第2話
授業も終わり、部活も無いので帰宅した俺は葵の家に来ていた。
「麻婆豆腐でいいか?」
「うん!」
というのも葵の為に料理を作ることが目的だ。
お互いに両親が仕事で家を空けていることが多いため、当番制で飯を作りあうことになっている。
今日は俺の担当ということで葵の家で飯を作っていた。
「いただきます!」
「いただきます」
俺は完成した麻婆豆腐を口に運ぶ。うん、中々上手く出来たんじゃないか。
「美味しい、流石一真」
葵は非常に美味しそうにご飯を食べている。どうやら自己満じゃないらしい。
「それは良かった」
「そういえば一真、月刊少女堀くんの新刊出たよ」
「マジか!借りても良い?」
月刊少女とか言いながら13カ月に1回くらいの頻度でしか発売されない漫画の最新巻だ。流石にテンションが上がる。
「良いよ。ご飯は私が片付けとくから私の部屋から勝手に取って」
「助かる」
俺は夕食を食べた後、葵の部屋に入る。
女子の部屋だから緊張する、なんてことはなく一切の平常心だ。
というのも葵の部屋がオタク全開だからだ。
火バスだとかバドプリとか多種多様なキャラクターのタペストリーやらポスターやらが壁一面を埋め尽くしている部屋に女子を感じろと言われても困る話だ。
いや、男キャラばかりだから女であることは理解できるんだけどな。
好みは高身長のクールキャラが好きらしい。たまにボケっぽい所を見せるとなお良しとの事。
ここまで重度のオタクである葵ではあるが、学校ではそこまでオタクをやっていない。
別に隠しているわけでもなく、クラスメイトも葵がオタクであることを知っているレベルだが、クラスにオタクがほぼほぼ居ないこともありこの一面が表に出てくることは殆どない。
オタクトークに付き合える友達が居なければそもそもそういう話に繋がらないしな。
「さっさと漫画取らないとな、あった」
長居しすぎると何か言われそうなのでさっさと取って退散することにした。
「ん?」
扉に手を掛けたタイミングで、葵の勉強机にマイクがあることに気付いた。
「随分と上等なマイクだな」
機材関連は全て樹に任せているので詳しい所は知らないが、万はするだろこれ。
パソコンも最新のゲーミングPCにアップグレードしてあるし、ほぼほぼ黒だろこれ。
「ありがとう、これ借りるわ」
「オッケー。その代わり今度ノザミヤ貸してね」
「分かった」
そう返事して俺は持ってきていたカバンに漫画を入れた。
「なあ葵、あのマイクってどうしたの?」
まずはあくまで何も知らない体で聞いてみる。
「あ、あのマイクって?」
「机の上に置いてあったマイク。めちゃくちゃ良さそうな奴だなって」
葵はその話を聞いて分かりやすく動揺していた。めちゃくちゃ手がプルプル震えている。
あ、皿落とした。
「え、えっと、私、VALPEXに嵌ってるって話したよね」
俺の言葉から数十秒のラグを経て、話し始めた。
「したね」
確かダイヤ帯に入ったんだっけか。ゲーム苦手なのに凄いなって褒めた記憶がある。
「あ、あれって固定チームで通話しながらやる方が強いじゃん。だから、その為にマイク買っちゃったんだよ!」
誤魔化すの下手すぎか。めちゃくちゃどもってた上に最後謎に言葉が強くなってたし。
誰がどう見ても嘘ですよ、やましいことありますよって思うぞ。
まあ本人が話したくないようだし指摘するのは止めておくか。
「確かにボイスチャットは重要だからね。俺もたまにやっているよ」
否。めちゃくちゃやっている。
俺も一応Vtuberだからな。結構な頻度でコラボをしているためボイスチャットを使わずにやる方が少ないくらいだ。
「だよね!」
葵はすごくホッとした様子だった。どうにか誤魔化せたと思っているのだろう。
葵が皿洗いに戻ったので、これ以上は邪魔しないようにソファに座ってソシャゲでもして待っておくか。
「じゃあ今日のアニメを見よう!」
数分後皿を洗い終えた葵は、俺が座っていたソファへやってきて隣に座った。
「そうだな」
俺はソシャゲを終了し、スマホをスリープモードにしてから手前の机に置く。
そしてわざと画面をタッチしロック画面を表示させる。
「今日は確か、滅亡フラグだったっけ?」
楽しそうに録画を探していた葵は気付く様子が無い。
「そうだったね。水曜日だし」
「あった。じゃあ、」
スタートしよう、って言おうとする寸前に葵は固まった。
ようやく俺のスマホの壁紙に気付いたのだろう。
流石に葵本人だと露骨すぎるので、同じ事務所の先輩である風野タツマキさんを壁紙にしてみた。
ちなみにイラストは樹ことぐるぐるターバン作だ。
「どうしたの、葵?」
まさか俺がVtuberについて詳しいとは思っていなかったのだろう。またまた固まっておられる。
「い、いや、Vtuber好きなんだなって」
色々考えた結果振り絞ったのだろう。若干声が震えていた。
「少しだけね。樹に勧められてこの人の配信を見てみたんだけど、案外可愛くて」
「そ、そうなんだ」
「葵も好きなの?」
ここで逆に質問を振ってみた。
「う、うん。ちょっとだけ見る位だけど」
「そうなんだ。ちなみに誰が好きなの?」
「え、えーっと…… 九重ヤイバ君かな」
「ぶっ!!!!」
思わず吹き出してしまった。こいつ、分かっているのか?
「どうしたの、急に?」
「いや、何でもないよ。どんなところが好きなの?」
カウンターを貰ってしまったが無事に立て直した俺は、質問してみることにした。
「そうだなあ。ゲームが上手いことと、配信を見ていて落ち着くことかな」
そりゃあそうだよ。俺だからな。10年以上付き合いのある人の配信はそりゃあ落ち着いて見れる。
「そうなんだ」
「後、何よりも見た目が好き!黒髪にスーツで高身長のイケメンってヤバすぎ!この人なんだけど、本当に顔が良い。理想の男って感じなんだよ!」
他にも声が良いとかたまに見せる素っぽい所が可愛いとか色々語っていた。
数分後。
「ってわけなんだよ。だから一真君も見て!」
「う、うん。分かったから。とりあえずアニメ見ようよ」
まさか俺の大ファンだとは思わなかった。これなら聞かなければ良かったと少々後悔している。
ただ、一つ分かったことがある。アイツは俺の正体に一切気付いていない。
恋は盲目なのか、それともただ俺が隠すのが上手いのか、単にこいつがバカなだけなのか分からないが、ひとまずは安心だ。
「そうだね、再生っと」
葵はご機嫌そうに再生ボタンを押す。どうやらさっきの話で完全に平常心に戻ってしまったようだ。
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