第60話

「どうだ?」


「奏多さんは『大丈夫だ、問題ない』だって」


「マジか。余裕あんなあの人」


「ね。中々な大炎上だっていうのにさ」


俺を主役に添えた企画をやると聞いているので、結構なリスクだと思うんだけど。


「まあ、どう考えてもお前もクロも悪くねえしな。気にする必要は無いって事だろ」


「なんならこの人もクロさんと同じことしているしね」


「それもそうだな。どの道バレたらお前ら諸共奏多も炎上だよ」


「確かに」


「で、もう片方の方はどうなってる?」


「白沙フィリアさんは延期ではなく中止にしておきましょうだって。私達の炎上に巻き込むわけにはいかないって」


「はあ……何やってんだフィリアさんは。あんたは悪くないだろ。絶対にコラボを強行するように連絡してくれ」


「うん」


俺は、迷惑では無いし、このコラボウィークは楽しいので是非ともやり遂げたいと連絡を送った。


するとすぐ連絡が返ってきた。


「『では、本日コラボお願いします』だって」


「ん?そんな急に意見って変わるものか?」


「だよね。もしかして俺の言葉待ちだった?」


どうしても今日やりたいから、そう言葉を引き出すように誘導した?


「にしては違和感しかない変わり身だよな。流石に気が変わっただけなんじゃないか?」


「かもね。そもそもクロさんの事務所が選んだ人なわけだし、そこまでの人は居ないと思う」


「だよな。とりあえず、今日のコラボ頑張れ」


「うん」


俺は絶対にこの二つのコラボを成功させるぞと強く決心した。




そして、先に行われる奏多とのコラボ直前、軽い打ち合わせをすることになっていたので、30分前に集合していた。



「とにかく、僕の指示があったら、そこからは素のヤイバ君で」


「分かってますよ……」


「なら良し。今日はヤイバくんが主役ではあるけど、あまり気負わないでね」


「本当にこれで良いんですか?面白くなります?」


今回のコラボは、Vtuber九重ヤイバとして雑談をするわけではなく、あくまで中の人。高校生斎藤一真として質問に答えていくというもの。一応配信者中心に質問を受け付けていると聞いているが、これで本当に良いのだろうか。


「勿論。あそこまでキャラを背負っているヤイバ君の素だよ。確実に皆興味を持つし、僕からしても面白い」


「なら良いですけど……」


「ってわけで、打ち合わせは終了かな?」


「え?」


「いや、だから打ち合わせは終了だよ」


「5分も経たずに終わりましたけど……?」


何故30分前に集めたんですかね。普通に15分前で良かった気がするんですが。なんなら事前に渡されていた企画書に書いてある内容と全く同じだったんですが。


「まあこれ以上言う事無いしね。何か話でも……っと。ちょっとトイレ」



そう言って奏多さんは離席してトイレに向かった。単に話をしたかっただけなのかな……?


まあ、15分前だろうが30分前だろうがこの部屋に居た事は変わらないし別に良いけど。



そして15分後、


「ごめんごめん。お待たせ。トイレしてた」


トイレとは思えない程の時間が経っているというのに、トイレと言い張って戻ってきた。


「何してたんですか?」


「トイレだけど」


「どこがですか。絶対別の事してたでしょ。別に良いですけど」


「ああ、彼女と話してたんだよ。九重ヤイバきゅんとのコラボ楽しみに待ってるねって」


「アスカと話してたんですか?」


ってか奏多さんとアスカさんって付き合ってたんだ。あまり関わりが無いように見えるけど。


「いや、全く違う人。そもそも雛菊さんはrescordしか知らないから電話出来ないし」


「じゃあきゅんってどこから飛んできたんですか」


そんな変な呼び方するのあの人くらいしか居ないだろ。


「宇宙から。あっ、もしかして嫉妬しちゃった!?ごめんごめん、ついわざと揶揄っちゃった」


「何言ってるんですか」


意味不明な流れで煽られてもただただ困惑するだけなんですよね。


「だってさ———」


それから奏多さんは配信開始直前までずっと話し続けていた。


奏多さんに絶え間なく会話を続けるイメージは無かったのだが、配信者だからな。


そういった気持ちは持っているのだろう。



「じゃあ配信をつけるよ。最初は九重ヤイバとして話してね」


「ああ、分かっている」


「オッケー」


俺が完全に九重ヤイバとしてのスイッチが入った事を確認した奏多は、配信を開始した。



「はい、ということで始まりました。早速ゲストに入ってきてもらいましょう。どうぞ!」


「早すぎんだろ。まあ良いか。俺は個人勢の九重ヤイバだ。よろしく」


「で、僕が奏多です。どうか名字だけでも覚えて帰ってください」


「名字どこだよ」


「あっ、知ってるんだ!」


あまりにも急な開始だったため、完全に気を抜いていた。この返しは奏多が今回の挨拶した際に、コメント欄で行うものである。


「一応な」


「こんな感じだけど僕の配信を見てくれているからね~」


そして早速俺の事を揶揄ってくる奏多。


「まあな。俺がVtuberになる前からVALPEXが上手かったからな。当時は参考にしてたぞ」


しかし、これに関しては全く効かない。俺がこのゲームにかなりの熱を入れていることは周知の事実なので、プロゲーマーだけでなく上手いとされている配信者の放送を見ていてもブランドは崩れないのだ。


「当時は?」


「今見るのは無理だろ。高校生だぞ。配信や案件の対応だけではなく、勉強もしなきゃならないんだ」


毎日配信しているわけではないが、配信休みの日は勉強しているからな。


それでも生放送を見る時間位は捻出できるが、葵とアニメや漫画の話をする方が優先だからな。


「そうだった。ヤイバ君は現役高校生だったよ。なら僕の配信は追えないよねえ」


「そういうことだ。あとお前の配信は長すぎるんだよ」


奏多は配信を本業としているため、ゲーム配信の場合一回当たり4時間が平均だ。


「だって趣味なんだもん。それにしても、ここまでしっかりしているのは流石だよねえ。一応成人している僕たちでも中々出来ないよ」


「お前らが不真面目すぎるんだよ。なんだ10時就寝18時起床って。せめて4時までには寝ろ。朝配信してないだろうが」


「あっ!痛い痛い!!!!!耳がもげそう!!!!」


「逃げるな。健康的な生活リズムを遅れ。そして健康的な食事を摂れ」


「うっ……ごめん皆、僕は目的を果たす前に耳がもげて配信が出来なくなるみたいだ……またね……」


真っ当な人間になれない社会不適合者の奏多は、配信だけでなくrescordのマイクすらミュートにしてしまった。

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