第5話
「とりあえず、配信の話をしませんか?」
場の空気を戻そうと気を遣ってくれたのか、ながめがそう提案した。
「そうだね」
そこで我に返った俺は、数分後に待ち受けている配信に向けて話し合いをすることにした。
とはいっても配信内での名前の呼び方や敬語を使うかどうか、NGのワードや話題が無いかといった簡単なものだった。
「じゃあ配信を始めよう!」
俺たちはアリスの合図に合わせて配信を始めた。
「こんにちは!雛菊アスカですっ!!今日も楽しく配信をやっていきましょう!今日は大会に向けての顔合わせ配信ということで、自己紹介よろしく。まずはながめちゃん!」
「ゆめなま所属Vtuber、水晶ながめだよ。皆よろしくね!」
「そしてヤイバちゃん!」
「どうも、個人勢の九重ヤイバだ。今日はよろしく頼む」
「ということで私が強権を使って二人を招集しました!」
それから軽く経緯などの説明を交えた雑談をして、早速対戦を始めることになった。
「えっと、皆キャラクターってなんだっけ?私はブラド」
「私もブラド」
「俺もだな」
まさかの全被りだった。アスカが同じキャラなのは知っていたがながめもだとは思わなかった。
そんなことを考えているとメッセージがアスカから届く。
『ファンだったからつい同じのをメインにしちゃってた。許して』
そういうことか。確かに配信だとこれ以外はほぼ使っていないものな。
「じゃあ二人は別のキャラにしないといけないな。アスカは他のキャラだと何が使える?」
俺は答えが分かり切っていた質問をアスカに聞いた。
「他ってなるとイレースかな?」
だろうね。アスカが選んだのは俺の第二メインに当たるキャラだ。
「じゃあ俺はヨアラルタルにするか」
ながめ以外メインではないキャラを選ぶ都合上、練度にも限界があるので一番メジャーな構成にするためにこいつを選んだ。
まあ全員が割と上手い方だからどうにかはなるだろう。俺とアスカが死ぬほど頑張ればいい話だ。
「じゃあ行こう!」
キャラ分担が終わったことでようやく試合を始めることに。
「ジャンパ私だ~」
どうやらながめがジャンパ権を握ったらしい。
「ながめの好きな所に降りてみよう」
「分かった!ここで!」
ながめはいつも通り振る舞っているようだが、若干テンションが高い。九重ヤイバと共演できたからってことか。嬉しい限りだが複雑だな。
ピンを刺したのはランドセンター。建物が密集していて漁りポイントが非常に多い場所だ。
近くに来たので落下した後、着陸より少し前に分かれて各々漁りに向かった。
今回は近くに敵は居ないみたいなのでしばらくは漁りだけしておけば大丈夫そうだな。
「敵も居ないみたいだし、お互いの事をよく知りましょう!」
アスカがそう言いだした。しまった、暇なときは会話になるんだった。強引にでも敵が多い場所に落ちるように誘導すればよかった!
「確か二人とも17歳だったよね?学校とか行っているの?」
ド直球の地雷だった。
「一応通ってはいるな」
「私も」
水晶ながめは普通の人として活動しているので高校生として活動していることにしているらしい。現実的な範囲で上の年齢に設定すると会話内容とかで色々不都合が出てくるからな。
そして俺も同じく高校生であることを公表してある。というのもぐるぐるターバンが年齢を公表しているため、知り合いということを手っ取り早く説明するためだ。
高1にVtuberの依頼をする完全素人の成人男性とか怪しすぎるしな。
そんな理由で正直に年齢を公表していることが思いっきり仇になった。
「じゃあさ、二人ってもしかして制服を来て学校に行ってる?ねえどんなの着ているの?」
とか考えているとそんな心配とは一切関係ない欲望丸出しの質問が飛んできた。
確実に喋らせた後ファンアートが描かれることを見越して聞いたなこいつ。
学校イベントや部活とかを掘られてしまったらかなり怪しい所だった。
「私はセーラー服だね。よくある赤色の奴」
ながめは一切疑うこともなく答えていた。まあ制服はどこにでもあるものだから言っても問題無いのか。
「セーラー服!!絶対可愛いじゃん!!セーラーながめちゃん、いや完璧か!」
恐らく水晶ながめにセーラー服を着せた姿を想像しているのだろう。ハイテンションを維持しつつ悶えていた。確かに似合ってはいるし、可愛いのだけれど葵本体がちらつくので色々と複雑な気持ちだ。
別に葵が可愛くないとかではなく、水晶ながめのコスプレした葵がウチの制服を来て投稿している姿を想像してしまうのだ。
考えただけでも非常に気まずい。
「じゃあヤイバちゃんは?」
「学ランだな」
あまり情報を与えると身バレに繋がるのでそれだけ答えることにした。
一般的な高校の学ランはボタンが5個なんだが、ウチは何故か8個くらいある。
流石にそれを話してしまうと結構絞り込まれてしまうので伏せることにした。
「学ランかあ……ヤイバちゃんにめちゃくちゃ似合っているじゃん。いかにも漢!強者って感じがして最高!」
どうやら学ランがお気に召したようだ。
「ウチの高校も学ランだよ。一緒だね」
おい葵!それは地雷だ!
「そ、そうなのか」
全力でカバーしようと思ったが何も言葉が思いつかなかった。
「もしかしたら同じ高校って世界線が!?推し二人がクラスメイトとか夢じゃん!」
アスカ、お前はそうだと思っていないみたいだけどそれは現実なんだ。
そんなことを知らない二人は呑気に楽しく会話をしている。
「敵来たよ!」
これ以上墓穴を掘りたくはないと思っていたら、敵という助け船が来てくれた。
流石に戦闘中はそれに集中するので、完全に話題を切ることに成功した。
無事にその戦闘に勝利した後は再び日常会話に戻ったが、その話題に触れられることは無かった。
そして3時間程VALPEXをそつなくこなし、何とか配信を終えることが出来た。
「お疲れ様~」
「お疲れ様でした~」
「ながめちゃんとヤイバきゅんって本当に初対面だよね?」
配信を終えた後、アスカがそんなことを聞いてくる。
「勿論初めましてだよ。アスカちゃん知ってるでしょ!」
と照れた様子のながめ。
「そういえばそうだったね。ヤイバきゅんと話したら私に報告してそうだし」
「そうだよ!」
「の割には会話のテンポがかなり良かった気がするんだけど。特にヤイバきゅん」
配信中つい葵って呼んでしまわないかと気を付けていたせいで会話のテンポとかは考えていなかった。
とはいっても人が気付く程の事じゃない気がするんだけどなあ。
「俺はいつも通りだと思うが?」
どうせバレやしないと高を括った俺は適当に誤魔化すことにした。
「本当に初対面なんだ……ならめちゃくちゃ相性良いじゃん。二人でコラボしなよ!」
誤魔化せたのは良いものの、今度は別の困難が飛び掛かってきた。
相性良いってそりゃあ幼馴染だからなあ……
「ほんと?ヤイバ君、コラボしてくれますか?」
アスカの言葉を鵜呑みにしたながめはそのままコラボの申し出をしてきた。
確かにアスカは社交辞令を言うようなタイプじゃ無いから紛れもない事実なんだろうが、行動力が高すぎるよ。
推しの為ならば行動力が凄いってことか。
「良いですよ」
ここで断ってしまったら葵のテンションが下がりまくって明日の飯時が気まずくなるのは目に見えている。
自分で断って自分が被害を受ける位ならコラボを受けた方がマシだ。
「ありがとう」
と穏やかに感謝をする裏でえげつないスピードでタイピングを打つ音が聞こえてくる。
「ぶふっ」
収まった瞬間にアスカが吹き出した。どうやらアスカに感謝のメッセージか何かを送ったのだろう。
それも長文で。
「とりあえず、明日も学校だから早く寝ないと」
時計を見ると12時を既に回っており、帰宅時間を考えるともう配信部屋を出ないと怪しい時間帯だったので早々に切り上げることにした。
「オッケー。おやすみ~」
「おやすみなさい」
俺は通話を切った後、早々にPCの電源を落とし、ダッシュで自宅へと帰った。
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