異世界帰りの能力怪盗《スキルルパン》

ヤミヲミルメ

第1話 僕が見た悪夢の中の怪盗

 暗闇に一筋のスポットライト。

 ただそれだけの世界の中で、ボクの手の中でカードが踊る。


 キミは怯えた目でボクを見ている。

 さぞかし奇妙に映るだろう。

 シルクハットに燕尾服。

 ブレザー姿のキミと並ぶのは奇異だろう。

 その制服、目指してた高校に入れたんだね。

 おめでとう。

 これでやっと“あのときのみんな”と縁が切れたね。


 そんなにジロジロとボクの顔ばかりを見るのはやめたまえ、赤佐太直あかさ・たなおクン。

 せっかく手品を披露しようというのだから、もっとボクの手もとを見ろよ。


 この仮面が気になるかい?

 ありがちなマスカレード・マスクじゃないか。

 緑色なのは珍しいかもしれないけれどね。

 アニメやゲームに出てくるのは、たいてい赤か白かな。


 ああ、わかるよ。ボクは何もかもがおかしい。

 でもキミだって似合わない眼鏡を……おっと失礼。キミは何を身に着けても似合わないんだったね。

 チビだし貧相だし顔にいたっては……自分では平凡なつもりなんだっけ?


 それより赤佐クン、カードを選びたまえ。

 最初に見せただろう、ハートにダイヤにクラブにスペード。

 クイーンを引き当てられるかな?


 ……だからボクの顔を見るのはやめろってば。

 マスクが溶けてきたから何だっていうんだ?

 確かにデロデロしているけれどね。

 スライムみたいに粘ついて剥がれないから、ボクの素顔は出てこないよ。

 さっさとカードを引けよ。


 ハッハッハ! 大当たり! ジョーカーだ!

 カードの裏に貼った銀紙に、キミの顔が映ってる!

 当たりで外れな最低なカードだ!

 今宵のお宝はこれに決定!


 そうそう、まだ言ってなかったね。

 実はボクは手品師じゃないんだ。

 手品はただの趣味。

 本業はドロボウさ。

 自慢の技を見せてあげるよ。


 ……今から……キミを……盗む……!!



 ゴボゴボと嫌な音を響かせて赤佐の口から赤いモノがあふれ出した。

 血ではない。

 グネグネとしてはいるが確かな形のあるものだ。

 大蛇のしっぽに似た形でも、ウロコがないしヌメヌメしている。

 赤佐の口から生えくるソレは、赤佐の首とほとんど変わらぬ太さをしている。


 ソレは赤佐の腕よりも長く、赤佐の身長よりも長く伸びる。

 小柄な赤佐の体の中に、そもそも人間の体積に、とても収まりうるサイズではない。

 並ぶ吸盤が赤佐の唇に引っかかって、めくれては通りすぎ、めくれては通りすぎる。

 ボクはそのおぞましきモノの先端を、うやうやしく手にとって接吻した。

「本日、一つ目の盗品ッ!」


 ズルリッ!


 怪盗に勢いよく触手を引き抜かれ、赤佐の体を、触手だけでなく何かもっと大きなものが強引に抜き取られたような感触が駆け抜ける。

 赤佐は崩れるように膝をついた。


「盗ませてもらったよ。キミの“能力”を。

 でもこれはほんの一部。まだまだ手始めだ。

 ボクはこれから……少しずつ……ジワジワと……キミのすべてを盗んでやるよ!!」






 ここまでやられてようやく飛び起きた赤佐のベッドを、カーテン越しの外灯が照らしていた。

(何だ? 今の夢……)

 赤佐は自分の口に指を突っ込んだ。

 ……別におかしな様子はない。


 呆れすぎて苦笑も漏れない。

(あの夢で一番ありえないのは、怪盗でも触手でもなく、ぶぉくに怪盗に狙われるほどの能力があるって点なんだよな)

 もしそんなものがあるとすれば……


 赤佐はベッドから這い出て、机の上のスケッチブックを手に取った。

(能力って呼べるくらい、うまくなりたいな……)

 とか考えているのかな、赤佐クンは。

 なれるわけないよ、キミなんかに。


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