第11話

「ありゃあぁぁぁぁ!」


「ま、マスター! なんで前に!」


 俺はスライムへと接近する。

 伸びる1本の触手。

 俺は覚悟を決めて触手に向かって拳を放つ。

 拳はスライムの体の中に入り服を溶かして行く。


「アイスハンド!」


 手が冷気を纏い、液体であるスライムの体を凍らせて行く。

 すぐに察知したスライムは凍らされた場所を切り離して触手をしまう。


「再生、しない!」


 触手は複数に増えて俺へと伸びて来る。

 バックステップで躱⋯⋯俺の筋力ではそんな瞬発力は生み出せない。

 俺の敏捷では素早く動けない。

 避けれない。


「何してんだぁ!」


 目の前に衝撃波が横切り、シェロが前に立つ。


「何バカな事してんだ!」


「だってさ。そのままだと、負けちゃうだろ?」


「それは、私を信用してなかったからか?」


「違う! シェロばっかりに頼っちゃ、いけないと思って」


「そんな今更。ずっと頼ってくれたら良いのに。下がって。今の体、いや。マスターが注意ヘイトを集めたから、ここまで近づけた。この距離なら核を破壊できる! くらえええ!」


 戦斧を縦に一閃するシェロ。

 衝撃波を生み出し、スライムは体を一点に集中させて防ごうとする。

 それを全て粉砕して無に返し、そして核に僅かに衝撃波が当たる。

 小さくパリ、とヒビが入り。

 その亀裂から新たな亀裂を生み出し、バリバリと割れて、最後にパリンと壊れた。

 スライムの残った体が蒸発して消えて行く。


「何とか、勝てた」


「このばかあ!」


「ごぶ!」


 シェロが地面に平行に突進して来て、俺の腹に突っ込んで来て、俺は後ろに吹き飛ばされる。

 何回も地面をバウンドして俺は意識を、失った。


「このバカ! 弱い癖に心配すんじゃないよ! こっちは隙見て倒せる範囲まで接近してたんだよ! そんぐらい分かるだろ! なんだよ! それすら分からないくらいに心配してたのか! 少し皮膚溶けてんだろ! 骨まで溶けたらどうする気だったんだよ! 私を侮り過ぎなんだよ! 幼女だから心配したのか! おい! 何とか言ってみろよ!」


 シェロは倒れている柊を蹴飛ばして仰向けにする。

 そして、見た。

 泡を吹いて気絶している。


「⋯⋯そっか。こんな感情での攻撃って、危害に含まれないのか。うん。ごめん。多分あれだ。私手加減した覚えないから、きっと気絶する程度に力が弱まってくれたんだ。うん。その。どうしよか」


 シェロは柊を抱えて報酬部屋に行った。



「ん、んん。柔らかい⋯⋯」


「死ね」


「グバ!」


 頭を蹴り上げられ、その衝撃によって俺は起き上がり、地面をゴロゴロと転がった。


「全く、心配させんなよマスター」


「あぁ、ごめ」


 あれ、どうして俺は気絶してんだ。

 右手が痛い⋯⋯皮膚が少し溶けてる。

 いや、だが、確かあの時意識がまだ鮮明に残って⋯⋯は!


「いや、シェロが俺に突進して──」


「ほーら珍しく宝箱があるぞ! 私達初めての宝箱だ! いやー楽しみだなぁ!」


「おいコラ!」


 まぁ、でも。

 シェロはシェロなりに俺を心配してくれたんだろう。

 すげぇ頭痛いけど。


「⋯⋯え、他に言う事ないの?」


「え、ごめん?」


「いや、そっちじゃなくて」


 ⋯⋯一体なんなんだ?


「はぁ。マスターもう1回気絶する?」


「もう夜だ。帰ろう」


 本当になんなんだ!


 報酬部屋には本当に、宝箱があった。

 一つだけボスコアの下にポツンと置いてあった。


「ミミックかな?」


「報酬なのにモンスター居たら俺は泣くぞ」


 シェロと俺は同時に宝箱に手を当てて、開ける。

 中に入って居たのは耳飾りだった。

 鑑定能力が無く、ランダム召喚から出て来た訳じゃないので内容も分からない。

 ちなみにさっきの白魔石はここに放置する事にした。

 ボスコアは手で持って⋯⋯いや、もうここで使っちゃうか。


「ランダム召喚」


 出て来たのは、当然かのようにSの白魔石だった。


「ファ〇ク」


「言葉使いが悪いぞ〜」


 だが、かなりの金が稼げた。

 耳飾りは一度鑑定され、それから能力の説明をされ、売るか売らないかを選択出来る。

 俺達は耳に穴を開けてないし、なんか耳飾りなんてチャラチャラして嫌なので(偏見)売る事にする。


「15万。ハンター稼げるなぁ。シェロのお陰だけど」


「めいっぱい感謝しなさい。当分安静だからね」


「え」


「そんな右手でダンジョンに入って欲しくないの!」


「分かった。じゃあ明日はゆっくり休むか」


「ああ」


 それから俺達は晩御飯を適当なファミレスで済まして家に帰り、色々としてから就寝した。

 同じベットで2人で眠る。


 朝起きると隣にはシェロの姿はなかった。

 ハッとしてドアを見ると、何といなかった。

 今日は全てに1階に行ったのか、俺も起きる事にしよう。

 ベットから足を下ろして立ち上がると、頭を硬い物にぶつけてベットに尻もちをつける。


「いたた、え? えー」


 今度のシェロは天井に足をつけて、真っ逆さまに寝ている。

 それも幸せな顔で。ヨダレがこぼれそうなので拭いておく。

 にしても、凄い寝方だ。

 コウモリか?

 いや、それ以前にどうして髪の毛が下がってない。

 まぁ、こっちとしてありがたいけど。

 取り敢えず着替えるか。


 着替えて下に降りようとした時に俺は時間を見た。


「もう、昼か」


 2人して長く寝てしまったな。

 さて、朝食を食べるか。


 ガチャリ。


「⋯⋯あれ?」


 まさか、まさかまさか!


「ただいま〜」


 帰って来たあああああ!

 えええぇぇえ!

 3日後じゃなかったけ!

 待って、やばいやばい。

 俺カーテン開けてる! 俺の窓の位置はちょうど玄関の方向だ。

 下手したら開けている所が見られたかもしれん。


「あわわわわ」


 だけじゃねぇ!

 シェロ様に歯ブラシ等を買って、帰ってくる前に片付ける予定で洗面台に放置してたんだ!

 やばい。

 やばい。何がやばいかと言えば俺の人生がやばい。


「シェロ、起きて! 本当に起きてくれ! このピンチを打開出来る手口を!」


 シェロを揺らそうとしても全く動かない。

 岩かと思う程に動かない。

 いや、まだ洗面台には行って居ない筈だ。

 今すぐに洗面台に向かいシェロの歯ブラシを回収してくる。

 これで⋯⋯ダメだァ!

 ここで飯を取った事少ないけど、念の為って箸とコップを用意してたんだァ!

 やばい!


「やばいやばい。まじでシェロ起きて! 逃げるぞ!」


 逃げてどうするのか?

 どうする事も出来んくね?

 あーあー人生詰んだ!

 はい、皆さんさようなら!


「いや、まだだ! 今、出て行き洗面台から歯ブラシを取り出して箸を回収する。よし、これで行こう!」


 俺はドアのトッテに手をかける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る