第19話

 最初に行われたのはボクシングと冠された試合。


 特に凝った設定も無く、ただ純粋に武器を持たずに回復と防具だけ持って拳で殴りあうだけの試合だ。


 銃や手榴弾、そしてキャラ特有のスキルやウルト等が存在しない為、VALPEXに関する理解度というよりも、反応速度や読みの力が必要となる。


 その為、VALPEXに関してはかなりやっている俺とアスカはかなり序盤の方に負けてしまった。


「ふっ残像だ。なんてね!」


 しかし、反射速度が異常なながめが最後まで生き残っていた。


「頑張れ~!!!!」


「後少しだ!」


「うん、頑張る!」


 最後まで生き残ったので勝ってやろうと息巻いていたながめだったが、


「え!?当たんない!」


 最後に残っていた一人に惨敗を喫してしまった。


「なるほどねえ。最後まで残っていたのはカラテちゃんか」


 カラテちゃん。フルネームだと和野カラテ。その名の通り空手がかなり得意なVtuberらしい。


 噂によると空手で全国大会に出場できるほどの腕前を持っており、自家製の3D配信では空手の技を披露していたのだとか。


「確かに格闘家ならこのルールは強いだろうな」


 現実での殴り合いに強い女がゲーム世界の殴り合いで一般人に引けを取るわけが無かったか。


「次こそは一位を取るぞ!」


 ながめがそう息巻いた中始まったのは感度0倍PEX。視点移動が一切許されない鬼畜ルールだ。


 エイムは存在せず、ただ目の前の照準に入った相手のみ攻撃することが出来る。


「よし、全員倒すぞ!」


「そうだね。ヤイバちゃんに勝利をプレゼントしよう!」


「アスカ、ながめ。勝つために戦おうとしている所悪いが、このゲームは戦えば戦うだけ負けに繋がるぞ」


「どうして?敵減らした方が良くない?」


「そうだよ。倒せるときに倒さないと後が辛いよ?」


 このルール、目黒秋が敢えてそうしているのか、気付いていないのかは分からないが、致命的な欠陥がある。


「このゲームは銃の反動で上を向くだろ?撃ちすぎると一生空を眺めることしか出来なくなる」


「「なるほど」」


 だからこのゲームの本質はいかに敵に遭遇しないか。いかに撃たずに敵を倒しきるかの勝負になってくる。


「俺の向いている方角に敵が居た。一応ピンはさしてある」


「じゃあ逃げよう」


「そうだね」


「こっちにも居た。ってあれもしかして……?」


「ながめちゃんどうしたの?」


「全員真上を向いているんだけど、あれ殴り倒せない?」


「「その手があったか!」」


 それから俺たちは青空を見上げている部隊を探し、三人でリンチするという戦術をとった。


 パンチなら上を向くことは無く、ノーリスクで敵を倒せるからだ。


「最後の敵が居たぞ!」


「ちょっと私撃たれてくるね!死にそう!蘇生よろしく!」


「了解!今からスモークを焚きながら少しだけ前を向く!」


「ヤイバ君、敵の状態はどう?」


「全員上を向いたぞ!」


「じゃあ突っ込もう!!!リンチタイムだよ!!」


 俺たちは所持品を回復アイテムと投擲系のアイテムのみで染め、相手の銃を体で受けることだけに特化させた。


「よし、勝ち!!」


「これぞ肉を切らせて骨を切るってやつだね!」


 結果俺たちはあっさりと一位を取ってしまった。


 一応銃で撃つ危険性を理解している所や、パンチで敵を倒すのはノーリスクだと気付いている所は居たが、銃を撃つことを完全に諦めることが出来ていたのは俺たちだけだったらしい。


 そして最後はレイド戦。


 主催者である目黒秋を全員で倒せば勝利という簡単なゲームだ。


 勿論それではただの集団リンチになってしまうのでハンデは存在する。


 参加者はパンチ以外の攻撃手段をとってはいけないというものだ。


「目黒秋は今回の後夜祭のテーマをパンチにしていたってことか」


「あーなるほどね。言われてみれば今回のルール全部パンチが一番強くなるように設定してあるよ」


「何かパンチに因縁があったのかな……?」


「アレじゃない?この間秋ちゃんがチーターにパンチだけで殺されたって事件」


「そんなことあったな」


 大体3か月位前に、目黒秋が個人配信している際にチーターに殴り殺されたのだ。


 目黒秋はVALPEX界隈の中ではトップクラスに知名度があるせいか、チーターやゴースティング被害にあうことは結構多い。


 彼はかなり精神がタフな方なのでそれでも怒ったりすることは無く、有名税だから仕方ないと常に平常心を保っている。


 しかしそんな彼が初めてブチギレたのがこの件だ。


『ここはVALPEXなんだからせめて銃で殺しに来いよ!拳で殺すってお前らは何のゲームがしたいんだ!それがやりたいんならボクシングのゲームとかでやれよ!もしくは撃ち殺せ!』みたいなことを言っていた。


 当然多数の人に切り抜かれ、『チーターに初めてブチギレる目黒秋』とか散々弄られていたし、俺も散々笑わせてもらった。


 流石に配信のネタでキレていたのだろうと思っていたのだが、後夜祭のルールを決めるのは大会の3日前だと配信で言っていたので、相当根に持っていたらしい。


「折角だし煽ってみるか」


 九重ヤイバ『今回も殴り殺してやる。目黒秋の吠え面をかいている様、楽しみにしているからな』


 と深く考えることなく試合前のチャットに打ち込んでみた。


 そうすると、目黒秋のテーマを皆察したのか、一斉に目黒秋を煽っていた。


『うぜーこいつら。銃という文明の利器を使えない原始人の癖によ。文明人である目黒秋様を煽るとか糞生意気だな』


 目黒秋はチャットに飛び交う煽りに対して楽しそうに煽り返していた。


「おーおー、言うねえ。秋ちゃん」


「そこまで言うんなら完膚なきまでに叩きのめしてあげないとね?」


「そうだな」


 ながめとアスカ、そして参加者全員の殺意が最高潮まで達したタイミングでレイド戦が始まった。


 一応有用そうな武器は見つけ次第捨てていきながら目黒秋が潜んでいそうな場所を探す。


「銃声だ!」


 俺たちは音を頼りに目黒秋の元へ向かった。


「結構いるみたいだな」


 俺たちと同様に目黒秋の銃声を聞きつけて駆けつけているチームが数名。


「あ、見つかったみたい!」


 俺たちではなく、近くに居たチームの一人が狙われていた。どうやら見つかってしまったらしい。


「仕方ない、行くぞ!」


 数が減れば減るだけ不利になってくるため、人数が多い今のうちに攻撃を仕掛けることに。


 すると俺たちに乗っかった奴らが後追いで攻めてきていた。


 結果として総勢5チームによる一斉突撃になった。


 しかし距離があったため、一人、また一人と撃ち抜かれて行き、目黒秋が居る建物に辿り着くころには8人にまで数がへってしまった。


「だがこれだけ居れば十分だ!殴り殺せ!」


 俺たちは数と体力に物をいわせた一斉攻撃を仕掛け、リロードの暇を与えないように殴り続けた。


「俺たちの、勝ちだ!」

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