称号

 ・主


 スキル

 ・ランダム召喚 ・筋力強化[2] ・敏捷強化[2] ・運気強化[4]


 魔法

 ・氷属性魔法[2]

 ◇


 これが現在のステータスである。

 技能系のスキルも獲得すべきかとも思ったんだが、ランダム召喚の関係でいずれ強い武器が手に入ると予想して、あまり技術系のスキルは取らない方針で行く。

 ダンジョンに入室して中を進む。

 なんか壁を破壊しながら進んでもあまり速くないと思って、今回は普通に攻略する事に決めた。

 曲がり角はひたすらに左に進む。


 今回のメインモンスターはゴブリンだった。

 ゴブリンは最初の方にシェロが戦った事を見た事がある。

 ナイフを抜いて、ゴブリンに向かって進む。

 ゴブリンはFランクの中のモンスターの中でも下位の方に位置する。

 4体居るので、暗に2体、シェロに一体倒してもらう。

 手に入る魔石は2つ、そして最後の一体を俺が倒す。


 ゴブリンの持つ武器は棍棒である。

 何かコツがないかと聞こうと思ったが、シェロは火力で押し切るタイプ出し、暗は才能による感覚で綺麗な戦いをする。

 うん。参考にならん。絶対に。


「と」


 相手の動きをよく見て、棍棒を振るわれるタイミングで横にステップする。


「主殿〜ステップが大きすぎますよ〜それだとすぐに攻撃に〜切り替えれませんよ〜」


 案外普通のアドバイス。

 喧嘩なんてやった事のなかった俺でも攻撃を躱せる時点でステータスの恩恵はでかいんだな。


「主殿〜狙うは首ですよ〜」


 そう言われてもゴブリンの攻撃を躱す事で精一杯なんですが。

 ゴブリンは俺が大きな隙を見せると両手で強く棍棒を振り下げる。

 あまり知性の高いモンスターじゃないし、なんか行けるかも。


 後ろの方に下がり、壁際まで来る。

 俺がピンチになったら手助けしてくれる約束で、暗を引き止めるシェロが見えた。

 うん。シェロは分かっているようだ。

 体を低くして待機する。

 これでゴブリンは大きな隙と見て、両手で棍棒を構えて掲げ、振り下げる。

 タイミングを見て横にステップにする。

 棍棒を壁にぶつけ、少し後ろに体を仰け反らすゴブリン。

 その隙に接近して、ナイフをゴブリンの首目掛けて先端を向け、突き刺す。

 グサリと刺さり肉を貫く感覚が手に伝わり、ゴブリンを倒した。


「暗のナイフの時は全然感覚なかったのに、今回はめっちゃあるな」


 それだけ暗の武器が優秀なんだろう。

 そこからも同じような事を繰り返しながら進んで、ボス部屋へと移動した。

 2層まであった。

 2層には少しだけ罠があったのだが、暗が見破り問題なく進めた。

 罠に苦しめられた前とは違い、本当に楽であった。


「さて、今回もボスは大きなゴブリンか」


 いやまぁ最初のボスは普通に俺から見たら化け物なんだろうけど。

 ボスの扉を押して、中に入る。

 中には玉座があり、その上に赤色の大きなゴブリンが大剣を地面に刺して座っていた。


「フゥウウガアアアアアアア!」


 大剣を抜き取り、叫ぶレッドゴブリン。

 赤いゴブリンなのでレッドゴブリンと呼ぶ事にした。

 さて、ボスは経験値が沢山貰えるが、今回はシェロに全て任せる事にする。

 ボスを本気で粉砕したいと思うシェロ。


「ガアアアアア!」


 レッドゴブリンが大きくジャンプしてこちらに向かって跳んで来る。

 暗は俺を抱えて遠くに高速で移動する。

 そして、シェロは戦斧を横に構えて大剣の攻撃を防ぐ。

 ドン、と大きな音を鳴らして衝撃波を撒き散らす。

 シェロはケロッとしており、戦斧を横薙ぎに振るいレッドゴブリンを吹き飛ばす。

 クルンと回転して体勢を直して地面に着地する。


 シェロは悪魔の笑みを浮かべてレッドゴブリンへと高速で接近した。

 大きく戦斧を構え、そして横薙ぎに振るう。


「なっ!」


 そこで驚愕した。

 シェロの攻撃を躱したのだ。

 シェロが大きく斧を振ったタイミングで跳躍して躱した。

 初めてシェロの攻撃を躱された瞬間を見た。

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