第15話
時間が来たので目黒秋によってカスタムが始まった。
「今回、ここに降りていいか?」
俺がピンを指したのはエリア中央。このエリアの中で一番アイテムが豊富であり、最も人が集まる激戦区になっている場所だった。
「そこで良いの?」
「ああ。完璧な勝利の為にはここが一番だ」
ひたすらにハイドして一位になるのが一番の近道だというのは分かっている。
キルポイントも今回はチーム合計6キルまでが限度だから積極的に戦う必要も無いからな。
だが、そうして勝って潰したと言えるだろうか?それは否だ。
だから俺は一番戦闘が行われるであろう地に降り立つのだ。
「オッケー」
俺のわがままに二人を付き合わせてしまうことになるが、今回位は許してもらおう。
「予想通り、血の気の多い奴らが何人も降り立ってきているな」
俺の挑発も効いたのだろう。俺たちの他に4チームほどが近くを飛んでいた。勿論初動ファイト上等だ。
「俺は積極的にキルしに行くが、二人は任せる。危ないなら無理に倒しに行かず、逃げても良いからな」
「オッケー。じゃあ私も戦うよ」
「私も」
「良いね」
2人ともバチバチに戦う気のようだ。非常にありがたい。
一旦物資を獲得するために散開し、各自動き始めた。
「マイティフあった!」
「スピッドアイスとアーマーあった」
「俺も武器は見つかった。北側で戦闘が始まっているな。で、東側に1パーティ、南に1パーティ居るようだ。三方向に視点があるから迂闊に動くと全部から狙われる可能性があるから注意してくれ」
「「了解!」」
ぶっ潰すと言ったものの、かなりきつい状況だな。
一応アプデで強化されたRスターがあるといっても、6対3はなかなかにキツイ。かと言ってこの状況でセンサーをどのチームも使わないってことはあり得ないよな。
「一旦南の敵を狙う。二人は東の敵を警戒してくれ」
このまま時間をかけていくと全員の物資が揃ってくるから厳しい戦いになる。いくら俺たちが強いといっても限度がある。
ならばアーマーが揃っていないことに賭けて奇襲をかける。
初っ端からスキルを使う。
なるほど、敵はまだ武器漁りをしていて離れているみたいだな。
手前の建物に居る奴から行くか。
「ほら潰れろ!」
一人目はレイズ。アーマーは良いものを持っていたが武器が見つかっていなかったようで労せず撃破。
建物から出ると、味方のカバーに駆け付けたヨアラルタルが居た。武器は俺と同じRスターか。
一旦建物に引っ込み、窓から顔を出して敵を狙う。どこから出てくるか気取られないようにしゃがみを併用し、攪乱する。そして撃破。有利な位置取りで助かった。
「二人撃破した。数で押したいからこっちに来てくれるか?」
「了解」
「うん」
残りの一人は全員での同時攻撃により瞬殺。1パーティ撃破だ。
「東の敵はどうなった?」
「北の2パを漁夫りに行ったみたい」
「分かった。一旦様子を見つつ近づこう」
現在も銃声が鳴り響いているため、恐らく戦闘中だろう。
倒したパーティから弾薬を確保したものの、9人を倒しきれるほどあるかとなると微妙だ。
「どうやら三つ巴というよりは二対一みたいな構図になっているようだな」
東側に居たパーティがそのまま北に進んだ結果、北で戦闘中のパーティが挟まれる形になっていた。
「なら西側を狙う感じかな?」
「そうだな。それが無難だろう」
「うん、じゃあグレ投げるね!」
そう言ってながめは一番西寄りの敵にグレを数発放った。
「ダメ入ったみたい!」
ながめの狙いは完璧で、的確に攻撃をすることが出来たようだ。
「ナイス!じゃあ行こう!」
「ああ」
「了解!」
序盤な上に元々戦闘で体力や物資が減っている上、実際にグレネードでダメージを負わせたので体力差で押すべきだとアスカが判断し、特攻を仕掛けた。
「一人ノックダウン!」
「こっちも!」
するとアスカとながめが一瞬で二人を片付け、残りは一人となった。
「ナイス!北側に一人逃げた!狙えるか?」
「無理かも」
「見えない」
「分かった。じゃあ確キル入れといてくれ!」
そう指示すると、2人がキルを入れた表示が出た。
本当に頼りになる味方だ。純粋に実力が高いこともあるが、俺の配信を何度も見てくれているお陰で俺の行動指針をある程度予測して判断してくれているのが大きい。
2人が俺のファンだってことが良い感じに嵌っている。ここまでとんとん拍子にことが進むとは思わなかった。
「一旦物資を回収したら残りも倒そう!」
「そうだな」
「うん!」
そして俺たちは戦闘していた2パーティの内、残っていた方に直接戦闘を仕掛け、無事に勝利を収めることが出来た。
初動で8キルは中々好成績じゃないだろうか。そのお陰で物資も潤沢に得られた上、アーマーもこの段階にしては全員良い育ち方をしている。
「しばらくはここで静かに待っているか。丁度安置の中央らしいしな」
「そうだね。これで一息つける」
敵を全員薙ぎ倒すと言っても、わざわざ敵を探しに行ってまで戦う必要は無いからな。
純粋に見つからなかったら徒労だし、下手に見つかって集中砲火を受けても美味しくない。
動くのは次の安置が決まってからで良いだろう。
「なんかすごい光景だね。キルログ」
安心しきったのか、ながめはそんなことを話した。
「そうだな。すごく遺憾だ」
流れているのは大量の『YIB親衛隊』という文字。
ほんとふざけてんだろこいつら。
俺は改めて全員を殺して一位になる決意を固めた。
「私はヤイバちゃんが皆に見られて嬉しいけどな~。初めてヤイバちゃんの配信を見に来た皆!この子カッコいいでしょ!」
全ての元凶であるアスカは俺の心情など気にすることなく、他の配信者の枠から来た視聴者に俺を布教していた。
「なあアスカ。あとで覚悟しとけよ」
「え、覚悟!?!?もしかして告白?いや、私達もう1年の付き合いだし、プロポーズとか?遂に推しとそうなる時が来ちゃったよ。皆、応援ありがとう!私幸せになります!」
俺の発言を曲解したアスカは一人盛り上がっていた。
「脳みそ腐ってんのかお前は。どう解釈したらそんな結論になるんだ馬鹿」
「はい、私腐女子ですから!」
「そういう意味でもねえよ」
このカスタムの殆どの参加者とリスナーを味方につけたアスカは無敵で、何を言っても今日は無駄のようだ。
「あ、次の安置来たよ」
その後も言い争いをしていると、ながめが俺達の思考を戦場に戻す報告をした。
「少し移動しないといけないみたいだな」
安置の円は右端に寄り、俺達がいる所はギリギリ安置から外れていた。
「今の所敵は近くに居ないみたいだしさっさと入ろう」
「多分反対側に全員いるんだろうね。もう残りは私達除くと2部隊で5人しか居ないし」
「は?どうなってんだ今回。まだラウンド3だぞ」
まだそこまで敵を減らせる程エリアは狭くないぞ。
全員が漁夫を狙ったにしてもまだ7パーティは居るぞ。
「もしかしたら皆ヤイバ君をキルする栄誉を狙って敵を探し回っていたのかもね」
栄誉って。まあここまで俺を弄った上で本人をキルできたら配信として美味しいものな。
「でこのザマってわけか。勝手に死にやがって。俺が殺すまで生きていろよ」
「じゃあ残りを探しに行く?」
「ああ、そうしよう」
俺はながめの提案に乗ることにした。
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