第6話

「マスター、手加減って難しいな」


「⋯⋯そうだな、って言うと思った? ねぇ、共感出来ると思った?」


「し、仕方ないじゃん! だってこう言うのは後々の事も考えて壁は壊せるように成って、それだとバランスがやばいから再生する仕様になって! で、床を貫通させたら流石にやばいから床は壊せない! そうなったらコレも壊せないと思うじゃん! 寧ろそうあれよ!」


 シェロが指さしたのは、シェロが切り裂いたボス部屋へ繋ぐ扉だった。

 低い位置が切り裂かれボス部屋の中が覗けるようになっている。

 どうしてこうなったか。それは僅か2分程前に遡る。


 2層になってから種類が増えた哀れなウルフの群れがボス部屋の扉近くでシェロに襲いかかった。

 だいぶ手加減(笑)を覚えたシェロは壁を破壊しないでウルフを魔石事破壊した。

 だが、シェロが戦斧を横薙ぎに振るい、止まる所で1歩進む。

 そして押してしまったのだ。

 矢が放たれるトラップを。

 それに気づいたシェロはウルフを倒した余韻の遠心力を利用(多分意味無い)して回転斬りする。

 咄嗟の事のようで矢諸共、扉の下の方を軽く切断した。


「ねぇ、マスター」


「なんだ?」


「やっちゃったぜ☆」


「⋯⋯ツッコミ、欲しい?」


「ちょうだい」


「いや、冷めるから、全然そんなノリで言い訳ないから! ねぇ、分かってる! これまでかなりの時間を使ってここまで来たのに! シェロの練習台のせいで魔石全部消えて! 収益ゼロなんだよ! なのにボス部屋にも入れないってどうなの!」


「いや、まぁ。不可抗力じゃ」


「可愛いけど、やっている事は可愛くないから!」


「ナチュラルに可愛いとか言っているとお前いずれ腹刺されて体バラバラにされるぞ」


「子供的な可愛さを言ってんだよ! 女性的に言ってねぇよ!」


「それをマジレスするのはナチュラルクズだな。いいじゃん。どうせマスターがレベル上がってんなら。さて、帰ろっか」


「いや、次のダンジョン行くよ? 今度は拳で戦ってね」


「私のメイン斧なんやけどな。手加減難しい」


 俺達は目の前の『事件』を無視して次の場所に行く為に、来た道を泣く泣く帰る事にした。

 さて、何があったか?

 切り裂いた場所からダンジョン部屋を覗いて見たのだ。

 そしたら、無かった。

 ただのだだっ広い空間しか無かった。

 それに驚いた俺達。

 石ころは無いので、好奇心で手を入れて伸ばして見る。

 そしたら、ボスがなんの前兆なく出現したのだ。

 そして、扉は開かなくなり、壊せなくもなった。


「あ、俺も少しは悪いな」


「好奇心には勝てぬ」


 ボスの出現条件、ボス部屋に入る。


 そんな事は無視して次のダンジョンに向かった俺達。

 そこには複数人の人がいた。

 どっかのパーティか、最後の作戦会議でもしているのだろう。

 現在午前10時。

 サックサククリアして昼食を取りたい。

 ま、俺は見て経験値を貰うだけだけどね。


 今回のメインモンスターはコボルトだった。

 ゴワゴワとした体毛を纏い、短い剣を持っている。


「武器持っているし、戦斧使っていい?」


「魔石残して倒せる?」


「ん〜〜不可能。うっし、ちょっくら私の鉄拳見せて来る」


「急げよ〜さっきの人達と揃うのは避けたい」


「それは、賛成だっね!」


 高速で接近してコボルトの顔面をパンチした。

 激しい音と骨が折れるような音、そしてコボルトの顔が宙を舞い、俺の足元へと来る。

 ちょ、やばい。目とあった。

 気持ち悪い。上見とこ。トラウマになりそう。


 白魔石が3つ手に入り、ポッケにしまい走って先に進む。

 やっぱりと言うかなんと言うか、Fランクだとシェロの相手にはならないな。


「シェロってどんくらいのランクのモンスターを倒したらレベル上がるの?」


「知らねぇ〜必要経験値って可視化されないからな。不便だ。きっとこれを入れた奴が設定めんどくさかったんだろうな」


「だったらレベルシステムとかないだろに」


 先に進んで行くと分かる迷路。

 で、結果として迷宮とかめんどくさい俺達、シェロが無言で本気付近の戦斧を召喚して壁を粉砕する。

 再生する前に通過して行く。


「ダンジョンの壁って持ち帰れたら高く売れそうだな」


「ポッケにしまったらそのまま吸い込まれて壁に貼り付けになるかもな」


「その場合は服、破る?」


「疑問形やめな。と、今回はすぐだったね」


「そうだな」


 Fランクの迷宮は小さいと言われているが、あれは列記とした嘘だ。

 壁を破壊しながら進んでいるのに、全然階段見つからず、殆ど2時間は掛かる。一般ハンターは1時間らしい。

 時には端の壁に当たった時もあった。

 端の壁は壊せない。


「ダンジョンの楽しみって壁の破壊しかない気がして来た」


「その意見にシェロ以外に共感してくれる人いるかな?」


「ランダム召喚で出してくれ。月1回の確定で」


「おいおい、そこは確定以外で出すのが、俺ってもんじゃないのか?」


「ソシャゲの推しキャラ季節限定キャラ出すのに何連?」


「何を馬鹿な事を、当然天井さ」


「良かっな、天井システムあって」


「あぁ。まじで紙運営って思ったよ。最高レアリティもねぇから」


 ふ、ちょっと目にゴミが入ったかな?


 まぁ、真面目に考えて確定の時って演出違うのかな?

 最低レアリティの演出って変換ないけど。

 まぁ、ハンター歴2日の俺に分かる事は少ないか。


「マスターって家族の事ってどう思ってんの?」


「なんだよ藪から棒に」


 2層を進み、コボルトを鉄拳よりも硬い拳で頭を遠くに吹き飛ばし、俺が魔石を回収しているとシェロがそう言って来た。


「なんともないよ。家族は俺に無関心だからな」


「そうか? 無関心なら飯はやらないだろうし、お小遣いもやらんだろ。旅行に連れて行かなかったのは、ただ単にマスターがヒキニートだったからでは?」


 はいそこ、そこは引きこもりだけで良いでしょ。

 わざわざニートは要らんて。


「ダンジョンの壁もランクが上がれば硬く成るのかな?」


「それを検証する為にもランクを上げないとな。それに、マスターのレベルも上げないと、真面目に運気以外も上げないと辛いかもね。スキルだけでは誤魔化しが効かないし」


「確かにな。こう、極端に強い仲間が居ると足並み揃えれないから、なんか、こう難しいな」


「本当だよ。私はMMOゲームの『初心者大歓迎』とパーティ掲示板を出して、マスターがそれに入った感じだよ」


 それって殆どが初心者狩り(偏見)か初心者が寄生虫になるだけだからなぁ。

 あ、そうなると本当に俺害悪初心者プレイヤーだな。


「なにわろてんねん。きっも」


「すまんな。気にしないでくれ」


「分かった」


 理解力の高いパートナーだぜ。気をつけよ。

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