第3話

 共に見た滅亡フラグは今回も非常に面白かった。


 2期が始まると聞いた当初はもうやる事無さそうだけど大丈夫なのかって思ったけれど、そんなことはなく普通に話は進んでおり、1期と負けず劣らず良いものだった。



「いやあ面白かったね!」


「そうだね」


 アニメが終わるなり出た葵の感想に俺も同意した。


「それじゃあそろそろ帰るよ」


 俺はそのタイミングで帰ることにした。


「はーい」


「じゃあまた明日」


「ばいばい」


 俺は葵の家を出て、自分の家に戻った。


「大丈夫そうだな」


 そして家の窓から葵が見ていないことを確認して、再度家を出る。



 そうして向かった先は別の家。こちらは俺と葵の家とは違い、アパートだ。


 予め貰っていた合鍵を使い中に入る。


「入るぞ~」


 一切返事が返ってくる様子が無いが、単に聞こえてないだけだろう。


 俺は家主が居るであろう部屋を開け、中に入った。


「おう、ヤイバか」


 その家主とは堀村樹。ぐるぐるターバンだ。


 一真ではなくヤイバと呼んでいる理由は、ここが配信をするために用意された家だからだ。


 つまるところ誤配信による身バレ対策の一環って奴だ。


 実は樹による手厚いサポートの中に、配信部屋の提供というものがあった。


 企業ですらこんなことはしないとは思うが、樹はそれを普通かのようにやってのけた。


 以前たかが一般人を配信者にするために金をかけすぎじゃないか?と本人に聞いてみたが、本人曰く初期投資を中途半端に惜しんでも碌な結果にならないからということらしい。


 それでもここまでの金を用意するのは大変だっただろと言ったら無言で通帳を見せられた。


 そこに書いてあった額は1億円。ふざけんな。


 というわけで俺は金関連でこいつに遠慮することをやめた。嫉妬だよ嫉妬。分かっているよ。


「今日はコラボ配信だったよな?」


 俺も俺で素が出ないようにこの時点で配信用の口調に少しずつ慣らしていく。


「ああ。今日はVALPEXだ。キャリー頼んだぞ?」


「任せろ」


 それだけ確認した後、俺はもう一つの配信部屋の方に入った。


 いつも通りPCを起動し、配信ソフトを起動。最後に配信を開始する。


「今日も配信を行っていくぞ。今回のゲストは」


『ぐるぐるターバンだ!よろしくな!』


 同じ家に居る奴とネットを通じて会話するのは色々とおかしな話だが、1年もやっていたら流石に慣れた。


 雑に挨拶を済ませた俺は、樹と共に配信を行う。


 今日は樹をプラチナ2からダイヤに昇格させる回だ。本人はキャリーしてくれとか言っているが、別に樹が弱いわけではない。


 最近シーズンが変わってランク帯がリセットされた際にプラチナに落ちたまま、仕事が忙しくてやれていなかったため差がついているに過ぎない。


 とはいっても俺もダイヤの3だし、大した差は無い。


 後一人は野良を連れてくることになるが、それでも楽な配信になるだろう。


『ダメージ与えた!おっさんアーマー無い!』


「了解。奥義を使う」


『突っ込め!』


「勝ったな」


『おっしゃあ!』


 開始から3時間。無事に樹をダイヤに連れてくることが出来た。


「じゃあ配信を終了するか」


『そうだな!俺たちのチャンネル登録、高評価よろしくな!』


「最近歌動画を上げたからそちらも見てくれるとありがたい」


『じゃあな!』


 そして配信を切る。念のためスマホから自分のチャンネルを確認し、本当に終わっているかを確かめてからPCをシャットダウンする。


「お疲れ」


 飲み物とかのゴミを片付けてから部屋を出ると、リビングで既に樹が寛いでいた。


「おう」


 樹の言葉に軽く返事をすると、アイスが投げ渡される。


「食おうぜ」


「そうだね」


 配信モードが完全に抜け、いつも通りのテンションに戻った俺たちは、仲良くカップアイスを食べる。例のダッツだ。


「にしても一真が10万人か~!まさかここまでやってくれるとは思わなかった」


 机のど真ん中に鎮座している段ボールを見て樹がしみじみと話す。


「パソコンを買ってくれるって聞いたらそりゃあやるしかないわ」


「とか言いつつ楽しんでんじゃないの?」


「楽しくないって言ったらウソだけども。とりあえず開けようぜ」


 棚からカッターを取り出し、段ボールを開封する。


「すっげえ……」


 段ボールの中身は銀の盾。10万人を突破した配信者に贈呈されるという幻のアイテムだ。


「映像で見ても何とも思わないけれど生で見ると感動が違う」


 映像で見た時の数倍くらい重みを感じる。持ってみたいけど怖すぎて触ろうとする手が震えて仕方がない。


「そりゃあ俺たちの力で手に入れたもんだからな。映像で見たのは他人のだから正直ちょっとおしゃれな金属でしかないし」


「それもそうか」


 樹と会話をしているが、そわそわして落ち着かない。


「とりあえず記念写真でも撮っておくか」


「そうだな。後でファンに見せる用のイラスト描いておくよ」


「ありがとう」


 俺はとりあえず現物単体の写真と、俺とのツーショットと、俺と樹と銀の盾のスリーショットの3種類を撮った。


 盾と樹のツーショットを撮るかどうか聞いたが、それは自分の盾でやると言っていた。


 その後飾る場所を色々考えた結果、配信部屋にしようということになった。


「一真はこれからどうする?家に戻るか?」


「そうするわ。葵に不審がられてもアレだし」


 一緒に家で飯を食った後帰宅したと思ったら別の家に泊まりに行ってたとか不審以外の何物でもないからな。


 一応葵もVtuberだからバレた所で何か問題が起こるとかそういうわけではないが、全力で身バレを避けるという俺のポリシーの都合上気を付けることにしている。


「それもそうだな。俺はこの家で寝るわ」


 樹は非常に眠たそうだった。ここ最近仕事で忙しかったせいだろう。


「なら鍵は締めとくわ」


「助かる」


「じゃあ明日な」


「おう」


 そのまま樹は寝室に向かったので、家の戸締りをして電気をしっかり消してから帰宅した。


 翌日の朝、設定したアラームではなく、『rescord』の通知音で目が覚めた。


 何だと思いスマホを見てみると、20個位メッセージが来ていた。


「うわ……」


 それも同一人物から。


 そいつの正体は『雛菊アスカ』。俺と同じVtuberの一人だ。とはいっても俺みたいな個人で活動しているわけではなくUNIONという事務所に所属している企業勢と呼ばれる側だが。


 俺がVtuber始めたての頃から仲良くしてくれた女性で、配信外でも仲良くしてくれる非常に有難い存在なのだが、どうしようもなく生活リズムが崩れている。話によると夕方の5時とか6時に起きて寝るのは朝10時とからしい。


 これに関してはVtuberあるあるで、別に他のVtuberも似たような生活をしていることが多いのだけれど、現役高校生である俺としては困りものだった。

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