第68話

 多分配信上ですべて話した気がするんだけど。


「実はクロさんがヤイバさんのところに突撃して、コラボウィークを取り付けさせたのって私のお願いなんですよ」


「え?」


「今後いろんな人とコラボができる方向性を残すために初っ端男性とコラボしておいた方が良いって案は運営が考えたことなのですが、誰とコラボするかに関しては未定だったんですよね」


「相手の都合とかありますしね」


「はい。で、最初の候補としては私たちと同じく企業勢のVの方々とコラボをしようという話でした」


「まあ、それが普通ですよね」


 企業に所属していた方が信頼度は高いから、絶対に失敗できない最初のコラボ相手としては最適だからな。


「ただ、私はそこで無理を言って、その相手を企業Vではなく九重ヤイバさんにしてほしいと強くお願いしたんです」


「そんなことがあったんですね」


「はい。でも、ヤイバさんは個人勢だからということで社員さんは否定的でした」


「でしょうね」


 個人勢な上に、中身はただの男子高校生だ。企業が信頼を置くにはあまりにも無茶がありすぎる。


「ということで、私は社員さんに九重ヤイバというVtuberがどのくらい信頼におけるのか、そしてコラボをすることでどれだけの益が得られるのかのプレゼンをしました」


「ええ……」


 そこまでするかね普通。初回じゃなければコラボなんていくらでもできると思うよ?


「その結果、社員さんも納得してくれて、ヤイバさんに依頼しようという流れになりました」


「うん。よくわかりました。でもどうしてあの依頼方法になったの?」


 普通に企業が直接依頼した方が良いんじゃないかな。


「私が冗談半分で九重ヤイバさんがファンとの交流イベントで依頼された内容は全て受け入れると言っていたので、そこでお願いしたら確実じゃないかって話をしたらクロさんも社員さんも面白がっちゃいまして」


「大丈夫なんですかその事務所」


 ノリが良すぎるにもほどがあると思うんですが。


「はい。本当に良い事務所だと思います。本当に」


 軽く聞いた質問だったのだけれど、なぜかフィリアさんから闇が発せられた気がした。過去に何があったんですかね。


「だから、今回の炎上で一番悪いのは私というか、全て私が悪いんです」


「そんな、別に俺は嫌だと思っていないし、むしろ感謝しているのに」


 こういう機会じゃないと見知らぬVtuberとコラボするきっかけなんて無いから、本当に感謝しかなかった。


「いえ、炎上したのだから私は悪いんですよ。だから私は奏多さんに連絡して、今回のコラボを雑談から告白会へと変更してもらったんです」


「それは本当に悪い人ですね。炎上させたのはフィリアさんが悪いですね。是非とも責任を取ってください」


 元々はもっと平和なコラボだったってことだよな。なんて酷いことをするんだ。



「でも断らなかったってことは良いってことですよね?私たち演劇部とのコラボを受け入れたみたいに」


「配信直後に知ったのにどう断れと?」


 告知が始まる前に内容を伝えていた場合に出来る発言だよ。


「普通に起こって通話を切っちゃえば良かったじゃないですか」


「そんなことしたら大炎上待ったなしですが」


「何はともあれ、これが今回の炎上における真実です。私以外誰も悪くありませんので、叩くなら私でお願いします。以上です!」


 文句はいろいろ言いたかったが、無理やり話をぶった切ってきた。


「はい、お疲れさまでした~」


 すると、奏多さんがミュートを解除し、さも告白が終わったかのように乱入してきた。


「告白は!?!?!?!?」


「聞いてましたよね?フィリアさんの告白」


「告白違い!!!!」


 告白は告白でもその意味の告白かよ。


 ってそうか、フィリアさんの告白をする口実作りのために今回の告白会というコラボを企画したのか。


「あっ、ヤイバさん。好きです付き合ってください」


 なんてツッコんでいると、フィリアさんが突然告白してきた。


「ノリが軽すぎる!」


 友達に対する挨拶の方がまだちゃんとしているよ。


「やりたくなかったら断ってる、か。なるほどヤイバ君って素を出したかったんだね。うんうん、我慢してたんだね」


「違うわ!!さっさと次に行け!待っているでしょうが!」


 妙な結論を出されると面倒なのでさっさと次に行ってもらった。



 次の告白者はオーサキさん。今回のトリを務める方であり、唯一の男性告白者でもある。


 これまでの人たちの中にまともな人は一人として居なかったので、最後くらいはまともな告白を期待したいところだが、男性であるという時点で無理がありすぎる。


 オーサキさんが同性愛者なら普通の告白になる可能性もあったのだけれど、流れてくる配信や切り抜きのサムネイルやタイトルを見た感じそんなことはなかった。


 ビバ胸&尻!という文字と共に、キャラクターの胸と尻だけを表示したサムネイルがあったり、R18っぽいゲームの案件をやっているような人だし。


 にしても九重ヤイバのファンに碌な奴は居ないのか。クラスメイトもそうだが、今のところ直接かかわってきたファンは変わり者しかいない。


 ファンは配信者に似るらしいのだが、現状一切似ていないぞ。もう少しまともであってくれ。



 そして例にもれず変人であるオーサキが指定してきた状況は、高校の文化祭の1週間前。俺とオーサキは文芸部に所属する2年生。部員は他にはおらず、どちらか一方でも抜けた瞬間に廃部になるし、来年部員が集まらなくても廃部は確定。そんな危機的状況を打破するため、文化祭の出し物に全てをかけて準備しているらしい。


 今回の告白者の中でもダントツに設定を練りこんでおり、気合が入っていることは分かるのだが、ほぼ確実にネタに振り切れる気がする。


 だって今回、オーサキさんは女性だという設定だし。


 流石に無理がありすぎる。声質的にボイスチェンジャーで女性っぽくできないだろうから、ゴリゴリの男の声で女性のセリフを言う以外ないのだから。


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