第65話

「はい、というわけで良い脅しかと思いきや途中で失速し、反撃を食らいかけている東雲さんの告白タイムは終了です!」


 そしてあまりにも丁度いいタイミングで奏多が入ってきて、次の相手であるサケビの番となった。



 今回サケビはシチュエーションや環境などは一切指定せず、完全な素の状態で行われるとの事。


「さて、私の番になったわけだけど、分かっているわよね?」


「分かっているとは?」


「優勝賞品よ」


「優勝賞品?」


「100万円よ。あなたが私を指定した場合、私たちが全て好きに使えるということよ。実質的には中抜き無しの完璧なスーパーチャットよ?」


「え……」


 告白する前にとんでも無い事言ってきたよこの人。絶対ダメに決まってるでしょ。


「奏多さん……?」


 流石にここは気になったので奏多さんを召喚することに。


「別に問題ないよ。なんでもアリって言ったのはこっちだし、これが優勝するのは普通に面白いし」


「良いんだ……」


「それに、この形だとヤイバくんにお金が実質的に回るってことだから親衛隊としては歓迎だと思うよ」


 奏多さんがそう言うと、rescord上で皆がその選択を肯定していた。


「じゃあこの告白会って何なんですか」


「ヤイバくんに好きなことを言って気持ち良くなる会だけど」


「言い方よ」


 もう少しマシな言い方は無かったのか。一応この企画の立案者でしょうが。


「というわけで続きどうぞ!」


 そんな俺の感情が伝わる前に奏多さんはマイクをミュートにして引っ込んでしまった。


「というわけで合法的に100万円を受け取れるわ。だから是非とも私を選ぶべきよ」


「ちなみに、残りの特典はどうするつもりで?」


「お願いに関しては、一生私がリクエストした歌ってみたを何でも歌ってくれることにするわ」


「負担重くないですか?」


「大丈夫よ。短くても二週間に一曲とかにするから」


「なら現実的なのかな……?」


 収録自体は1日とかそこらで終わるっぽいし、それが月2回位って考えるとまあ……


「で、もう一つのサシコラボ権なんだけど、別に無くてもコラボしてくれるわよね?」


「そりゃあそうだけど」


 別に断る理由も無いし。


「というわけで適当な相手に転売することにするわ」


「え?」


「お金は大事だもの。機材にどれだけのお金がかかると思っているの?」


「いや、分かっているけどさ……」


 プロの歌い手さんの中には350万くらいかけている人が居るんだっけ?


 動画を無理やり見せられたから覚えているよ……


「だから、頑張ってきなさい。何されるかは分からないけど」


「ええ……」


 酷い話もあったものだ。100万円+αを獲得するために見知らぬ人とコラボさせられるかもしれないなんて。


「と、前置きを済ませた所で告白タイムと行きましょうか」


「告白するの!?」


「当然でしょ。企画名を忘れたの?」


「いや、忘れてないけど……」


 もうあそこまで宣言しちゃったなら告白とか要らなくないですかね……?


「じゃあ始めるわよ。私、歌音サケビはあなたの事が好きなの」


「ど、どうして?」


「あなたの声を一度聞いた時から、あなたの虜だったわ。その優しい声が好きだった。だからどうしても仲良くなりたいと思っていたの」


「うん」


「そしてある日、私はあなたとカラオケに行く機会が与えられたの。表には出さなかったけれど、狂喜乱舞したことを今でも覚えているわ」


 これ、どっちだろう。カラオケに行ったこと自体は事実だけど……


「で、私はどんな素晴らしい歌が聞けるのかと期待に胸を躍らせていたわ。あなたの声は私の声をどこまで魅了してくれるのか、どんな甘い声で私を包んでくれるのかって」


 期待しすぎじゃない?主催者にはちゃめちゃな歌うまさん居たでしょうが。そっちに期待しなよ。


「そして初めて聞いたあなたの歌声は期待通りだった。けれどそれ以上に、あなたの歌声に聞き覚えがあった方に意識を持っていかれたわ」


「で、そいつが九重ヤイバだったと」


「そういうこと。だから私は居てもたっても居られなくなってあなたをスタジオに連行したの。あの歌声をあの環境で放置するのは勿体ないって」


「あの時は本当にびっくりしたよ」


「で、一緒に収録して、その曲を投稿して、無事に伸びたわ」


「お陰様で」


 この点に関しては感謝しかない。お陰で登録者もかなり伸びて、これまで以上に見てもらえるようになったから。


「そんなあなたに、超有名ボカロPから私の新曲を歌って欲しいって誘いが何件か来ている話は知っているかしら?」


「何それ。知らないんだけど」


 視聴者がサケビの発言で驚いているように俺も驚きまくっているんですが。


「当然よ。ターバンに私が口止めしているから。もし歌関連の依頼があれば本人よりも私を先に通すようにって」


「初めて知ったんだけど」


 正直歌ってみたとか音楽関連にそこまで詳しくないから事前に精査してくれるのは助かるんだけどさ。言ってよ。


「初めて言ったもの。まあ、これに関してはいずれ来るだろうなって思っていたから」


「そうなんだ」


 別に歌うまで売っているわけじゃないから来ないと思っていたけど。


「私が見初めた男だから当然よ。話はここからで、そういったコラボをするとなると当然MIXをするのはボカロP本人になることが殆どなの」


「だろうね」


 一番曲を知っているのは作った本人だろうし、自分でやった方が良い物になるだろうからね。


「それが私は辛かった。そんな権利は無いんだけど」


「じゃあどうしようかって私は考えたの。私が諦めるのか、それともあなたに諦めさせるのか」


「諦める……?」


「あなたが私専属の歌い手になるかどうかよ。言わせないで」


「恥ずかしがる要因あった……?」


「まあ、とにかくあなたは私専属の歌い手になって欲しいの」


 そう言った後、サケビは突然ミュートになった。


「え?ミュートになりましたけど」


 何かサプライズでも用意しているの……?


「というわけで、どうかしら?」


「え?」


 なんてことを考えていると、背後からサケビに話しかけられた。

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