第69話
「ヤイバ君————」
そしてオーサキの告白が始まった。
結果はもちろん、
「優勝はオーサキです!おめでとうございます!!!!」
「よっしゃあああ!!!!」
オーサキさんの優勝である。
「うん、これは負けたよ」
「まさか、あそこまでの告白が来るとは思っていなかったよ……」
そして、敗北したファンクラブ会員の方々も全員納得しているようだった。
理由はなぜか。単純に一番出来が良かったからである。
確かにオーサキは女性役だったのにゴリゴリの男声だった。しかし、内容はここに居る誰よりも素晴らしかったのだ。
事前に用意していた台本が素晴らしいものだったという理由もあるのだろうが、その台本を読むオーサキの演技力が圧倒的だったのだ。
どう考えても男だったのに、一瞬今話しているのは儚い女性なのでは?と錯覚させられるほどだった。
だからこそ、明らかにミスマッチな役を演じた上で納得の優勝を勝ち取ったのだ。
一応、男が女として生きるバーチャル美少女受肉Vtuberという概念が存在することも後押しになっているのかもしれないが、優勝候補から外れることは無かっただろう。
「さて、商品が授与されるわけですが、使い道は決まっていたりしますか?」
優勝賞品が与えられたということで、奏多はテンプレの質問をオーサキにしていた。
「ああ、コラボ内容はまだ内緒にしておきたいから言えないが、お願いする内容と100万の使い道は決まっているな」
「それは何でしょう?」
「お願いするのは歌ってみたコラボで、100万は動画の外注とかの費用に充てる予定だな」
「それってつまり100万円を全て俺の為に使うってことじゃないですか」
あまりにも俺にメリットしかなさすぎるだろ。もう少し自分の為に使ってくれ。
「ヤイバから見ればそうかもしれないが、俺からしても自分の為に使っているんだよ」
「自分の為?」
「ああ。この権利を使えば好きな歌を要求できるだろ?」
「なるほど……」
拒否権が無いので、基本的にはどんな歌でも要求できる。
例えば可愛いアイドルソングや、下ネタ曲など、九重ヤイバとしてのブランディングとはかけ離れたものでさえ依頼できる。
そう考えれば自分の為と考えても不思議ではない。
「それに、俺はサケビと同様にヤイバの歌が大好きだからな。一緒に歌えるってだけでたいそうなご褒美だよ」
「それは光栄ですね」
「というわけで、たった今オーサキ×九重ヤイバの歌ってみたが実現することが決定しました!投稿がいつになるのかは不明ですが、皆さんぜひお楽しみに!!」
と奏多さんが会話を纏めた後、各々の今後の配信予定だったり、ボイスの販売予定だったりの連絡を済ませた後、配信は終了した。
「よし、配信は切れたね。お疲れ様!!!皆!!!」
配信が完全に切れたことを確認した奏多さんは、配信の時以上に元気な声で俺たちを労った。
「お疲れ!!!!!」
「やったな!!!!!!」
「Foooooooooo!!!」
「祝杯だああああああ!!!!」
それに呼応するように、サケビとフィリアさん以外の4名が超ハイテンションで叫び声を上げていた。
「お、お疲れ様です」
「ありがとうございました……」
「お疲れ様」
その勢いのあまり俺とフィリアさんは返事はなんとか出来たものの、若干引いていた。
一方のサケビさんは全く動じることなく淡々と挨拶を返していた。
「急にどうしたんですか?配信終了後ですよ?」
「そりゃあ全てが解決したからに決まってんだろ!祝杯上げないと損だぞ!!!」
俺が理由を聞くと、オーサキさんがそう言いながらプシュッと缶を開ける音が聞こえた。おそらくビールだ。
「全てが解決って?」
「そりゃあフィリアちゃんのところの炎上だよ。可能性は半々だったけれど、どうにかなって本当に良かった」
更に聞くと、アスカが答えてくれた。
「本当だ……」
それを聞いてツリッターを確認してみると、『やっぱり誰も悪くないじゃねえか。誰だよクロが悪いって言ったやつ』、『今回もVtuber業界は平和だった。クロはやっぱりビジネスドS』等炎上していた理由が見当違いだと理解するコメントだらけだった。
「本当にありがとうございます……!」
「ファンクラブとして当然だよね。ヤイバ君のコラボ相手が不当な理由で炎上しているなんて駄目だよ」
「そうだそうら、ヤイバ君に悲しい思いをさせる輩はVtuber業界から追放するのが私たちファンクラブの義務だぞ!!!」
フィリアさんのお礼に対し、当然の事だと話すカナメさんとリサさん。
リサさんは配信終了してから数分も経っていないのに若干酔っぱらっているらしく、少々過激な発言をしていらっしゃる。
「誰も追い出していないですよね」
「……どうだろう?」
流石に酔っぱらいの戯言だとは思うけど、本当に追い出していたら大ごとなので聞いてみたら、奏多さんが少々怪しげな返し方をしてきた。
「追い出していないですね。わかりました」
奏多さんがこういう返しをしているときは8割は嘘なので適当に流した。
「ってことで30分後からパーティを開く予定なんだけど来る?」
「明日は学校もコラボもあるので……」
炎上が解決しためでたい日だから参加したいけれど、流石に明日に響くので奏多さんの誘いは泣く泣く断った。
この間のアキバVtuber祭で聞いた感じ奏多さんの家ってここから遠いみたいだし。
「距離的な問題なら大丈夫だよ。ちゃんと近いところを借りてるから」
「借りる?」
ここら辺って住宅街で何もなかったはずだから借りることができる場所って無かったよね。
「うん、それもヤイバ君は何度も行ったことがある場所だよ」
「行ったことがある場所?」
何度も行ったことがあるところで借りれる場所ってどこかあったっけ?
「うん。ヒントは配信中に転がっていたはずだよ」
ヒントが配信中に……?
俺は必死に頭を回転させる。何かあったか……?
設定に出てきた場所か?でもどこも現実的ではないよな……
「というわけで、答え合わせといこうか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます