第47話
「なんだかんだ言ってありがたかったかもな」
これまでのファンとの交流は全力で対応していたから若干疲れていたんだよな。
愛の言葉は少々面倒だったが、それ以外は気を遣わなくて良くて楽だった。
もしかしたらそれを見越してやってきてくれたのかも……
いや、無いな。単に来たいから来ただけだよアイツは。
お礼したら『何それ?』と返事された後、『感謝しているってことは……?』って感じで変なことを要求されるのがオチだ。そうに決まっている。
だからアイツのことは忘れて次に集中しよう。
と再度気合を入れてファンとの交流をする。
それから3人後、
「やあ、頑張っているかなヤイバ君」
「は?」
何故か奏多がやってきた。
「だから、頑張っているかって。視察に来てあげました」
「いや、お前客として来ただろ」
奏多がやってきたのは俺が座っている場所ではなく、実際に俺と交流するファンが入る場所である。
「バレたか。流石は九重ヤイバ」
と腕組みしてわざとらしくウンウンと頷く奏多。馬鹿にしているのかコイツ。
「で、何の為に来たんだ」
奏多相手にアスカの時のような対応をするわけにはいかないので、普通に対応することに。
「勿論話したいことがあったからだよねえ」
「話したい事?楽屋じゃ無理だったのか?」
「無理ではないけど、こっちの方が良さそうかなって」
「一体何だ?」
「コラボ依頼だよ」
「楽屋で良いだろ」
そんなものをここでするな。
「まあまあ、最後まで聞いてよ。企画の説明をするからさ」
「分かったよ」
それから丁寧にコラボの説明を行った。
要約すると、俺が素を出した状態のコラボ配信が行いたいらしい。
「いや、駄目に決まっているだろ」
視聴者の考える九重ヤイバ像が思いっきり崩れるだろ。今の形で売れているのにそれは良くない。
「でもなあ、客のリクエストは全て受け入れるって聞いてたんだけどなあ」
「それは俺が出来る範囲でだろうが」
「素で話せば良いだけなんだから普通に出来るよね?それに禁止事項は九重ヤイバが出来ない事と、公序良俗に反することだけでしょ?」
「くっ……」
まさか葵以外の配信者が来るとは思っていなかったのでこれは完全に想定外だった。
普通1分5千円も払ってコラボ依頼をしに来ると思うか?
「というわけで、よろしくね。詳しい所はツリッターのDMかrescordで」
そう言い残して奏多は部屋から出て行った。
「最悪だ……」
奏多とコラボをすること自体は嬉しいのだが、素を出さないといけないというのが全てを帳消しにしている。
現時点でクラスの男子共に身バレしているから学校関係とかで大したダメージは無いが、そういう問題じゃないんだよな。
ファンも嫌だろうし、俺も嫌だ。
奏多から連絡来た時に話し合ってラインを引かせてもらうか……
ああ本当に頭が痛い。
と頭を抱えていると、次に入ってきたのはこれまた頭が痛くなりそうな女だった。
またもや配信者が来てしまったというわけではなく、ただ純粋に見た目が問題だった。
スカジャンと真っ赤なスカートを身に纏い、金に染めた長い髪、バチバチに決めたつけまつげ、そして口元を覆う真っ黒なマスク。
どう見ても現役のヤンキーなのである。確実に俺のファン層じゃねえだろ。
そして部屋に入ってきた後、俺と話すためなのかマスクを取り外す。
当然のように口紅は真っ赤。純度100%のヤンキーだこいつ。
面倒だな……
いや、待て。この女はヤンキーだが、わざわざイベントに来て5千円も払ってこの部屋に入ってきているんだ。
つまりこいつはただのオタクだ。怖がる必要なんてない。
「よく来たな」
だから通常通りの対応で構わない。
「なっ!?!?」
すると何故か驚かれた。というかそれよりもこの声……
「お前山田だろ」
こいつの正体は山田紅葉。先日のVALPEXの大会で散々な目にあっていた可哀そうなVtuberである。
「くそお!!!」
俺が正体を指摘すると、何故か地面に崩れ落ち、悔しそうな表情で床をバンバンと叩いていた。
「まさかお前、俺をビビらせるためだけに5千円も使ってやってきたのか?」
先日の配信で大御所のクロを巻き込んで俺の好きなタイプを配信中に告白させてきた犯罪者だ。
その際に反撃として山田も好きなタイプを言わないといけないように世論を誘導し、見事山田の雑談配信にて公表させることに成功した。
恐らく今回はその反撃としてやってきたのだろう。よく見たら録音用の機材を持ってきているしな。
「悪いか!!!」
「いや、別に悪くは無い。お陰で俺の懐が温まるんだから」
ヤンキードッキリを行うならもっと別のやり方があっただろ。ぐるぐるターバンを通して家に突撃するとか、アメサンジとかUNIONの事務所に来る情報を聞きつけて構えておくとか。
「こんなはずじゃ……!!奏多の奴!!!!」
今回の行動は奏多の計画か。
「奏多もまさか真面目にやってしまうとは思わなかっただろうなあ」
俺は山田に敗北感を味合わせるため、優越感たっぷりに煽る。
「くそおおおおお!!!!!」
山田は叫びながら再び床を叩きだした。
「うるさいな……」
「んなっ!私は何も!!」
あまりの声量に耳を塞いでいると、外に居たスタッフが何事かと部屋に乱入してきて、強制的に外に連行されていった。
「普通にしていたら強そうなのに何であそこまで弱いんだろうなあ」
平常時が照れている時の水晶ながめ並だと思う。
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