第67話
「はい、お疲れさまでした~ どう、カナメさん。緊張した?」
「そりゃあね。今でも手も足もぶるぶる震えてるよ」
「ありゃりゃ。でも良い告白だったよ。僕としては暫定一位を上げたいくらい」
「よかった~!入念に準備した甲斐があったよ~」
「ね、僕も誘ってよかったと思ったよ。で、100万円もらったら何する予定?」
「もちろんヤイバ君へのスパチャだよね」
「おおっ、ファンクラブらしい使い道だね。でもお金は大丈夫なの?先月結構怪しいって言っていたでしょ?」
「大丈夫だよ。ヤイバ君の配信を見れば二日に一回食事なしでも生きていけるから」
「それ死ぬよ!?」
「大丈夫。むしろ健康になるよ。奏多ちゃんだってあの子の配信を見たら食事無くても生きてけるでしょ?」
「もちろん————」
告白タイムが終了した後、カナメさんは奏多さんと延々話し続けていた。それも絶対に俺が間に入れないレベルのスピードで。
「お二人さん、ちょっと脱線しすぎじゃないですか?」
最終的に今日の晩御飯は何にするかというまったく関係の話題に入りかけたタイミングで、見かねて無理やり間に入ることにした。
「あっ、そうだね。これで柊カナメさんの告白は終了です。それでは次の……」
「まだ行かせませんよ?」
「でも時間が……」
「時間は余裕ですよね」
「ほら、皆人気配信者だからさ、貴重な時間を奪うわけにはいけないじゃん。ね?」
「ね?じゃないですよ。一言くらい言わせてくださいよ」
「時間が……」
「時間が、じゃないです。なら勝手に言いますよ。柊カナメさん!あそこまで完璧な告白だったのに、どうしてあんなBGMを選んだんですか!!!!」
柊カナメさんの告白は非の打ち所がないレベルに完璧だった。前三人が全力を出したところで勝ちようが無いレベルに。
しかし、今回俺が脳内でつけた点数はその三人と同列だ。
理由はBGM。
カナメさんが用意したBGMは告白に適したいい感じの曲ではなく、インフルエンザになったとしても夢で見ないレベルの狂った音楽だったのだ。
おそらく音MADに分類される音楽だとは思うが、元ネタが分からないのでただのMADである。
正直、カナメさんが何を言ったかなんて全く記憶に残っておらず、完璧だったという情報のみが脳内に記憶されている。本当にすべてが台無しである。
「滅茶苦茶良い感じの音楽だったでしょ?」
「どこがですか。あのBGMで告白したら100年の恋ですら冷めますよ」
「わかってないね。奏多君どう?」
あれが告白に良いBGMだと思うのであれば一度精神科への受診をお勧めしたいんですが。
「いやあ、最高に素晴らしい音楽だったと思うよ。カナメさんの音声を利用した音MADだったしね。魅力が10割増しだよね」
「奏多さんがそっち側なのは知ってましたよ」
悪乗りのし甲斐がある音楽でしたもんね。というかあれカナメさんの声を使っていたんですね。
「いやあ、まさかヤイバ君に通じないとは思わなかったなあ。残念」
「今回は運が悪かったですが、次回は見事な告白を見せてくれると思います。ありがとうございました!」
次もあるんですかと聞きたいところだが、聞いた瞬間に次回が確定してしまいそうなのでぐっとこらえた。九重ヤイバへの告白会を定例企画にしてたまるか。
仮に葵が来たら楽しめるかもしれないが、どう考えても絶対にありえないからな。
そして次に待ち構えていたのはチャット以外で会話したことが無く、本来なら今日タイマンコラボの予定だった白沙フィリアさん。
文面上はかなりまともな人という印象だが、今回の告白会の為にコラボを突如中止にしたこと、そしてデビュー間もないのにファンクラブの一員になっているという事実が非常に気にかかる。
今回も指定する状況などは一切なく、そのまま告白するようだ。
「初めまして、九重ヤイバさん」
「こちらこそ初めまして」
最初は無難に挨拶から始まった。
「今日は唐突にコラボを中止にしてしまい本当に申し訳ありません」
「別に構わないですよ。いろいろあったでしょうし」
「そういっていただけると幸いです」
フィリアさんの表情を伺うことはできないが、安心しているように見える。奏多さんが原因とはいえ、一切の事前相談が無かったしね。
「で、そのコラボに関してなんですが、今絶賛大炎上してますよね」
「そ、そうですね」
コラボの話はそれで終わりかと思いきや、フィリアさんはその先に踏み込んできた。大丈夫かな……?
「理由は主に私たちのボスであるクロさんが半ば脅しのような形でコラボを強要したからたしいですね。実際強要されたこと自体は事実なんですよね?」
これはどっちだろうか。
「まあ、強要されていないと言われれば嘘になりますね。でも弱みを握られたからとかではないですよ」
中途半端に誤魔化してフィリアさんのペースを乱した方が危険な予感がしたので、誤解が生まれないようにフォローはしつつ正直に話すことにした。
「ですよね。私もトークイベントに参加した人の要求は出来るだけ応えるという公言を悪用しただけだって話って聞いてます」
「ですね。だから今回のコラボウィークは正当な権利ですし、特に不満も無いです。正直今の告白会の方が炎上されてしかるべきですね。確実にこっちの方がおかしいですし」
なんて感想を述べると、奏多が突然配信画面に
『これは正当な権利に基づいたコラボだ!僕は悪くない』
という文字をでかでかと表示させた。
「まあ、別にどっちも嫌じゃないから受けているわけですし。それに完全にNGだったら詰められた時に断ってますよ」
やることはファンとの交流会の時間内に限りますとか言えばいくらでも断れるし。
「まあ、そうでしょうね。ただの口約束ですから。でも、世間はそうはいかないでしょうね」
「でしょうね」
この発言ですらも強要されたとでも言ってしまえば終わりな話であって。
「だから、皆さんに真相をお伝えしようかなと思いまして」
「真相?」
------------------------------------
本日が土曜日であることを完全に忘れていました。申し訳ありません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます