第15話

 現在の暗は公園の森にいた。

 地面の草を触りながら「うんうん」と頷いている。


「ここなら、寝れるかな?」


 シェロは脳等の改造により寝なくてもいいのだが、暗は黒人間ブラックヒューマンなので寝る必要がある。

 最初は公園のベンチに寝ていたのだが、警察に「ダメだよ」と言われて場所を移動した。

 ステータスの忍耐により寒さは感じないので寝る場所さえあればいい。


「おやすみなさい」


「ちょ、ちょっと君?」


「はい。なんでしょう?」


「どうしてここで寝ているのかな?」


「寝る場所がないので」


 そこに現れたのは、完全に見た目がホームレスのおじさんだった。

 おじさんは頭の上にハテナを浮かばながらも暗を自分のダンボールハウスへと案内した。


「ここで寝なさい」


「いいのか?」


「あぁ」


 刹那、暗の腹からキュルルと言う可愛らしい音がなる。


「こ、これは。お腹が減った合図!」


 キメ顔でそんな事を言う暗。


「これでも食べなさい」


「なんだこれ?」


「え、パンだよ」


「パン? パンとは食えるのか?」


「そうだよ」


 コンビニで買えるようなパンをおじさんは暗に渡す。

 昼飯はファミレスで適当に注文して貰い食べていたが、今回は違う。


「はし、とやらはないのか?」


「え」


「飯は普通はしを使って食べるのだろう?」


「パンは手で食べるんだよ」


 暗は最初スパゲティやコンソメスープを素手で食べよとしていた。

 ステータスの忍耐が発動して、暑さは感じなかったし火傷が出来る訳でもなかった。

 ただ、凄く手が汚れ、食べた後では机や床が凄く汚れて柊が後始末をしていた。


「む? 美味くないぞ」


「それりゃあ袋事食べてるからね。うん。君、変わっているね。こうやって食べるんだよ」


 おじさんはパンを1度取り、袋を開けて中身を出す。

 中身を食べた暗は目を輝かせて「美味い!」と言ってからパクパクと食べ始める。


「はぁ〜美味かった」


 暗はその後、ご馳走様と言ってからキョロキョロし始める。

 その様子にどうしたのか気になったおじさんは聞く。


「お礼したいんだが、アチキの持ち物はこれしかないんだ」


 ハンターカードと16万の札をダンボールで作られた机に置く。


「⋯⋯じゅ、16万」


「この紙がどうかしたのか?」


「いやいや、これがあればこんなパン食べ放題だよ! と、言うか君ハンターなのね」


 最初の頃のハンターは普通、あまり稼げない。

 初期スキルが優秀でギルドにスカウトされたり、ソロで稼いだり、ユニークスキルが有能であったりと、厳しい運が強い人が最初から稼げる人なのだ。

 なので、ハンターでもあまり金を稼げず、武器などが買えず、ダンジョン内部で人知れず亡くなる人は多い。

 そして、ホームレスも金が稼げないのでハンターホームレスも普通にいる。

 ハンターを舐めている人がこう言う事になったりする。


「おじさん。バカ言っちゃァ行けねぇ。飯を買うにはなんか、これと同じ四角いのが必要なんだよ」


「うん。それはカードだね。普通に今でも現金使う人は居るよ? 来なさい。買い方を教えてあげよう」


「いいのか! なら、おじさんにお礼したい! でも、本当にこんな紙切れで買えるのか?」


「買えるよ!」


 コンビニに行き、暗は目を輝かせる。

 何故なら、奥の方に沢山のパンがあったからだ。

 手に取り、袋を開ける暗。


「ちょちょ何してんの?」


「何って、パンを食べようとしているのだが?」


「まだ買ってないのにダメだよ!」


「そうなのか!」


「そうなのだ!」


 それからパンを買い、おじさんが酒を眺めていたので暗が快く買った。

 それからも沢山買って、コンビニで2万円の消費をした。


「いや、済まないね」


「良いって。寧ろ寝床も借りるんだしこのくらいしないと」


 ハウスに帰り、2人でご飯を食べて、酒を飲む。

 暗は酒の臭いがダメらしく、水を飲んで寝た。


 翌朝、ダンボールハウスを出ると、おじさんとその他数人同じような服装の人がいた。


「お、おい村田さん。誘拐は」


「いや、違う違う」


 暗は朝食をホームレスの人達の話しながら食べて、待ち合わせの場所へと向かった。

 2メートル離れると、ホームレスの人達は暗を認識出来なくなる。

 暗は無意識に気配を遮断できる力があるのだ。

 天性の暗殺者は道に迷い、人に聞きながら待ち合わせの場所に行った。


「どうしたのシュナちゃん?」


「いや。さっきの白髪の女の子、話し掛けられるまで気配を感じなかった」


「⋯⋯日本最強と言われているシュナちゃんが?」


「止めてくれ。あぁ、一体あの子は何者なんだ。ギルマスに相談してスカウトしたいな」


「早とちりはダメだよ〜ハンターじゃないかもしれないじゃん」


「いや、そこにハンターカードと金を落として⋯⋯て、落としてる!」


「急ごうシュナちゃん! さっさと持って行ってゲートに行かないと! 私達普段から遅刻常習犯なのに!」


「それはお前のせいだろぉお! 私もそうなるぅう!」


 金髪と茶髪の美少女達が姿の見えない石垣暗と言う人を探す事になる。


 ◇


「寝れなかった。寝たい」


「お前寝なくても良いんだろ」


「マスターは良く寝れるな。もしかして、毎晩そうなの?」


「そうだな。あの二人ってラブラブだから毎晩0時までヤッてるよ」


「良く寝れるな。あんな大きな声聞いて、良く寝れるな」


「慣れてるから」


「あぁ。暗も待っているだろうし、行くか。朝食は適当にコンビニで済まそう」


「そうだな」


 窓を開けてシェロは外にジャンプする。

 窓を閉めて鍵を閉めてカーテンを締める。

 俺達流部屋同居術その1、シェロの出入口は窓である。

 これからは俺が1人で室内で入って、窓を開けて、そこから出入りするシェロ。

 これでシェロの存在がバレる筈もない。靴もこの部屋に隠してあるしな。

 ま、帰りは皆が寝ているかお盛んな時に買えるので、2人で堂々と部屋に戻っているんだけど。


 さて、次は俺の戦いだ。

 成る可く誰とも会わず玄関から脱出する高難易度の戦い!

 だが、父親は会社に行き、母親はキッチンだ!

 ゆーにーは多分寝てんだろ。旅行から数日は休み取っている筈だし。

 奥さんは正直分からないな。

 ま、そんな会わないだろ。


 ドアを開けると、目の前に奥さんが居た。


「あ、あああ」


「その。はい」


 ドアの外に出て、ドアを閉めて、そそくさと階段を降りて玄関から出る。


「どったの?」


 シェロのその言葉を聞いて、俺達は待ち合わせのハンター協会へと向かった。

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