第55話
『ヤイバ君!どうしてあんなことしたのさ!』
配信を終了させたミルは早速俺に文句を言ってきた。
「あれでコラボに誘われやすくなるだろう?」
『え?』
「あのままだったら確実にスプラターンのプロしかコラボ依頼が来ないぞ」
『どうして?』
「ミルがプロ並みに強いからだよ」
挑戦というのは勝てる余地が少しでも見える相手に行うもので、10-0で負けそうな相手にするものではないからな。
この世にVtuberは2万人以上いるとされているが、ミルに勝負を挑めるレベルのVtuberは1人か2人居れば多い方だと思う。
それではコラボの輪が広がらない。ということで無理やり方向転換させたのだ。
『そうなの?』
「ああ、今まで見てきた中で一番上手かったぞ。エゴサしても似たような感想が沢山見つかると思う」
『やったー!ありがとう』
ミルは実力を褒められたことに素直に喜んでいた。
「こちらこそミルみたいなプレイヤーと対戦出来て良い経験になった」
『うん、私も珍しい武器の強い人に会えて楽しかった!じゃあまた今度ね!』
「ああ」
そして俺たちはそのまま通話を切った。
「皆の反応はどんな感じだろう」
いつもはエゴサーチをしないのだが、今回に関しては気になったので見てみることに。
『ミルって子化け物すぎんだろ』
『演劇部なのにプロゲーマーレベルの女が混じってて草』
『地雷武器vs地雷立ち回りなのに普通に見れるどころかそこらの配信者と比べてもレベルが高すぎる』
『ミルの立ち回り流行りそうだけど絶対誰も真似できねえ』
『試しにミルさんのクリップ作ってみました』
一応俺に関するコメントもあったが、大半がミルの実力に言及するコメントばかりだった。
ミルが遠距離攻撃を解禁しだしてから視聴数が爆増したのである程度は分かっていたんだけどな。
何はともあれ、初日は大成功としか言いようが無いだろう。
そして二日目、
『よろしくお願いします、ヤイバさん』
「よろしく、ロクサヌ」
次のコラボ相手は上戸ロクサヌというVtuber。元気の塊だったミルとは真逆で、何も知らない人が見たら大御所にしか思えない落ち着きようである。
配信前だから別に構わないが、呑気にコーヒーメーカーらしきものでコーヒーを作っている音が聞こえてくる。
「NGの質問に関しては遠慮せずにNGと言ってくださいね。1時間の配信ではありますが、最低でも2時間は出来る量の質問を用意しておりますので」
「ああ、助かる」
この人、これで配信活動を始めてから1週間も経っていないのだ。
普通配信初心者が自分で準備をする場合、イレギュラーに対応できなかったり、そもそも時間想定が間違っていたりするものなのだけどな。
そのお陰で俺に質問をするという以外に情報を聞かされていないのに、事故は絶対に起こらないという謎の安心感があるから有難いけれど。
『では時間になりましたので配信を始めますね』
「分かった」
そして配信が始まった。
『こんにちは視聴者の皆さん、上戸ロクサヌと申します。本日はスペシャルゲストをお迎えしてお送りいたします。ではゲストの方、どうぞ』
「コラボウィーク二日目の九重ヤイバだ、よろしく」
『今回の主な目的といたしましては、私がVtuber業界について学ぶことです。Vtuberとしてデビューする前に調べておきたかったのですが、配信機材の勉強に時間を取られすぎまして。折角なのでこの機会に全て聞いてしまおうという事でこういう形となりました』
「なるほどな」
質問と聞いていたのでどんな変な質問が飛んでくるのかと思っていたが、これなら平和に1時間を過ごせそうだ。
『では早速質問させていただきますね。近年Vtuberの中で流行っている配信内容だったりゲームだったりをいくつか教えていただけますか?』
「そうだな————」
それから俺はロクサヌから飛んでくるVtuberについての質問を丁寧に答えていった。
今までの配信者には無い独特な空気感な上、ロクサヌが余り笑ってくれないので2人っきりだったら不安で心が折れていた所だが、コメント欄の視聴者が笑ってくれているお陰で一命をとりとめていた。
『ありがとうございます。まだまだ知らない事ばかりではありますが、理解が進みました』
放送が始まってから大体40分程経ったタイミングでそんな事を言われた。
「そうか、なら良かった」
普通に返事はしたものの、後20分あるがどうするのだろうか。まさか、想定以上に話が進んだのか……?
『まだ時間があるようなので、これからは個人的な質問をさせてください』
「ん?ああ」
別にVtuberについての質問も個人的な質問だった気がするが。
『それでは質問を一つ。雛菊アスカさんとはどういった関係なのでしょうか』
「おい、ふざけてるのか?」
『てぇてぇという単語を理解するためには実際の関係を知る事が必要なのです』
今までの流れでVtuberについて知らないという意識を皆に植え付けてから爆弾を正面から投げ込む算段だったのか。
「お前な……」
『ASMR配信の際に直接お会いした事は存じ上げております。ただのゲーム友達、配信友達から進展があったでしょう?』
こいつ、Vtuberを知らない設定だったよな。
「ロクサヌ、何故それを知っているんだ?Vtuberを知らないんじゃなかったのか?」
なら俺の配信の中でも特殊なASMR配信を知っているのはおかしいだろ。
確かにアーカイブの再生回数は俺のチャンネルの中では多い方だが、Vtuberとは縁遠い一般人の目に触れる程ではない。
つまり、こいつはVtuberの事を、少なくとも俺の事を良く知っている。
全てはこのために……
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