第8話
「ファスト・シールドッ!」
『ゲロッ!』
「これで終わりだ!ファスト・スラッシュッ!」
現在、迷いの森に向かう道中に向かってくる敵を倒しつつ、俺はレベリングをしていた。
同時にスキル習得のための動きを同時進行でやっているので、戦い方をスキル主体と言う形にしていた。
それで、元々ファスト・シールドもファスト・スラッシュも乱用していたせいで――
「森につく前に全部習得しちまった……!」
セカンド・シールドもセカンド・スラッシュもあっさり取得してしまった。
ゴブリンキング戦で散々使ったし、その前からでも結構使ってたからか、その影響か。
……あとは加速と加力の上位スキルを取りたいけど、現段階だと難しいからパスだな。
攻略サイトによると加速の上位スキル、【超加速】はAGI100以上かつ加速を習得していることが条件だ。
それも、装備によるブーストを抜きにして、とのことだから今の俺じゃ習得はとても難しい。
加力の上位スキル【超加力】はSTR100以上かつ加力を習得していること……これも装備ブースト抜きだ。
「あぁ、やることがねえ!」
目当てのスキルが手に入ると、やる気が薄くなる。
のだが、予め現在判明しているスキル一覧には既に目を通してあるのだ。
そしてメモまでしてあるし、大体は覚えている。
「どれにすっかな……」
習得したいと思っているスキル……色々とあるが、手に入れるのが難しい物もある。
パッシブスキル全般は習得しておきたい所だが、習得できるのが割と少なそうだ。
【防御アップ】とか【攻撃アップ】辺りは欲しい所だな。
コイツの練度を上げまくれば、攻撃力と防御力が上がるからステータスが貧弱でもそれなりに戦える。
出来れば【素早さアップ】も欲しいが、これは習得条件が難しいからヤだな。
「あぁ、手っ取り早くスキルが欲しいもんだ」
俺はそう呟きながらも、迷いの森を目指して進み、モンスターと戦うのだった。
スキルの方は【攻撃アップⅢ】と【防御アップⅢ】が習得できたので、それなりに強化は出来た。
レベルに関しては22まで上がって、他にもその他モロモロ収穫アリだ。
途中から、卑怯な連中にPK(プレイヤーキル)されかけたり、獲物を奪われたりしたのは凄ーく大変だった。
けど、俺に手出しして来た奴はもれなく全員全員MPK(モンスタープレイヤーキル)、つまりモンスターの行動を誘導してプレイヤーを殺す方法ってのでお返ししてやったから、無問題だ。
何せ、それにうってつけとも言えるスキルを途中で習得できたんだからな。
「さて……なんかもう疲れたな」
先輩もハルもいないせいで、楽しさはゆっくりと薄れてきてる気がする。
いい装備を探そうと思っても、成長するような装備を着てるんだからあまり意味はない。
スキルの習得に関しても、一人でやる地道な作業と言うのも飽きてくる要因だ。
「……もうログアウトすっか」
俺はメニュー画面を開いて、ログアウトのボタンを押そうとすると――
「あ、あのっ!」
「あ?」
後ろから誰かの声がした、俺を呼ぶ声だ。
振り返って見ると、それはさっきぶつかった槍使いの女だ。
懇願するような顔で俺の方に歩み寄って来た。
「急に申し訳ないんですけど……レベルをお聞きしてもいいですか?」
「レベル?22だけど……それがどうかした?」
「あ、良かった……もしよければ、私たちとパーティを組んでくれませんか?」
……いきなりなんだコイツ。
さっきはそそくさと逃げるようにどっか行ったくせに、今度は俺に話しかけて来た。
まぁ、野良パーティでのお誘いくらいなら、別に受けてもいいもんかな。
「パーティ組むくらいならいいけど、なんで俺なんだ?」
「あの、私たちのパーティ……実は火力と防御力が足りてなくて」
あぁ、確かに俺は盾持ちだし付けてる装備も結構防御に寄ってたりする。
実際、小鬼王シリーズの鎖帷子と鎧のおかげで、斬撃耐性とHPの割合で防御力に上昇補正がかかってるから俺の防御力は結構上がっているし、攻撃力だってないわけじゃない。
けれども、俺一人に攻撃と防御を兼任させるのはパーティとしてどうなんだろうか。
「じゃあ、タンクとアタッカーをそれぞれで探しゃいいだろ。
俺みたいな中途半端なステ振りしてる奴だと、かえって迷惑になるぞ?」
「で、でもさっき掲示板でパーティ募集しても、誰も来なくて……だから、一人でいた貴方に声をかけて……」
「そうか……ならいいよ。
その代わり、パーティが全滅したりしても知らねえからな。
野良で組む以上、連携が上手くはまるかどうかってのはわからねえし」
槍使いの女は、俺の抱える不安を意に介さないようにパーティ申請を俺に送って来たので、俺は承諾のボタンを押す。
パーティリーダーがこの槍使いの女みたいだ。
HPバーとか名前の上に【LEADER】と表示されている。
で、俺の他に組んでいる奴らは、杖のアイコンと短剣のアイコンだ。
……あぁ成程、魔法使いと回避盾ビルドか。
なら盾持ちがいないと防御力は足りないし、安心して攻撃出来ない以上火力も薄くはなるか。
「で、他の二人はどこにいるんだ?」
「あ、今呼びます。二人には、アイテムの買い出しを頼んでいたので」
槍使いの女……プレイヤーネーム【ランコ】はメニューを操作してチャットを打ち始めた。
俺はその間にパーティメンバーの名前を覚えることにした。
杖使いが【ヤマダ】、短剣使いが【ユージン】か。
三人の連携がどうやってるかはわからないが、ステータスや装備次第で戦い方が変わるだろう。
が……恐らく、このパーティの現状で困っていることから察するに、だ。
前衛で回避盾のユージン、前衛が取りこぼした敵を倒す中衛のランコ、後衛で援護魔法などを使うヤマダ……ってとこか。
三人のレベルは、ランコが21、ヤマダが20、ユージンも20となると……回避盾である以上ユージンはあまり火力が高くなかったりするんだろう。
それに避けてばかりだから、ヤマダとやらも安心して魔法が使い辛かったりするんだろうな。
となると、ランコへの負担が大きくなる分火力と防御が不足するってわけだ。
「あ、今買い出しを終えたので急いで来るみたいです!」
「そうか、俺はアイテムに不足はないからすぐに出発できるぜ。
そっちの準備が終わったら、作戦会議にしよう」
「わかりました、二人にも伝えておきますね」
さてと、とすると俺がここでやれることとはなんだろうかな。
ユージンと俺が前衛に出て、俺はランコの負担を減らすように立ち回るべきだろうか。
……実際の戦い方を見ていない限り、随分と難しいことになるだろうな。
「いやぁすまないッス、ちょっと途中で変なのに絡まれてしまったッス……」
短剣を腰に下げ、金髪天然パーマのような髪型でやって来た少年。
大体歳は俺と同じくらいと見えるな。
服装はジャケットやスカーフなどの軽装で緑の系統色が殆どだが、スカーフだけはワインレッド。
短剣二刀流ってことは、やっぱり回避盾かコイツ。
「すまない、私があのような輩から逃げる術を持っていなかったが故に……」
ロールプレイでもしてるかのような喋り方で来た、緑髪の少女。
耳を見るに、エルフを選択したようで年齢は俺より少し上くらいに見える。
白いローブを身に纏い、ローブの中身は革系の軽めの装備をつけている。
腰に雑嚢などのアイテムポーチをつけているから、MPポーションをすぐに取り出せるようにしてるんだな。
で、武器は……えーと名前はなんて言うんだったか、なんか輪のついた杖だが……錫杖だったか?
まぁ、見るからに魔法を使うタイプのプレイヤーなんだなとわかる。
「……えーと、ブレイブ・ワンさんスか。
初めまして、俺はユージンって言う者ッス。
今日はよろしく頼むッス!」
「あぁ、あんまり期待しなくていいぜ。
作戦会議をするにしても、連携が上手くはまらないかもだからな」
「いいッスよ、それでも楽しめたモン勝ちッスよ!」
ユージンが俺に握手を求めて来たので、俺は握手をしておく。
で、ヤマダの方は。
「ブレイブ殿、今日はよろしく頼む。
私は援護魔法を主に使っているため、戦況に応じて頼んで貰えれば大体の物は使える」
「あぁ、じゃあそれぞれの戦い方に合わせての援護魔法を使ってくれ」
「了解だ」
ヤマダの方は杖をシャラン、と振って援護魔法アピールをしてくる。
やっぱロールプレイでもしてるのか、白い手袋をはめたままで俺との接触を避けている。
まぁ、差異こそあれどエルフは他の種族と素肌で接しない、なんてものもあるからな。
「じゃあ、全員揃ったので作戦会議にしましょう」
ランコがストレージから折りたたみ椅子とテーブルを取り出すと、その場に四つ並べ始めた。
俺はありがたく座らせて貰い、折角なので余っているサンドイッチとコッヒーを出しておく。
……買いすぎて処理に困ったとか、そんなんじゃないからな。
「じゃあ、まずは確認からさせてくれ。
今回はなんで俺をこのパーティに誘ったか、だ。
普段はこの三人で組んでいるようだけど、俺をわざわざ誘うっての、この三人じゃ倒せない相手でもいるのか?」
「はい、それについてはリーダーの私から説明させていただきます。
私たちは確かに、普段はこの三人で戦っていますけど……今日はエリアボスの【リザードマン・ロード】と戦うために人員を増やす必要がありました。
だから、防御力と攻撃力を兼ね備えた方を探していて」
成程な、ボス戦ともなれば攻撃を継続的に受け続ける奴は必須だ。
ソロならずっと避けていればいいが、パーティになるとヘイト管理と言うのが重要だ。
タンク役がスキルを使ったり、狙われている奴と重なるように立つことで敵の注意を引ける。
だから防御力が高い奴が攻撃を受けて、攻撃力が高い奴が攻撃すると言う形が出来上がる。
この三人にはヘイト管理が出来る奴も盾役もいない分、それが出来ない。
だからボス戦には強い奴が必要不可欠だったと言うことになるんだな。
「おう、じゃあ理由はわかった。それじゃあ、今回倒す予定のリザードマン・ロードって奴の推奨レベルと特徴はどうなんだ?」
「それについてはソロで三回くらい戦ってる俺から説明するッス。
リザードマン・ロードは二足歩行の蜥蜴男で、サイズは2~3mくらいッスね。
で、武器はカトラス、防御に小盾を使ってくるッス。
攻撃力も防御力も結構高いんで、回避盾の俺じゃ力が足りないんッス!」
ふむふむ……なら俺を入れる理由もわかる。
セカンド・カウンターを習得した以上、攻撃力の高い相手は大歓迎だ。
仮にカウンターが失敗しても、斬撃攻撃を使ってくる相手は尚の事楽だ。
「じゃ、最後にお前らの普段の戦い方を教えてくれ。
……大体想像はついているけど、一応な」
「普段は、ユージンが前衛となり、敵への攻撃を始める。
しかしユージンでは獣どもを倒し切れず、基本はランコが討っている。
私は援護魔法を用いて二人の支援だ」
あぁ、やっぱり想像通りだ。
想像通りな戦い方だっただけに……ちょっと微妙だ。
「じゃあ、俺は基本回避盾に近い構成だけど……防御力はそれなりにはあるから、俺が前衛に出る。
ユージンと俺で敵を倒しつつ進むから、ランコはヤマダを守ってくれ。
槍ならリーチが長い分、守りには向いてるだろ?」
「りょ、了解です」
「俺はいつもとやること変わんないッスね、楽で良かったッス」
「あぁ、私も特に変わらないようだな」
「じゃあ、いつ出発する?
今は十四時だから、俺は四時間以内に終わらせたいと思っているんだが……」
ランコが折りたたみ椅子と折りたたみテーブルをストレージにしまってる最中に聞いてみた。
因みにサンドイッチとコッヒーは既に食べられ飲まれで、なくなっていた。
皆に配った本人である俺は食ってないし飲んでない。
サンドイッチとコーヒーの恋しさを味わうのはもう結構だ。
「んー、そうですね……アイテムなどの準備は既にできていますし、今から出発してもいいと思いますよ」
「そうか、じゃあ案内してくれ。
俺はまだこのゲーム自体は始めて日が浅いから、リザードマン・ロードの出現ポイントは知らないんだ」
「あぁ、大丈夫ッスよ。
迷いの森から割と近い所ッスから、直ぐ覚えられるッスよ」
「方向音痴に自信のある私でも簡単に覚えられたものだ。
だから安心するといい、ブレイブ殿」
と、早速リザードマン・ロードの出現する所へ歩き出した俺たち。
ユージンが先頭を歩き、その隣に俺が歩いている。
ランコとヤマダも隣り合って歩き、ちゃんと戦闘用の陣形は組めている。
……まぁ、俺とユージンのAGIが結構高いせいか、二回くらいヤマダが置いてかれている。
ので、立ち止まる時もあれど……直ぐにリザードマン・ロードの出現ポイントについた。
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