第20話

 最高ランク常連なだけあって抵抗は激しかったが、数の暴力には勝てなかったらしい。


 目黒秋討伐完了後、残存チームは適当に自滅してこの試合を終了した。


 チャット欄は当然目黒秋を煽る文が並ぶ。


「秋ちゃんの断末魔が面白かったらしいよ」


 その間コメントを読んでいたらしいアスカがそう言った。


「どんな感じだったんだ?」


「『やめろー!死にたくない!俺はこのカスタムのマスターだぞ!逆らうのか!』とか悪役全開だったみたい」


「かなりノリノリだな」


 もしかして主催じゃなくて参加者として出たかったんじゃないか?


「あ、最後だ」


 そんなことを話していると、敗北者の目黒秋が最後のカスタムを始めるべくチーム分けを始めていた。


「ぐすっ、ヤイバちゃん、ながめちゃん、これで最後なんだね……もう一緒に遊ぶことは出来ないけど、私の事を忘れないでね……」


「アスカちゃん……私も楽しかったよ。今度会う事があったらまたVALPEXやろうね。ヤイバ君も……」


「うん、絶対だよ。あ、そうだ。ヤイバちゃん、今度、私のお家に来てよ。お泊り会しよう」


「何今生の別れみたいな会話してんだ。いつでも会えるだろうが」


「え、毎日お泊り会してくれるの!?私は大歓迎だよ!今日お家に来てよ!」


 あまりにも突拍子が無い話だから聞き間違いかと思ってスルーしていたら現実だったらしい。馬鹿だろこいつ。


「ふざけんな、駄目に決まっているだろ。通話ならって話だよ」


「でもボイス収録の時は会ってくれたよね?」


「あれとこれとでは話が別だ。配信部屋と家は全く違う」


「え、ヤイバ君の配信部屋ってアパートの一角じゃなかったっけ?ベッドもあるって言ってたし家じゃないの……?」


「ここは家じゃねえ!ただのオフィスだ!誰が何と言おうと!」


 こんなことで炎上してたまるかボケ!!


「え……じゃああの時の『一緒に寝よう。他に誰も居ないから大丈夫。』って言葉は嘘だったの?」


「それはボイスのセリフだろうが!」


「あ、チームが決まったみたい。そろそろボイチャ行くね。じゃあまた!」


「おい、この状況を放置して逃げるな馬鹿!」


「じゃあね、ヤイバ君」


「お前もだ!!おい!!」


 こいつら好き勝手してから逃げやがって……


「はあ……。まあいい、それよりも俺のチームに入ろう」


 俺は目黒秋に割り振られたサーバーに入った。


「よろしく、九重ヤイバだ」


「一番の後輩なのに重役出勤だなあ、九重ヤイバァ」


「まあまあ、この子にも考えがあるんだよ。ヤイバ君、こんにちは!」


 なるほど、そういうことか。さっきの茶番は俺が誰とチームを割り振られたのかに意識を割かないようにするためだったんだな。


 俺が組んだのはVtuber業界の中でもトップクラスの圧の持ち主だ。


 早速喧嘩腰で話しかけてきたのは山田紅葉。アメサンジのヤンキー系Vtuber。


 彼女の圧は純粋な恐怖から。話し方やパワー等、様々な所から見え隠れする威圧感で自然と圧を掛け逆らえないように追い詰めていく。


 そんな彼女を宥めたのがクロ。Vtuber業界最古参の重鎮だ。


 彼女の圧は最古参の大先輩という立場と、場の空気の制圧力の高さから。基本的に命令はせず、お願いという形を毎回とっているのだが、自然とするのが当然という流れに持って行くことに異常に長けている。そのため、実質的な強制となり泣かされたVは数知れず。


「ああ、それはすまない。チーム分けが済んでいることに気付くのが遅れた」


 だが俺はその圧に屈すことなく、いつも通りの俺を貫かなければならない。


 俺は斎藤一真ではなく、九重ヤイバなのだから。


「ふーん……」


 納得いってないみたいな雰囲気を出すのはやめてもらえませんかね。


「とりあえず、全員揃った事だし自己紹介しない?」


「そうっすね。じゃあ私から行きますね。こんこーよー!どうもアメサンジ所属山田紅葉です。じゃあ次はクロさん」


「うん。こんにちは、霊能少女クロです。どうやら今回は最後の方が本当に面白い挨拶をしてくれるらしいので挨拶は短めにしますね」


 ふざっけんな!その言葉が一番面白いものを潰すんだよ!


 苦しんでいる様を見たいんだろうが、どうあがこうが空気が地獄になるんだからな……


「どうも、九重ヤイバだ。面白い挨拶か、そうだな……」


 俺は悩んでいるフリをしてボイスチェンジャーを起動した。


「『私はカスタム、本番で九重ヤイバ様に10キルもされてしまった弱者です。ですので代わりに私が面白いことをさせていただきます』」


 と山田紅葉の声で言った。


「そうか。なら任せたぞ」


 俺はあくまで山田紅葉が言った体を装って丸投げした。


 配信当初身バレ対策も兼ねてボイスチェンジャーを掛けた上での配信を検討していた際に偶然生まれた調整を残しておいて助かった。


「は!?私そんなこと言ってないんだけど!?」


「でもどう見ても山田の声じゃないか」


 念のためコメント欄も見てみたが、中々の完成度だったらしく何人か引っ掛かっていた。


「クロさん、今のは私じゃないって分かりますよね?」


 山田は縋るようにクロに尋ねていたがただ笑っているだけだ。どうやらこっちの方が面白いと思って見守ることに決めたらしい。


「ヤイバァ、手前何をしやがった?」


「何のことだ?俺は普通に挨拶をしようと思っていただけだが」


「絶対ボイスチェンジャーかなんかで用意しただろ?」


「確かにそんな物もあったかもしれんが証拠は残ってないだろ?」


「リスナー!お前らなら私の声じゃないって分かるよなあ?おい!お前ら!」


 どうやらリスナーは俺側に乗っかった方が面白いと思ったらしい。


「ファンも皆本人だと思っているんだから本物じゃないか。言い逃れせずにさっさとやるんだよ」


「そうだよ、紅葉ちゃん。自分で言ったことには責任持たなきゃ!」


「え、あ、あ、試合が始まるから集中しないと!」


 ちっ。やり返す事が出来たと思ったんだが上手く逃げられてしまったな。まあ山田に優位性をとれただけ勝ちとするか。


 キャラは全員被っていなかったのであっさりと決まり、ジャンプ前となった。


「とりあえず今回はジャンプマスター任せたぞ。山田」


「分かったよ。後で覚えてろよ!」


 山田は最強のヤンキーから負け惜しみを言うそこら辺の雑魚チンピラに格落ちしまっていた。

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