第16話

 普通にこのままやっているとかなりの間虚無になるし、残っている5キルを取られるのも癪だからな。


「撃ちあっているよ!」


 敵の居そうな反対側に到着すると既に戦闘が始まっていた。血の気多すぎだろ。


「まだキルは無いみたいだな。数の少ない方を狙うぞ!」


 3人フルパの方を狙うと倒し損ねた奴が先に倒してしまうかもしれないからな。


 完全に悪手であることは分かっているが、今回は俺の意地を優先し、二人になっていた方を狙うことにした。


「一人倒したぞ」


「私も倒したよ!」


 俺がフルパに近い方を倒したタイミングで、アスカがもう一人を倒してくれた。


 これで残るはフルパが一つのみ。


「お互いに居場所は割れている。完全に正面衝突だ。突っ込むぞ!」


「「了解!」」


 俺達全員メインがブラドということもあり、密着状態の方が有利だと判断した俺はそう指示した。


「グレ投げるよ!」


「おう、投げれるだけ投げろ!そしてウルトもスキルも全開放だ!」


 俺達は残っている全てを使って攻撃を仕掛けることにした。一瞬でカタを付ける。


 当然相手も俺たちがやってくるのを知っているため、迎撃しようと試みる。


 しかし、


「突撃じゃあああ!」


「こっちに一発も当たってないぞお前ら!」


「逃がさないよ!」


 俺達の勢いに後手を取って対応するのは難しかったようで、全員溶けるように死んでいった。


 そして表示されるchampionの文字。一回戦は無事に勝利を収めることが出来た。


「ふう、これで一勝か」


 色々めちゃくちゃな試合だったが、無事に勝てて良かった。


 あんな宣言をしておいて初手から2位でしたはダサいからな。


「チーム合計13キルだし、中々調子いいね」


 初動と最後以外何もしていないが、ここまで殺せたのなら十分か。


 俺個人でも7キルしたしな。十分だろう。


「なんかすごい結果になってるね」


「ほぼ全員が一か所で戦っていたようだな」


 かなり大混戦になっていたことは何となく予想ついていたが、10位のチームが合計で18キルしているのはなかなかに狂っているだろ。


 初動生き残って良い感じだと思っていた俺がバカみたいだ。


 九重ヤイバ『弱者どもめ』


 だが、煽ることは忘れない。大量キルした上で一位になったのは事実だからな。


 普通ならキレられてもおかしくないのだが、今回のカスタムは『YIB親衛隊』だらけなので問題ない。


 その結果、流石ヤイバ様!とかかっこよかったです!とか賞賛のコメントばっかり返ってきていた。


 やめろ。褒められると少し申し訳なくなってしまうだろうが。少しくらい乗ってこい。反感を覚えろ。




「なんだこのカスタムは。練習になってないだろこれ。楽しかったのは事実だが」


 全6試合のカスタムを済ませた後、俺はそういった。


 というのも、最初のカスタムだけでなく、全ての試合で初っ端から大乱戦が起きる試合ばかりだったのだ。


 皆が降りてくる位置が何となく予想できるようになったせいか、試合の終了速度も回を重ねるごとに短くなり、最後のカスタムは2ラウンドまでで全て終わってしまうのではというレベルだった。


 その結果3時間くらいかかるはずだったカスタムが2時間も経たずに終了するという異常な事態となっていた。


「一応乱戦の練習にはなったよ。4チームとか5チームとかが近くで戦闘になるのって稀だけど難しいし。いい経験になった」


「確かにそうだな。それは非常に良かった」


 俺はながめのフォローに同意した。本番で起こるとは考えにくいが、乱戦は普段のランクマでポイントを損失する事故につながることも多いしな。


「それもこれも私のお陰だね」


「「アスカは反省して」」


「あ、はい」


 流石に早く終わりすぎたため、目黒秋による判断待ちの状態だったが、あくまで本番を意識した練習だから今回はここまでにするとのこと。


 そもそもこれ以上やってもまともな練習になるとは思えないしな。


 ということで配信を終わらせ、二人ともボイスチャットを切った。


「疲れた……」


 配信に関わる全ての機械の電源を切った後、俺はため息をついた。


 たった二時間しかVALPEXはプレイしていないが、絶対にどのチームにも負けてはいけない上に、事故が非常に起こりやすい環境だったのが余りにもしんどかった。


「まあそのお陰で結構評判は良さそうだけど」


 確認した所、俺の配信に1,5万人位来た上、ツリッターで俺の名前がトレンドに入っていた。


 別に視聴者を増やし有名になることを最優先にしているわけではないが、こうやって数字が出ると素直に嬉しい。


 葵とペアを組んで配信をするという事を除けば、参加して非常に良かったと言える一日だった。


 絶対にアスカに感謝はしないがな。




 初回のカスタムで一気に注目を受けたことにより、初回程ではないがその後のカスタムにもいつも以上に視聴者が集まっていた。


 その結果、先日上げた歌も相まってカスタム最終日を迎える頃には登録者20万人の大台に達していた。


「やっぱり九重ヤイバ君はすごい!たった数日で登録者を倍増させるなんて……」


 それが何を意味するか。葵が興奮して俺について俺に話しまくるのである。


「そうだね」


「皆が九重ヤイバ君を見ているって想像するだけで幸せ。もっともっと大きくなって、ゆくゆくは滅茶苦茶大きい会場で単独ライブとかして欲しいな。絶対行くから」


「うん」


 俺はその話を聞いていて、内心非常に焦っていた。別に葵に正体がバレそうとかそういうわけではない。


 今日が大会当日だからである。


 今までのカスタムが午後十時開催だったから飯を食うのが七時でも余裕を持って配信を始められていた。


 大会は九時に開催されるため、八時半までには配信の準備を終わらせておかないといけない。となると時間に余裕が無くなるため今日は葵が飯を食べるのを断ってくると思っていた。


 しかし葵は俺の家に来て飯を作っていた。


 少しくらいは時間を考えてくれ、葵よ。


 今日くらいウバーイーツで良いだろ。本当に。いや、断らなかった俺が悪いのかもしれないが。


「で、九重ヤイバ君がね~」


 こいつ、まさか八時半までぶっ通しで喋るつもりか……?



「ってわけなんだ。楽しかった、じゃあね!」


「うん。バイバイ」


 結局葵は八時半になるまで延々と話を続けた。

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