第62話

「当然ファンクラブのお金を管理する担当だけど」


「理由になってないですよね?どこからお金が湧いているんですか」


「メンバー一人一人、月に1万円位払ってるよ」


「会費あるんですか?そして高くないですか?そもそも何に使うんですか!」


「当然共同の推し活だけど。会費で都内に部屋を借りて、九重ヤイバグッズで埋め尽くしているんだ」


 と説明され、配信画面にその部屋が撮られた写真が貼られていた。


「良い部屋でしょ?」


「ええ……」


 これまでに発売された公式九重ヤイバグッズが全て綺麗に飾られており、本棚には俺の同人誌がみっちりと並べられている。そして壁一面にはこれまで樹が書いてきた俺の絵をポスター化して貼られてあった。色々権利的に怪しい気もするが、確実にアスカが樹に許可を取っているので万事OKである。




 これが5畳程度の小さな部屋だったら凄いなで終わるのだけれど、どう見ても10畳位はあるため、異常さの方が際立っている。生活に関連する道具が一切無しで部屋が俺で埋め尽くされているのは単なる狂気である。


「いやあ、これをヤイバさんに見てもらえて私たちは幸せで心がいっぱいだよ」


 と嬉しそうに語る柊カナメさん。


「こっちは恐怖で心が締め付けられてます」


 ガチとかそういうレベルじゃないじゃんこれ。


「まあ良いです。次の人お願いします」


 これ以上次の人を待たせるわけにもいかないし、この悍ましい会話を早々に切り上げたかったので俺はそう促した。


「会員ナンバー8番。歌音サケビ。私はヤイバの歌が好き。それだけ、以上」


「え?サケビさん?」


 ファンクラブどうこう以前にクラスメイトですよねあなた。


「別に良いじゃない。あなたのクラスメイトも似たような感じでしょう?」


「そうだけどさ……」


 確かにクラスメイトもファンクラブ的な活動はしているけどさ。でもアレはあくまで配信を見て、トークイベントで俺をおちょくってきただけで、お金は大して使っていないんだ。


 会員費を1万も払ってまでファンクラブに入らないでください。


「というわけで次の人、良いわよ」


 色々言いたい事がある俺の複雑な感情を一切無視し、次の人に回すサケビさん。もういいよ。


「会員ナンバー12。東雲リサ。お兄ちゃん!大好きだよ!!!!」


 リサさんは全力のロリボイスで告白してきた。


「犯罪臭がするのでその見た目でその声を出すのは辞めてください」


 中身は長身お姉さんだからネタで済むかもしれないけど、Vtuberの肉体はどっからどう見ても小学生の幼女なんだから。


『九重ヤイバ、実はロリコンだった』とかいう記事で再炎上するのは嫌なんですよ。


「酷いよ、お兄ちゃん。私は元からこの声なのに……」


 俺のツッコミを受けたリサさんは嘘泣きを始めた。


 そしてそれに乗っかり、幼女を泣かせたとか見損なったぞ九重ヤイバみたいなコメントが勢いよく流れていた。


「いくら俺が他のVtuberに疎いからと言って、あなたの声を知らないというわけじゃないんですからね。普段そんな声で過ごしていないでしょうが」


 流石に一度顔を合わせて挨拶までしたVtuberの事を全く調べないなんてことは無いんですよね。


「ちっ、楽に優勝できると思ったのに」


 俺を騙せないと知るや否や、悪態をついて舌打ちをするリサさん。


「え?」


 あなた普段の配信ではそんな悪態をつくような性格の悪さなんて見せてないですよね!?


「いや、何でもないから。気にしないで」


「流石に誤魔化しきれないですよ……?」


 BGM以外の音が無い中での悪態と舌打ちだから全員聞こえてますよ?


「気にしないで。ね、分かっているよね?」


 そう話すリサさんから強い圧を感じた。絶対に優勝させろってことなんですかね……


 俺ははいと返事するわけにもいかなかったので、返しに困っていると、



「会員ナンバー14番、ファンクラブに加入しているたった二人の男の内の一人!オーサキだ!!!」


 オーサキさんが気を利かして次に続けてくれた。


「唯一じゃないんですね」


 こういう時って唯一の男ってのが相場だと思うんですが。


「ああ!もう一人居るぞ!まだ誰か公表する時では無いけどな!」


「まだ……?」


「現時点で第二回も予定されているらしいからな。その時のお楽しみって奴だ」


「奏多さん……?」


 突然企画の内容を変更した上に第二回も開催決定しているってどういうことですか?


「別に一つって言ってないよね?」


「そうですけど……こういうのって一つだけでしょう?」


「でもクロさんは7回分の配信を取り付けたらしいじゃん」


 今そこの話題を出すかね。それで絶賛炎上中ですよ。


「あれは総じて一つのリクエスト判定です」


「なら僕とのコラボも複数回でセットにしてよ」


「なら内容を健全なものにしてくださいよ」


 何だよ大告白会って。正気の沙汰じゃねえだろ。


「っと、最後の子が自己紹介出来なくて困っているから、自己紹介をどうぞ」


 最後まで問い詰めたいところだったが、それを口実にされたら黙るしかない。


「は、はい。ファンクラブ番号16!白沙フィリアです!今日は頑張ります!!!」


「え?」


 全く予想だにしなかった人の声が聞こえてきたせいで思わず声をあげてしまった。



 最後に名乗りを上げるはずだったのは先日一緒になった修士さんだった筈。現にこのトーク画面に白沙フィリアという名前は存在せず、代わりに修士さんが入っている。


「いやあ、驚いてくれて嬉しいよ。僕が名前を変えて入るように指示したんだ。Rescordのチャット欄をよく見てみて」


「あっ……」


 今日コラボを中止するか否かの話をした筈の名前が修士に変わっていた。


「だから打ち合わせする内容もほとんど無いのに早めに集めたんですね」


 俺が白沙フィリアとのトークに目が行かないように。


「いや、それは違うよ。フィリアさん、念のため報告よろしく」


「はい。事前にツリッターでも伝えていたのですが、今日の私と九重ヤイバさんのタイマンコラボは中止となっております。代わりに、この大告白会の配信時間は1時間ではなく2時間に変更となります」


「えええええええ!?!?!?!?!?!?」


 いや何も聞いてないんですけど。勝手に決めないでくださります???


「いやあ、驚いてる驚いてる。予想通りすぎて面白いねえ」


「まさか、そのツリートに気付かせないための集合時間だったんですか?」


「そういうこと。そっちの方が面白いからねえ」


「いつから決まっていたんですかその話は」


「企画内容が決まったのは企画書を送ったあたりだけど、フィリアさんを呼ぶことに決めたのは今日だね」


「今日!?!?」


「とあるルートからフィリアさんの情報を聞きつけてね、誘ってみたんだ」


「本当なんですか?」


「はい。今朝の企画と、ファンクラブの存在を教えていただいて、迷わず参加を決めました」


「ええ……」


 色々と思いっきりが良すぎるだろこの2人……

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