第64話

 そして次の告白者は東雲リサさん。


 立場はリサさんが大企業の若手社長で俺がそこで働く新卒社員。状況はリサさんから突然社長室に呼び出されて部屋に入る前。そして、俺と社長は面接以外で一度も話したことが無いという設定らしい。


 先程とは違い、ガチガチにシチュエーションが設定されている。多分入念に準備してくれたんだろうな。


「九重ヤイバです」


「入りなさい」


「失礼します」


「とりあえずそこの席に座りなさい」


「分かりました」


 ここまでは普通に社長室に入る流れだ。でもここからどうやって良い感じの告白に持って行くのだろうか。


「さて、ヤイバ君がこの会社に入って3か月ほどたったわけだが……調子はどうだね?」


「良いとも悪いとも言えない感じですね……」


「まあ、それもそうだろうな。今年雇った新卒は君以外東都大か京府大の生徒だからな」


 東都大と京府大って。日本のトップ2の大学じゃないですか。こらまた凄い設定ですね。


「はい……」


「だから、このまま君が働き続けた所で皆と並んで走り切るのは難しいだろう」


「かもしれないですね……」


 結構卑屈な設定ですね……


「まあ、そもそも君には社員としてバリバリ働いてもらう事を期待して入社させたわけではないしな」


「じゃあどうして私を雇うことにしたのですか?」


「それはな、私と付き合って貰うためだ」


「はい?」


 っと、設定が突拍子も無さすぎて素の疑問が出てしまった。


「突然そんな事を言われても信じられないかもしれないが、これは紛れもない事実だ。そもそも、社長がこういう嘘をついたらセクハラで捕まってしまうからな」


「かもしれないですけど……」


「とりあえず、君は私と付き合うことになった。これは私が君に告白した時点で確定事項だ」


「いや、そう言われましても……」


「まあ、これから話す条件を聞いてから決めてよい。まず、告白を受けた時点で私の直属の部下に配属される。いわゆる秘書というものだな。で給料は月に1千万、ボーナスは年に2回、それぞれ3か月分だ」


「月に1千万……?」


「ああ。そして、付き合っている間の生活費は全て私持ちで、家事炊事関連も全て私か家政婦に一任してよい。また、色々あって私と別れることになったとしてもその時点で君の口座に10億円を振り込む。信じられないのなら契約を結んでも構わない」


 別にシチュエーションは自由って奏多さんは言ってたけど流石にとんでもない設定だな……


「何故そこまで……?」


「君の事が好きだからだ。一目惚れだったな。だから君の大学では本来通らない書類審査を通し、面接に参加させて人柄を見せてもらっていた。そしてまた惚れたよ」


「そんな要素ありました……?」


「ああ、あったさ。傲慢で自信家なキャラクターを演じている中に、こうやって穏やかで誠実な少年の心があった。そして常に相手の事を考え、受け入れる。中々そんな存在はいないぞ」


「普通によくいると思いますけど」


 今の所よくある良い人の特徴だし。


「まあ、とにかくだ。好きになってしまったものは仕方がない。付き合え」


「えっと……」


「まあ、断ったら一切容赦しないがな。まず手始めにこの会社を首にした後、私の知る限りの会社に君と関わりを持たないように指示する。そして、入社の際に送ってもらった家族のデータを元に両親の勤務先を調べ、叩き潰す。私が居ないところで幸せに暮らすことは絶対に許しはしない」


「ええ……」


 告白会のはずだったのに滅茶苦茶脅されてるんですけど……何これ……


 現実に出会ったら受け入れざるを得ない奴だけど、告白会としては0点じゃないかな……?


「また、これは関係ない話だが、ヤイバ君の出身校は事前に特定済みだから、もし私を選ばなかった場合……分かっているな?」


 そんなセリフを言いながら、rescordの個人チャットにウチの高校の写真を送り付けてきた。


 あっ、ハイ、100点満点です。


 なにそれ。斎藤一真本体にダイレクトアタックして来たよこの人。


「以上!奏多さん後はよろしく~!」


「はい、中々凄い告白でしたね。どうでしたヤイバ君?」


「どうしたもこうしたも無いですよね。後、最後はシチュエーションとかガン無視のダイレクトアタックですよね?そもそも何で知っているんですか」


 アスカが俺の出身校をばらすわけも無いし、サケビと樹が東雲リサと関わりがあるとは思えない。


「私の弟がヤイバ君のクラスメイトだからね。以前、これとこれ聴き比べて欲しいって言われて、弟のクラスに九重ヤイバ君がいるんだって知ったのよ」


「ええ……」


 犯人はクラスメイトかよ……


 確かに本人に聞く前に友人とか家族に聞いて確かめるのは分かるけどさ。


「だから、私を一位にしなかったら分かっているよね……?」


「弟さんに迷惑かかりますよ……?」


「大丈夫、私の弟はネットに一切情報が流れていないから。偶然有名人と同じクラスになった生徒Bとしてしか見られないよ」


「分かりました。全力で特定していざという時は巻き添えに……」


 クラスに男子は20人も居るが、俺が九重ヤイバだと知っている生徒は俺と樹を除いて15人しか……


 3人しか候補減ってないな!無理だ!


「ふふふ、無理だって察したみたいだね」


 一切検討がついていないことがバレた俺は、リサさんに勝ち誇られた。今回のリサさんは動かない立ち絵だから分からないけど、十中八九ニヤニヤしているだろう。


 なんてことを考えていると、ポケットに突っ込んでいた普段使いのスマホに連絡が来た。


 普段なら気にならないのだが、状況が悪すぎて思わず現実逃避で見てしまった。


『恐らく久保圭が弟だ』


 すると、東雲リサの弟が誰かが表示されていた。先程公開された情報だけでクラスメイトが爆速で特定してくれたみたいだ。


「ふふっ」


「何を笑っているのかな?窮地に追いやられて笑うしかなくなったのかな?」


「いや、こちらの勝ちを察して笑っただけですよ」


「どういうこと?」


「たった今、配信を見ていたクラスメイトから東雲リサさんの弟を特定するメッセージが飛んできました」


「えっ、何で!?弟からはクラスの男子はヤイバ君が困っている状況を見て笑っているって聞いたんだけど?」


「なんですかそれ。確かにその節はありますけど」


 葵とのトークイベントに参加して好き勝手やっていたりしたのはそういう理由かよ。


「なのに何で!?!?」


「何かしら別の意図があるんじゃないんですか?」


「ちょっとまって、今配信を見ている弟から連絡きた。えっと、『クラス男子の中で猛烈に推されているカップリングが二つあって、それ以外だとこんな感じで一致団結してヤイバの手助けをするんだよ』って本当なの?」


「知らないんですけど、彼が言っているならそうじゃないんですかね」


 一人はアスカだとして、もう一人は葵か?それともながめか?まあ別に良いけどさ。


「そんな……100万が……」

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