第14話
「はい、始まりました!」
「オッケー。じゃあ自己紹介をしよう」
「ながめちゃんからどうぞ!」
そして三人挨拶を済ませ、ホストの目黒秋が開くカスタムに入った。
画面には、ながめが所属するゆめなまや、アスカが所属するUNIONの他にも、アメサンジ所属の人や、有名な個人V、数合わせで参加するコーチ役のプロゲーマー等、見たことのある名前が並んでいる。
「なんか変な名前な奴がいるな。誰だこいつら?」
そんな知っている名前の中に、どう考えてもVtuberではない名前が並んでいるのを見つけた。
ツーピースの八皇や、刀滅の鬼の刀滅隊にいる上弦の月の誰か等、既存のキャラクターの名前をそのまま使っているのだ。
「アレは結城泉さんで、こっちは神葉くん。あの三人はタラマちゃんのチームだね」
マジか。大手事務所アメサンジのVtuberばっかじゃねえか。
「何故またそんなことを……」
紛らわしいだろ…… もう少し理解が出来る名前にしてくれ……
Vtuberを深く知っているわけじゃねえんだからよ。
「そりゃあそのキャラが好きだからじゃない?」
と話すのはながめ。
「確かに好きなキャラの名前を付けてゲームしたこともあったな」
小学生の頃とか。
「そうだよ。好きな名前を付けたらアガるじゃん!」
と語るのはログインが終了し、カスタムにある俺たちのチームに入ってきたアスカ。
名前は『YIB&NGM親衛隊隊長雛菊アスカ』。説得力抜群だな。
「なるほど、アスカ達がそんなことをしている理由はよく分かった」
馬鹿なんだな。流石にアスカ以外に関わりが無い状態でこれを言ったら炎上案件なので口には出さないが。
「ってことで次は二人も変えてみようね!」
「そうだな」
「いいね、そうしよう」
俺は炎上回避の意味も込めてその罰を受け入れることにした。だが、どんなのが良いのだろうか。
アガサ『刀にならないのなら殺す』
ワナミ『殺しちゃうのでよろ~』
「なんか始まったな」
カスタム開始まで時間があるからか、下のチャット欄で遊んでいる人が居た。
「ヤイバちゃんも何かコメントしたら?事務所総出で持ち上げるから」
その言葉の後、アスカから凄まじいタイピング音が鳴り響いた。本当にUNIONのメンバーにチャットを送ったのか。
「何かって言われてもな。二人以外は関わりないから滑るだけだろ」
「ふっふっふ。私の事務所を舐めるでない!画面を見よ!」
「アホだろお前ら」
画面を見ると、『YIB親衛隊』という名前を付けたVtuberが7人に増殖していた。
恐らくアスカが連絡して名前を変えさせたのだろう。
「おおお、すごい。流石アスカちゃん」
そこ、素直に感心しない。軽く炎上案件だからなこれ。
ガチ恋勢が俺の所に特攻しかねないからな。
まあこうやって仲良く接してくれるのはありがたいことだが、とりあえず名前を戻させないとな。
九重ヤイバ『アスカにいくら積まれたんだ?』
九重ヤイバ『さっさと戻せ。頼むから』
「私がそんなことすると思っていたの?悲しいよ私……」
俺がそうチャットすると、突然悲しむ演技をするアスカ。無駄に演技が上手い。
「ちょっとヤイバくん、理由も無く人を疑うのは酷いんじゃない?」
するとながめが乗っかってきやがった。ふざけんな。
「俺は悪くない」
ファンなら味方してくれよ……
YIB親衛隊柊カナメ『アスカちゃんのせいじゃないよ!自主的です!』
YIB親衛隊東雲リサ『九重ヤイバ様はファンを拒むんですか?』
お前らもか。味方はどこにも居ないのか。
九重ヤイバ『それは違うだろ』
YIB親衛隊南一色『同じです!』
「ヤイバくん!アスカちゃんに謝って!」
面倒を同時に二つ起こさないでくれ……
九重ヤイバ『もういい。勝手にしてくれ』
YIB親衛隊華山ミズキ『やったー!公認だ!』
「はいはい俺が悪かったよ」
これ以上戦っても勝機が見える気配が無かった。
ここまで多くの人と同時に関わるのにはハードルが高すぎたみたいだ。
「じゃあ今度オフコラボしようね!私の家で!」
「ふざけんな。大炎上するわ」
「別にしないけどなあ……なら私の事務所で!それなら問題ないでしょ?社員さんもいるし何なら他のライバーも居るだろうから変な事にはならないよ?」
「はあ……仕方ないな」
最初からこの予定だったんだろうな。してやられた感があるが、そもそも乗り切る方法なんて無かっただろ。
まあこれでどっちも解決か。ただカスタムしに来ただけってのにどれだけ疲れさせるんだよ……
「開始は5分後だって」
「分かった」
今までの流れは完全に忘れ、カスタムで一位を取ることに意識を集中させた。
「今日の目標は総合一位だね」
「勿論だ。この俺が居るんだからな」
「とかいってまた初動で落下死しないでよね、ヤイバ君」
「アレは飲み物を取り損ねて手が滑っただけだ。そんなミスは二度としない」
「ほんと?」
「本当だ。ながめこそするなよ?」
「あんなミスするわけないでしょ」
「……悪かったな」
俺はマイクから若干離れ、深呼吸してからお茶を一口飲む。
そしてそのお茶をPCに向けて吹き出しかけた。
YIB親衛隊を名前に付けた参加者が一気に現れたのだ。
それはカスタム参加メンバーの約半数。俺の反応を面白がって変えやがったのだ。
フットワーク軽すぎんだろVtuber。
九重ヤイバ『ふざけんなお前ら』
YIB親衛隊望『神様!応援してます!』
YIB親衛隊タラマ『暴言美味しいです!』
九重ヤイバ『お前らの考えはよく分かった。全員ぶっ潰すから覚悟しとけ』
「やってやろうじゃねえか。ながめ、アスカ、全部で一位を取るぞ」
「うん!」
「それでこそヤイバちゃんだよ!」
そこまでしてくるのなら俺にも考えがある。配信映えとか炎上とか知ったことか。
圧倒的力で全てを薙ぎ倒してカスタムをぶっ壊してやるからな。
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