第70話
そう奏多が言うと、家のチャイムが鳴った。
「ちょっと待ってください。来客です」
「うん、待ってるから行ってきな」
あまりにも間が悪いが、奏多さんが良いと言ってくれたので玄関に向かう。樹が宅配でも頼んだのかな。今までも配信直後に宅配が届くことはたびたびあったし。
別に良いけど事前に連絡してくれよ……
「はーい」
なんてことを考えながら玄関の扉を開ける。
すると、
「「こんばんは!!!!!!!」」
そこに居たのはアスカとリサさん、オーサキさんと見知らぬ女性が二人。
「え、まさか……」
「そういうこと。行くわよ」
事情を若干察したところで、背後からサケビが声を掛けてきた。
そのまま、パーティ会場であるサケビ専用の配信部屋へと移動した。
「どう?驚いた?」
そしてリビングに入ると、どや顔気味な奏多さんが待ち構えていた。
「驚きましたよ。言われたらわかりますけど、普通分からないんですよ」
「そっかあ、そっかあ」
その解答を聞いて楽しそうに頷く奏多さん。
「奏多さんが同じ状況に置かれたら絶対分からないですよね」
「いや、僕はそういう状況に置かれることは無いし」
「その逃げ道は駄目です」
それで逃げるのは駄目でしょうが。
「って言われてもなあ。多分わかるんじゃない?」
「あなたはそういう人でしたね……」
この人に聞いた俺が馬鹿だった。配信上で何度も見てきたんだから分かれよ俺。
皆が配信部屋に居たことを示すヒントとしては、一つはサケビが樹の部屋で配信をしていたこと。サプライズで登場するにしても近いんだから自分の部屋でした方が楽だ。
もう一つは最初の挨拶以外は全員が同時に話している機会が無かったこと。
同じ部屋で通話に参加した場合、お互いのマイクに声が入ってハウリングするので話す側だけPCにマイクを接続して、話さない方はPCのマイクを切って黙っていたのだろう。
どちらかのPCだけで参加すれば良いだろと思うかもしれないが、rescordは話している人のアイコンが光る仕組みになっているので、二人が同じマイクで話していることは一瞬で気づかれるから駄目なのだ。
一応三部屋使えたので、三人までぎりぎり同時に通話できたのだろうな。
ここまで入念に隠していても、普通に全員で雑談したりゲームしたりするタイプのコラボならどうあがいても違和感に気づいていただろう。
しかし、今回のコラボは必ずしも全員が同時に喋る必要はない。奏多と告白者と俺だけ喋っていれば特に問題は無いからな。
無駄に考えやがって。ってことは打ち合わせ直後の離席はそれ含めての作戦会議か。よく考えたらただ告白して俺と奏多と話すだけなのに15分は長すぎるわ。
こいつらの行動力にあきれ果てていると、チャイムが鳴る音がした。ここに全員居るはずなんだが。まさかファンクラブが全員集合するのか……?
「出前来た」
と思ったら全然違った。出前だったらしく玄関にいち早く向かったアスカが食べ物をもってリビングに戻ってきた。
「とりあえず机取ってきますね」
食べ物が来たのは良いものの、8人が同時に食事できるような机がリビングにあるわけがないので、俺の部屋の方から机を一つ持ってきた。
「というわけでお二人はここに座ってください」
そして俺とフィリアさんは上座に座らされた。
「こういうのって先輩とかが座るんじゃないんですか?」
Vtuber歴にしても年齢にしても奏多さんとかオーサキさんの方が上である。だから俺たちが座るのはおかしい気がする。
「Vtuber業界は基本的に個人の集まりなんだから先輩も後輩も無いだろ。ただ同じ仕事をしている仲間が居るだけなんだから。今日は二人が主役なんだからそこに座っとけ」
すると、オーサキさんがそんなことを言った。Vtuber業界に先輩後輩なんてなく、同じ仕事をしている仲間か。
「そうですね。ありがとうございます」
「ってことでヤイバ、フィリア!二人ともため口で喋ってくれよ!」
「流石にそれは違和感しかないので難しいですよ……」
オーサキさんはそう言うが、アスカはともかくとして年上の人にため口で話すのは心理的抵抗感が強い。
「わかりました。じゃあよろしくね、オーサキ」
「え?フィリアさん!?」
同じく敬語でしか話せないよねって勝手に思っていたんだけど。
「ため口で良いって言われているんだから別に良いでしょ?」
「まあ、そうなんですけど……」
フィリアさんって多分20歳になるかならないかですよね。年齢で言えば俺の次に若いですよね、新人なのにそれは肝座りすぎじゃない?
「とにかく、炎上終息を祝して乾杯だ!とりあえず酒を持て!!!」
そういってオーサキさんは事前にコンビニで買ってきたであろう缶の酒を全員に手渡していた。
「あの、ジュースいただけます?」
現役高校生の俺も全員に含まれており、右手にはちょろ酔いのもも味があった。
「おっとそうだった。Vtuberで未成年な奴って殆ど居ねえから癖でつい、とりあえずこれで良いか?」
そういってオーサキさんは紙コップに四ツ矢サイダーを注いで渡してきた。
「ありがとうございます」
全員が酒を飲む想定だったせいで割る用のサイダーしか買っていなかったんだろうな。まあ普通の炭酸水じゃないなら問題ないけど。
「ってことで奏多!あとは任せた!」
「え、僕?今日の主役のフィリアさんかヤイバ君じゃなくて?」
「それもそうだな!二人にやってもらうか!とりあえず立ってくれ!」
オーサキさんが乾杯の音頭を取る流れだと思って安心して腰かけていたら、突然流れ弾が飛んできた。
飲み会なんて行けるわけがないからこういうのやったことないんだけど……
とりあえず言われるがままに立ち上がった。
「じゃあフィリアから頼む!」
とりあえず俺からじゃなかったし、フィリアさんの様子を見て真似ようかな。
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