第7話

 今回のボスは人狼だった。

 凶暴で鋭い目に鋭い爪、そして牙。

 数人は殺しているようなその見た目のボス。

 俺から見たら高速で接近して俺に爪を振るおうとするが、シェロの左拳が放たれて、肋骨が粉砕される音を響かせて横の壁へと吹き飛ぶ。


「あいつは喋らないんだな」


「ボスモンスターが喋ったら恐怖だろ。前回は例外だ例外!」


 で、シェロはなんで戦斧を構えているんだろう。


「ボスだし、拳だけじゃ倒せない可能性があるだろ? だから必要かと思って⋯⋯」


「全然必要ないよ? さっき完全に骨が折れる音聞こえたよね? 寧ろボロボロだよね! 止めてあげて。オーバーキルは相手が可哀想だよ。ほら見て、腕が折れているのか足は動かしているのに手は動かせてないんだよ!」


「マスター! 私はダンジョンに入る度に1回は斧を振らないと死ぬ呪いにかかってんだよ」


「そんな訳ないよね? あったらやばいわ! だーめ! 流石にボスの魔石は欲しいから!」


「えーヤダヤダぁ」


「子供は見た目だけにしろ!」


「あ! 今私を小学幼女のちんちくりんのガキって言ったなぁ!」


「どうしてそうなった! 分量も違うわ!」


「えー、いいじゃん! あ」


「あ」


 わがままを言うシェロ。

 ヤダヤダの度に手を振って、本当に小学生のようだったが、右手に持っていた物が手から滑って、高速で飛んで行く。

 人狼の元へと向かって。


「が?」


 こっちを見る人狼。その目は目の前から迫って来る戦斧に釘付けだった。

 済まない。人狼。

 魔石、粉砕。


 報酬エリアでボスコアを手に入れたのでポッケにしまう。ボスコアは最後に使用だ。


「まーた報酬アイテムとかないし。くしし」


 ねぇ、俺の運いじりやめない?


 昼食を軽く済ませてポッケにある魔石を全て売り捌き、今後の為に武器、では無く防具、でもなくバックパックを買う事にした。

 簡単に言えば見た目よりも多く入るカバンだ。

 今回もポッケに入り切らず捨てる事があった。

 少しでも多く稼ぐ為にも沢山入るバックパックを買う事にした。


 バックパックはハンター専門スーパーに行けば安く買える。

 1階はロビーで店の地図などがある。

 2階以降は上に行けば行く程ランクの高い店となる。

 武器専門店とかもあるが、楽に揃えるならスーパーが1番だ。


 俺達は当然F及び持ち金も少ないので安い物を探し2階に行く為、エレベーターを待つ。

 階段なんてめんどくさい。


「にしても、本当にここだとステータス完全に使えるんだな」


「私気をつけないと物壊しちゃうな。不便だ」


 そんな風に考えるのシェロ以外にいるのだろうか?


 どうやってステータスを反映させているのかは分からないが、このようなハンター用の店だとステータスが反映される。

 他にも特定のスキルはステータスの恩恵がなくても使えたりする。


「おい、そこの男」


「ちょ、シュナちゃん」


「⋯⋯は」


 はい、なんでしょう。何かございましたか?

 そう、声に出せたら良かった。

 ギリギリ「は」は言えたが、顔の向きを変えて話し掛けて来た相手を見たら固まって言葉が止まったのだ。

 これだと「は?」ってキレている人だよ。

 しかも話し掛けた人めっちゃ美人やん。

 外人さんかな? 金髪だ。

 もう片方の女性は茶髪の日本人かもしれん。


「おい、どうして女の子をこんな所に連れて来ている。子供を連れて来て良い場所だと思っているのか?」


 こっわ。

 この金髪美女こっわ。

 身長俺よりもほんの少しだけ小さいだけだけど、凄いガン飛ばして来るんだけど。


 ⋯⋯て、シェロはシェロで落ち込んでるし。

 仕方ないよね! 見た目完全に小学生なのにこんな物騒な人の集まりの場所いるもんね!

 でもね、戸籍上は18歳なんだよ! 実年齢知らんけど!


「おい、無視しているのか!」


 してないんだよ!

 緊張しているだけだよ!

 高校入試の面接で苦手な質問来た時の心臓バクバクで言葉が出せなくて「すみません」も言えない状態だよ!

 ちくしょう! 中学途中からヒキニートしてたからそんな経験ないから適当に言ったわ!

 心の中で謝って言い訳しても相手に聞こえねぇんだよバーカ!

 そのバカはこの俺だ!

 あぁ、悲しくなって来た〜。

 出せよ! 喋れよ俺!


「シュナちゃんシュナちゃん。落ち着いて」


「しかしだな、こんな所に小学生の女子を連れて来るのはどうかと思ってな。こんなマナーを知らない男を許してはおけぬ!」


「⋯⋯……もん」


「大丈夫お嬢さん。こんな物騒な所に来る必要ないんだ」


 金髪女性がシェロに近づいて屈んで目線を合わせ、囁くように喋りかける。

 本当に小学生に話し掛けるなら完璧な対応だった。

 見習おうかな?


「…………じゃ、もん」


「え?」


「私、小学生じゃないもん! さっきから何も知らず知ったかのように言っていますがねぇ! こちとら18歳のペーペーハンターだわ!」


「え」


 あ、やばい。シェロがキレた。

 でも、なんだろうか。

 小学生がキレても、笑ってどうしたの〜って言える並の怒りにしか見えない。

 だけど、口調がなぁ。


「ねぇ! そもそもこの場所ハンター及び職員以外侵入禁止だろ! ハンターカードを所持してない人はそもそも入れないロック付きの場所だろ? 少しは考えろや! さっきから人が気にしている事を大声でさぁ!  バカにしてんの? 1番気にしてんのこっちなんだよ! 分かってるよ! 私の見た目が小学生のちんちくりんのガキだって! でもさ! 成人して、ハンターになって、それでも身長、しかも知りたい人にチクチク言われる気持ち考えてよ! はぁ、ちょっとお手洗い行ってくる」


 お前、排泄しないって。

 まぁ、なんだ。


「行ってこい」


 ここは、素直に受け止めてやろう。

 そっか、気にしていたんだな。

 そりゃあそうか。

 これからはシェロの身長いじりは控えめにしよう。


「えっと、その、あ」


「遅かった〜」


 この茶髪の人、気づいていたな。

 金髪女性、シュナさんは女の子であるシェロを見て混乱したのかな?


 このスーパーの入口にはカードスキャナーがあり、ハンターカードをかざさないと自動ドアが開かない仕組みだ。

 当然、それを無くして入ろうとすると警報がなり、ハンター用オートマタが出て来てその人を捕らえる。

 少し、考えて。いや、冷静だったら普通に分かる。


 あ、シュナさんの顔真っ赤だ。

 それはもうりんごよりも、梅干しよりも、真っ赤だった。


「うぁあああああん! わだじだって! 200年後にはお姉さんになってるもおおん!」


 お手洗いの看板がある場所の奥からそんな泣き声が響いた。

 良かった。この2人以外にお客が来てなくて、本当に良かった。

 シェロの恥が世間に露見しなくて、本当に良かった。


「しゅ、しゅみませんでした」


 後でシェロを慰めてやろう。で、この女性2人はさっさと進んでくれ、エレベーターのドアが開いて「まだ〜」って言っているように感じる。

 俺はシェロ待つから。あぁ、言葉が出ねぇ!

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