第61話

「お前ら、こういう人間になるなよ。俺も絶対にならない」


 俺が視聴者にそう注意喚起すると、『はい』とか『分かりました!』みたいな同意のコメントではなく、『こんなのになるわけないだろ』とか、『どうやってもここまではな……』といった、奏多や他のVtuberのようになろうと思ってもなれるわけがないというコメントが相次いでいた。


「それもそうだな。注意喚起した俺が失礼だった」



 みたいな会話をしているが、一向に戻ってくる気配はない。


「アイツ、本当に何しているんだ?遂にrescordすら出ていったぞ」


 俺が素を視聴者に公開して雑談すること以外にに何も知らされていないんだが。


「仕方ないな、今の内に奏多の弱点を書いてくれ」


 今日やることと、今起きている惨状を考えれば、これくらいは許してくれるだろう。


「なるほど、弱点多いな」


 こういう時は基本的に有名な一つの弱点が9割を占めて、それ以外も似たり寄ったりという感じになるのだが、奏多の場合有名な弱点が多すぎて全てを捕捉するのが大変なレベルだった。


 一応俺が見ていた時期はそんなことは無かったはずなんだが。ここ1年ちょいで何があったんだこいつ。


 なんてことを話していると、


「お待たせしたね皆!愛すべき奏多の帰還だよ!!!!!!!!!」


 と戻ってきた奏多が元気よく宣言した。


「お、おう」


 しかし、俺は微妙な反応しか出来なかった。


 というのも、それよりもおかしな事が起こっているのだから。


 何故か分からないが、大量のVtuberが俺と奏多しか居なかったグループの通話に混じっているのだ。


 もう一つ気になることはあるが、これはスルーしておこう。意図は大体予想できるし。


「今日は皆が期待しているヤイバ君の素が本邦初公開となる回だから、ただの雑談じゃあ勿体ないよね!ってことで、今日の配信は雑談配信ではありません!!!!」


「は???」


 だから配信内容が薄かったのかよ。でこの6人を追加して何やるんだよ。


「ほら、もう素を出してよヤイバ君。約束でしょ?」


「分かりましたよ。これで良いんですか?」


 俺は声を九重ヤイバから斎藤一真に戻し、口調も普段のものに戻した。


「バッチリだよ。じゃあ今日の企画を発表するね!!題して、『九重ヤイバファンクラブプレゼンツ、大、大、大告白会!!!!!!!!!!』」


「はい?」


 何だその企画は。そもそも九重ヤイバファンクラブってなんだよ。


「中身は単純。Vtuberの中でひっそりとメンバーを増やしてきた九重ヤイバファンクラブの皆が九重ヤイバ君に告白して、素の反応を楽しもうという回です!というわけで、九重ヤイバファンクラブの皆さん、カモン!!!!!!」


「「「「「「私達、九重ヤイバファンクラブです!!!!!」」」」」」


 俺のファンクラブの方々は6人で、しかもオンラインだったはずなのに奇妙な程に息が合っていた。


「さて、綺麗に挨拶が決まった所で、ファンクラブ会員番号の若い順に挨拶してもらいましょうか」


「番号があるんですか?」


 これって今回の為に作ったネタじゃないの!?


「そりゃああるに決まってるでしょ。ファンクラブだよ?」


「いや、当然のように言われましても。これ非公式だし、初めて聞いたんですが」


 奏多さん、普通こういう企画で出るファンクラブはガチじゃないんですよ。


「まあまあ、気にせずに。とりあえず一人目からお願いします」



「はい!九重ヤイバファンクラブ会員ナンバー1!自他ともに認める九重ヤイバちゃんの筆頭ファン!雛菊アスカで~す!!今日もよろしくね!!!!」


 最初に名乗りを上げたのは雛菊アスカ。1番なのは納得だし、こういう企画に出ないわけが無いので別に驚きはない。


「そして会員ナンバー3!九重ヤイバファンクラブの経理担当、UNIONの柊カナメ!皆には言ってなかったけど、九重ヤイバさんの大ファンです!!!」




「会員ナンバー「ちょっと待ってください。先に色々と突っ込ませてください」


 この様子だとそれぞれおかしな点がありそうだったので、とりあえず今の時点で止めることにした。


「はい!何でも来て!」


 会員ナンバー3番を名乗り、俺のツッコミを両手を広げて歓迎していそうな勢いの女性が柊カナメさん。アスカの同期であり、チャイナ服にツインお団子ヘアという如何にも中国の方にしか見えない方である。


 しかしながら中国とは一切関係が無い純日本人で、単にツインお団子ヘアが好きだから一番似合うチャイナ服をよく着ているんだという話を切り抜きで見た記憶がある。


 他のどんな衣裳を着ても髪型は決して変えないんだとか。


 ただ、そんなことはどうでも良い。ツッコミ所が2点ある。


「まず、2人目なのにナンバー3ってどういうことですか。2はどこに行ったんですか」


「今日は不参加だよ。多分食い入るように配信を見ているんじゃないかなあ。ファン層的にこういうイベントに参加するのは難しいし」


 ってことは多分葵か。確かにゆめなま所属のVtuberがこれに参加するのはライン越えだしな。あそこアイドル売りをしている部分もあるし。


「それを言ってしまうんですね」


 しかし、そんな予想を正直に言ってしまうわけにはいかないので、真っ当にツッコんでおく。


「ヤイバさんからの質問に嘘はつきたくないからね。それに、こういうことに参加できない子はVtuber界隈には一杯いるし、特定もされないでしょ」


「それもそうですね」


 一応水晶ながめが俺の大ファンであるという話はネット上に漏れてはいないからな。真っ先にながめがナンバー2だ!って話にはならないとは思う。


「じゃあもう一つ、経理担当って何ですか?」

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