第59話

 翌朝、俺は樹からの電話によって叩き起こされた。


「なに?」


『なに?じゃねえ!とりあえずツリッターを見ろ!』


 朝から切羽詰まった様子の樹の声を聞き、嫌な予感がしつつもツリッターを開いた。


「クロさんが炎上してる……?」


 ツリッターのトレンドに上がるレベルでクロが大炎上していた。


 その理由は、クロが配信中に何かをやらかしたわけではなく、俺とメネのコラボ配信が原因のようだった。



『まさかこういう角度で攻められるとは思っていなかった』


「うん」


 どうやら、俺がクロに半強制的にコラボを締結させられたという話が変な方向に広がり、実際は裏で脅しをかけたんじゃないかという話になっていた。


 これだけならギリギリ噂で済んだのかもしれない。


 しかし、これまでのコラボが全て演劇部の案だったことが上下関係を暗示しているという説。そしてファンと直接話すイベントにて何でも言う事を聞くという発言自体が通常の九重ヤイバと乖離している為、実はその時点から脅されていたからではという説等、ありとあらゆる角度からクロに脅されている事を事実にこじつけようとする声が上がっていた。


『とりあえず、完全に否定して火を消さねえと』


「そうだね」


 ひとまず、九重ヤイバは脅されていないという事をツリッターで表明した。効果は薄いだろうが、やらないよりはマシだ。


『後、今日は奏多ともコラボするんだろ?燃やされている側ではないが、とりあえず連絡しとけ』


「分かってる」


 俺は奏多さんに炎上の渦中だからコラボは延期した方が良いかもしれないですという連絡を送った。


『ちょっと危険だが、とりあえずお前はいつでもVtuber達と連絡が出来るように配信用のスマホを持ってきてくれ』


「オッケー」


 俺は学生カバンにスマホを二台突っ込み、高校へと向かった。



「とりあえずこっちに来い」


 そして教室に辿り着くと、俺の正体を知っている男子達が全員俺の元に集まり、代表の一人が真剣な表情でそう言った。


「分かったよ」





「食らえ!」


「オラッ!」


「大丈夫か一真!!!」


「何もされてないよな!!!」


 そして誰もいない場所に着いた途端、男子の数人が声だけで喧嘩を始め、その直後に何故かボディーチェックをしながら俺の事を心配してきた。


「何してるの!?」


 皆が俺の心配をしてくれている事自体は予想ついていたのだけれど、それ以上に目の前で繰り広げられた奇行に困惑していた。


 すると一人が無言で俺にノートを見せてきた。


『盗聴されてないよな?』


「何で!?」


 何がどうなったらその結論に至るんですかね。




「いや、ただの個人勢である一真が脅されているとなったら盗聴までされていると思っていてな」


 身体検査を一通り行った後、何故かリーダー格に任命されているっぽい男、美作隆二が謝罪した。


 野球部のキャッチャーを務めており、ゴリゴリの肉体を持っているのだが、VALPEXを相当な時間プレイしている上に後衛キャラしか使えないらしい。何故。


「そんなわけないでしょ。俺の学校事情を調べた所で何になるのさ」


 俺の事を心配してくれるのは有難いけれど、心配の仕方が陰謀論じみているというか。クロたちの企業は別にヤバい企業じゃないからね?


「流石にそこまではしてこないだろうとは分かっているんだが、コイツの話を聞いたら一応調べておかないとと思ったんだ」


「どういうこと?」


 と指差したのは坂野隆弘。文芸部の男子で、小説を読むことが大好きらしい。一応美作達とVALPEXをやっており、腕前もこの中ではトップクラスだが、俺の配信を熱心に見ているわけではなくアゼリアハルを推しているらしい。


「Vtuberの事務所にブラック気味な所が多いは基本的に時世に乗った新興企業が多いからってのは良く聞く話だけど、実はそれだけが理由じゃなくて、ヤクザが絡んでいる企業が何個かあるからって話もあるんだ」


「何それ」


 ヤクザとVtuberって。どういうことだよ。


「Vtuberって普通の仕事と違って身バレのリスクが少ないから参入しやすいんだよ」


「なるほど」


 それは知らなかった。ってことはもしかして、Vtuberもスタッフも全てヤクザで構成された事務所があるってこと?


「まあ、ヤクザの構成員だけでアメサンジとかに負けない人気を取らないといけないっていう時点で殆ど無理だし、居ない可能性の方が高いけどね」


「でも警戒しておくに越したことは無いと」


「そういうこと」


 正直気にしすぎだとは思うが、心配してくれたこと自体は嬉しい。


「でも俺は一切脅されていないし、クロさんの事務所がヤクザと関わりがあるってことは絶対に無いから。安心して」


「そうか。じゃあ戻るぞ」


「そうだね。杞憂のし過ぎは迷惑だからね」



 俺の一言で完全に安心してくれたらしく、そのまま教室へと戻った。


 そして教室に戻ってホームルームが始まったのだが、葵が学校に来ていなかった。


 俺の事を心配しすぎて寝込んだのかと思ったが、普通に風邪だった。


 それもそうである。


 葵はクロと関わりがあるため、炎上の内容が事実無根であると分かっているのだから。



 そして昼休み、


「樹、屋上に行こう」


「ああ、分かった」


 奏多や次の演劇部のコラボ相手と連絡を取る為、スマホを見られにくい屋上へと移動した。

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