第4話
「んで、用件は何だろう?」
画面を埋め尽くすスタンプの嵐を遡り、本題を見つけた。
『ヤイバきゅん、ヤイバきゅん、Vtuber限定のVALPEX大会に出ない?』
といったお誘いだった。
「確かにそんな話があったな」
ここ最近エゴサをしていると、俺が誰かに誘われないかなって話を目にすることが度々あった。
俺はVtuberとしての知り合いは左程多いわけでもないし、主催である目黒秋とは話したことすらない。
だから無理だろうなと思っていたけどこの人が居た。そういえばそこそこ大きな事務所所属だし交友関係も広かったな。
「『ありがとうございます。是非参加させてくださいです』っと」
早朝に通知で起こされたことも忘れ、感謝の意も込めて丁寧な話し方で返信した俺は最高の気分で登校することが出来た。
「いやあめちゃくちゃ嬉しい」
昼休み、俺は飯を食いながら前回のVALPEX大会の参加者発表のアーカイブを見ていた。
これに出るのか俺⋯⋯
「何見てんだ?」
そういえば樹には伝えてなかったな。
「前回のVALPEX大会の出場者発表。俺もこれに出るらしいんだよ」
「マジか!やるじゃん。で誰と出るんだ?」
「雛菊アスカだよ。もう1人は分からない」
恐らく残りのメンバーは既に教えてくれているのだろうけど、誤爆などを避けるために配信用のスマホは家に置いて来ているので確認のしようがない。
「ああ、あの人か。お前の事やたら好きだもんな」
「ありがたいことにね」
他のVtuber と関わりのない俺がアスカさんと仲良くなれた理由の90%がそれだ。
アスカさんは元々ぐるぐるターバンの絵が好きで、その人が手がけたVtuberだから絶対に見なきゃってことで配信に訪れた結果、ガチ惚れしたらしい。
それ以降熱烈なアプローチを受けて、今の関係があるのだ。
純粋に俺の事を評価してくれているのもあるが、デビュー時期が3か月しか変わらず仲間意識のようなものがあったのも大きい。
「俺も出来るのなら参加したいんだけどなあ」
樹は俺に祝福する一方で、参加出来ないことに悲しみを覚えていた。
「樹の場合枠がちょっと違うからね」
樹もぐるぐるターバンとしてVtuber活動を行ってはいるのだが、イラストレーターがあってのVtuberみたいな形になっている。
だからVtuberではあるけれど絵師枠になってしまうため参加条件を満たさないらしい。
「普通のYoutuberも参加できる方に呼ばれるしかないね」
なんだかんだVtuberの中にファンが多いので、いずれ招待されるだろう。
「そうだな。全力で目黒秋に媚び売ることにする。今日から毎日ファンアート描く」
「迷惑だからやめとけ。せめて一月に一枚」
有名人が毎日自分のファンアート描いてくるのは流石に恐れ多すぎて怖いだろ。
学校も終わったので家に帰り、配信用のスマホを開いてみると返信が来ていた。
『ありがとう!じゃあ明日発表終わった後からコラボね!』
とだけ返事が来た。明日の発表ってのはVALPEX大会の開催決定のお知らせだろう。
ってことはあの配信に俺の名前が初めて乗るのか。めちゃくちゃ嬉しいな。
「そういえばもう一人の事教えてもらっていないな。誰だろう」
もう一人は誰かを確認するメッセージを送った。
が、『当日までのお楽しみだよ!』とのこと。
アスカが呼んだ人であれば心配は無いが、何も知らない可能性もあるってのは流石に怖い。
どうか知っている人であって欲しい……
翌日。俺は目黒秋にどんな紹介をされるのか楽しみに配信を見ていた。
発表される面々は全員超有名なVtuberばかりで、今更ながら大舞台に立つことに対して緊張してきた。
『そして次は雛菊アスカチーム』
遂に俺の番になった。そしてその画面を見て思わず椅子から転げ落ちた。
『雛菊アスカさん、水晶ながめさん、九重ヤイバくん』
「嘘でしょ……」
知っている人なら良いなと思ったが、知っているどころの騒ぎじゃない人だったよ。
『今シーズンは雛菊アスカさんと九重ヤイバくんがダイヤ3、水晶ながめさんがプラチナ2、だね。正直ここはかなりヤバいと思っています。雛菊さんはマスター帯経験者。そして九重くんに至ってはプレデターに何回も到達している猛者です。そして水晶ながめさんもダイヤに乗ったことがありますしね。ただ3人の持ちキャラクターが丸被りしているので、2人も本職を使えないというハンデを負う点が懸念点ですかね』
それ以降も色々と話してくれているっぽいが、正直そんな話を聞いている余裕なんて無かった。
一旦落ち着いてお茶でも飲もう。
「ふう」
落ち着けるわけが無かった。
でも大丈夫だ。あっちは俺の事に気付いていない。いつも通り冷静にやれば何も起こりようが無い。
目黒秋の配信が終わったので、意を決してrescordを起動しアスカのいるボイスチャットに参加する。
「こんばんは~」
あくまで冷静を意識して、いつも通りの挨拶を試みる。当然声は配信用だ。
「こんばんは、ヤイバきゅん!楽しい配信にしようね!」
そんな俺の心配なんて知るわけもないアスカは明るく挨拶を返す。
「そうだね」
と返したタイミングで水晶ながめこと羽柴葵が入ってきた。
「こんばんは~」
「こん~!」
「こんばんは。今日はよろしくお願いします」
幼馴染とはいえ、一応初対面?だから丁寧に挨拶をする。
「3人揃ったね!じゃあ私からお互いの紹介をしよう。まずは水晶ながめちゃんから」
「知っているかもしれないけど、ゆめなま所属のアイドルだよ。私達とゲームの趣味が合うだけでなく、素晴らしく可愛い!マイエンジェル!」
とハイテンションで紹介をするアスカ。もはや配信外とは思えない。
「よろしくお願いします、ヤイバさん」
「こちらこそ」
「そして九重ヤイバきゅん!個人勢の星!いや神!最高!以上!」
「それだけ?」
余りにも短い紹介だった。正直水晶ながめの紹介の方も短かったけれど、まだ情報があったぞ。
「だってながめちゃんはヤイバきゅんの事ちゃんと知っているし」
「実はファンなんです」
「そうなんだ」
お前は葵だからな。俺は極力初めて聞いたふりをする。顔が映っていないから多分バレていないはずだ。
「何を隠そう私がヤイバきゅんの魅力を徹底的にプレゼンしたからね!そしたら見事に同士になってくれたよ!」
犯人はお前か。
「なるほど。アスカさん?」
「えっと、何かな?」
「まさか色んな人にこんなことしてないよね?」
配信で俺の話を頻繁にしていることに関しては別に構わないけれど、同業者にそんなことをされているのは恥ずかしくて仕方ない。
「えっと…… ながめちゃん以外だとUNIONの皆にしました」
「何人ぐらい……?」
「全員です……」
「嘘でしょ……」
確かUNIONって10人くらいいたよな……
「でも!見事布教に成功したので全員で推してるから大丈夫!時々配信外で同時視聴会しているよ!」
何とかなったから大丈夫とでも言いたそうな口ぶりだけど、同僚全員に布教したという事実が大問題なんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます