第54話
『いっくよ~!!!』
そして先程と同じようにスナイパーライフルを持って最前線に特攻してくるミル。
そのまま敵を複数落としてしまおうと考えているのだろうが、
「甘い」
『ギャッ!!!???』
壁に隠れていた俺が一方的にミルを倒した。
「どうだ、この程度だったのか?」
そして配信を盛り上げるべく、ミルを煽る。
『やったな~!!!!』
ミルは挑発に乗り、再度特攻してきた。
しかし、先程のように考え無しに特攻してきているわけではなく、俺をかなり警戒しているようだった。
隠れられそうな壁を避けてから爆風に捕まらないように素早く攻めてきているのだろう。
「残念だったな」
けれど居場所が分かっているので特に問題なくキルできる。爆風が当たれば良いので細かいエイムは必要無いし、相手のキル速度も左程高くないからな。
『うっそ~!?!?』
「そういうことだ」
『くうう……』
そこからもミルは何度も特攻してきたが、その度に対処していった。
結果、
「俺の勝ちだな」
俺の武器は陣地を取る能力に欠けているので圧勝とまではいかなかったが、普通に勝利を収めた。
『なんで!?』
試合が終わった後、何故こうなったのか分からないようで、酷く困惑していた。
「一番は相性だろうな。あの武器とキル速度が同じ相手だったら流石にこっちが圧倒的に有利だ」
避けながら雑に撃つだけだしな。
『それでも普通はあの武器が居る相手には負けないんだけど……』
と俺の武器に散々な事を言ってのけるミル。まあ気持ちは分かる。味方がそれを使っていたら正直がっかりする。
「まあ、この武器を真面目に使っている奴が殆ど居ないからな」
『えっもしかして!?』
「そうだ。俺のメイン武器はこれだ」
しかし俺はこの武器を中心に据え、ずっとプレイしてきたからそんじょそこらのプレイヤーとはレベルが違う。
『いや本当に何で!?!?』
視聴者と同じようにミルは驚いていた。
「スプラターンを始めた当時の俺が真面目に強いと思っていたからだな。理由を聞かれても困る」
『でも途中で武器変えない……?』
「一応何度か試みたのだが、デストロイブラスターより勝てる武器が無かった」
所謂武器に呪われているという類のアレである。真面目に敵を狙う必要が無いので、エイム力が向上しておらず、他の武器に変えたらまともに弾が当たらないのだ。
「で、そのままこの武器を使い続けた結果最高ランクに到達した」
『ええ……』
配信開始からずっと元気だったミルもこれにはドン引きである。
「ドン引きしている所悪いがミルも相当変だからな?」
調整がぶっ壊れているとかならともかく、最長射程のスナイパーライフルで特攻するなんて普通のゲームでは考えられない。
『私のは環境トップの武器使っているからセーフです!』
「いやそういう問題じゃないが」
環境トップが強いのはどう使っても強いからではなくて、正しい用法を守って使えば強いってだけだからな。
『まあ言いたいことは分かりましたよ。でもじゃあ最初にそれを使わなかった理由は何でかな?』
困惑しつつも理解してくれたミルは次にそんな質問をしてきた。
ここで下手に嘘をつくと面倒なので正直に言おう。
「あの武器で接待したら確実に舐めプだと思われて燃えそうだと思ったからだ」
環境トップの武器で手加減した場合は単に俺が弱いだけで終わるのだが、弱武器を使って接待した場合確実に舐めプ認定されて軽く燃える。
配信上に俺が最高ランクである証が残っていたのでなおさらである。
『え~!?!?私強いって先に言ってたじゃん!!!』
俺の言葉に対し、ミルは軽く怒った口調で文句を言ってきた。当然の話である。
「強いと言ってもS+位だと思っていたんだよ」
S+というのは最高ランク一歩手前だ。最高ランクの俺らには敵わないものの、一般的には強者と評価して差し支えない。
人工的にはそちらの方が多いのでミルもそちら側だろうと思っていたのだ。
『S+だったら強いって言わないよ!』
「悪い悪い」
『でも許す!ヤイバ君強かったし!』
「なら良かった」
ミルは案外戦闘狂な所があるっぽい。
『というわけで私も本気出しちゃおっかな!!!!』
そう宣言したミルは次の試合から更に3段階くらいレベルが上がった。
スナイパーライフルで特攻する頻度は高いままだったが、普通に遠距離射撃もするようになったのだ。
遠距離の方はS+を超えるか超えないか程度の腕前だったが、近距離が強い敵に遠距離もあるという事実が問題で、厄介度は今までの数倍に引きあがっていた。
「五分にすら出来なかったか……」
その結果、最終的な勝率は3割しか無かった。
それも相手に低ランク帯が固まったとかこっちが強者ばかりだったみたいな視聴者参加型の欠点で生まれた勝利だったので、普通にやったら2割を切るだろう。
『私は最強だからね!それだけ勝てたヤイバ君は偉いよ!』
俺を褒め称えつつ、自身の強さをアピールしていた。
「次は見てろよ……」
というわけで俺は敗者らしく負け惜しみのセリフを絞り出した。
『いつでもかかってきなさい!私は誰からの挑戦でも受け入れるからね!』
「言ったな。なら次はVALPEXで勝負だ」
『スプラターンの事だよ!?』
「そんな事一言も言っていないじゃないか。ミルは誰からの挑戦でも受け入れると宣言しただけでどのゲームかは一切指定していないだろ?」
『あっ……』
普通この流れでスプラターン以外の勝負を申し込む方がおかしいのだが、あっさりと丸め込まれていた。
流石に分かっててそういう対応をしてくれたのだとは思うけどな。
「今日からしばらくは他の演劇部とコラボがあるので出来ないが、終わってから少し経ってから勝負だな」
『う、うん。まあ、私は最強だから舞台が変わろうと勝っちゃうんだけどね!』
精一杯強がってはいるが、声が震えている。多分スプラターン以外のゲームはクソザコなんだろうな……
「この配信を見ているVtuber共、今の発言はちゃんと聞いたな?自分の土俵に引きずり込んでボコボコにしてやってくれ」
『え!ヤイバ君!?』
「そしてこの配信を見ている一般視聴者よ。今のミルの発言を切り抜いて拡散してやってくれ」
『ちょっと!?!?』
「というわけで配信を終わるぞ。何か連絡事項とはあるか?」
俺はミルに否定させる間を与えず、強引に配信終了に持って行くことにした。
『え、ちょっと』
「あるか?」
『無いです……』
「俺も無いな。今週は演劇部の奴ら一人一人とコラボしていくから見てくれってくらいだ。ってことで今日の配信は九重ヤイバと、」
『早美ミルがお送りしました!』
「じゃあな」
『ま、またね!』
そして無事に配信は終了した。
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