第7話
『グ……オオッ……!』
俺の放ったセカンド・カウンターはファスト・カウンターの上位技だ。
カウンター自体の基礎威力のアップと言うのはシンプルに嬉しい。
詠唱時間だけはファストとセカンドで変化はない。
が、クールタイムが伸びてる上にSP消耗もファスト・カウンターよりも増えている。
『グッ……ヌゥゥ……我が、追い詰められるとは……』
さっきのメガ・インパクトの威力が大きかったから、カウンターの威力も上がったようだ。
小盾で使用するカウンタースキルと言うのは、大体敵の攻撃に自分の技を乗せて返すスキル……と、言うのを攻略サイトで見た。
俺のセカンド・カウンターはゴブリンキングの顔面に直撃した。
ただでさえ威力の上がっているカウンターに威力の大きいスキル、そしてクリティカル。
今ので二本目のHPバーをあっという間に吹き飛ばし、ゴブリンキングの残りHPバーは一本だ。
「この調子なら……イケるな」
SPポーションはまだまだ多めに残っているし、多分ゴブリンキングを倒すだけなら後は簡単だ。
加速と加力は会話イベント中に切れたものの、スキルなしでもコイツは倒せる気がしてきた。
ゴブリンキングの攻撃にも目が慣れて来たし……このままいけば、確実に倒せる。
『許ッさんぞおおおっ!』
「さぁ来いよ!今度はスキル抜きで相手してやるよ!」
ゴブリンキングの振り下ろしてくるこん棒を右に避け、俺は右足で踏みとどまる。
のと同時に、右足を軸にして体を回しながら一撃加える。
たった一撃の通常攻撃ではHPバーは一割も削れないが……なら何十回でも叩くだけだ。
『ガァッ!ゴォッ!ゲアッ!ゼェッ!』
「ふっ!はっ!ワン・ツーッ!」
こん棒、パンチ、キック、掴みかかり攻撃を避け、俺は斬りつけ、パンチ、両方のコンボをゴブリンキングへと返す。
図体がデカい上にAGIも俺に劣っているようで、俺の攻撃を避けることは叶わない。
『ガァァァッ!』
「あたるかッ!」
ゴブリンキングの突き出しをさっき倒したホブゴブリンの時と同じように当たる寸前で避ける。
俺は盾で隙だらけの腹を殴りつけ、左側に体が引っ張られる勢いを止めずに、右手側も乗せる。
横薙ぎ一閃、ゴブリンキングの腹へと切れ込みが入った。
そしてそのままパンチと斬りつけの連撃!
「せえあああっ!」
『ガッ!グッ……ゴォッ!』
「ま、だ、まっだァァァッ!」
頭への攻撃でクリティカルが発動し、ゴブリンキングのHPバーはみるみる減っていく。
『ガァァァ……グッ、フゥッ、フゥッ……』
ゴブリンキングもVR内で組まれたデータの集合とは言えど、息はつくようだ。
こっちも息が上がってきて、そろそろ休みたくなってきた。
どれだけ戦闘していたかはわからないが、あのデカい扉を押すよりもはるかに疲れた。
だがその甲斐あってか、ゴブリンキングの残り一本のHPは、あと二割だ。
「ふぅ……はぁっ」
俺は肩を上下させ、肩で息をしつつも集中だけは切らさない。
最低でも、コイツを倒さないと死ねない。
デスペナルティを受けるんだったら、せめてコイツも道連れにするくらいじゃあねえと納得がいかない。
このデッケーゴブリンを倒して、先に進むのが目標だけれどな。
「てええあああああああッ!!!」
「ガァァァッ!」
俺は駆け出し、ゴブリンキングのパンチを盾で受け止める。
盾は耐久値の限界を迎えて壊れる。
が、俺はそれを介せず走り出し、ゴブリンキングの眼前へとジャンプ。
「こ・れ・でッ……トドメだああああっ!」
ゴブリンキングの目の真横から横薙ぎ。
俺の剣は、目の前のモンスターの顔面を真っ二つに切り裂いた。
それと共に、HPバーは全損し、ゴブリンキングは崩れ落ちた。
『小、鬼……の、王……である、この、我が……討たれ……る……か……』
そう言い残し、ゴブリンキングは淡い光に包まれた。
俺は目を閉じて剣を鞘へと納めた。
バリン、と言う音と共にゴブリンキングは消え、ポリゴン片となった。
それと同時に、レベルアップを知らせる音が鳴り響き、俺のレベルは20へと上がった。
「ドロップアイテム……【小鬼の王の首】かぁ」
俺はゴブリンキングのドロップアイテムをアイテムストレージに納めると――
天井から宝箱が降ってきて、ゴブリンキングの倒れた位置にドスン、と落ちた。
「……あ?」
何故中ボスで宝箱が落ちて来るのか。
と思いつつも、俺は宝箱の蓋を開けてみる。
『エクストラシリーズ【ゴブリンキング】を入手しました』
「……なんっじゃこりゃ!?」
ゴブリンの肌を思わせる緑色の装備の一式が、何故か宝箱に入っていた。
武器の片手直剣、小盾、防具のスケイルメイル、鎖帷子、それに靴まで。
……しかし、エクストラシリーズとはなんだ?
と思って俺は出て来たパネルを左にスライドさせてみる。
『エクストラシリーズについて』
『エクストラシリーズは、ダンジョンを初挑戦かつ一人で挑んだプレイヤーがダンジョンをクリアされた際に与えられる装備です。
固有効果として【成長する力】【破壊不可】【再生】を所持しています』
「マジでか……」
俺は早速ゴブリンキングシリーズとやらをアイテムストレージに入れて、装備してみる。
相も変わらずサイズがピッタリだ。
そしてステータスを見てみると、確かにさっき書かれていた通りの効果が書かれている。
成長する力、というのは防具も一緒に育っていくようだ。
で、再生というのは普段から俺のHPが自動回復するみたいだな。
破壊不可というのは文字通り破壊不可、どれだけ攻撃されても装備だけは壊れない。
言わば、もう防具を買う必要がないようなズルい性能をした装備だ。
「ソロで倒した報酬ってだけあって、スゲーな」
俺は剣を腰の鞘に納めながら、新しい装備に身を包みつつも帰る決心をした。
これ以上奥に進む道もないし、良い装備も手に入ったし。
装備を手に入れたと言う満足感もあって、すっかりとやる気を喪失してしまったし。
と、俺はダンジョンに設置された帰還用ポータルとやらで、ダンジョンの入口へと転移した。
「……っはー、疲れた。けど、まだやることが残ってるか」
俺はハルへメール機能を使って、今回稼いだ分のCPとGを送っておく。CPについては利子みてえなもんだ。
それに、CPは一日経つとGに変換されるようなので、今使おうがどうだろうが自由だ。
で……俺はゴブリンとレッドハウンドのドロップアイテムを道具屋で売り、多額のGへと変える。
鋼の装備も売ってしまおうと思ったが、記念で取っておくことにした。
「さて……落ちるか」
俺はメニューを開いてログアウトボタンを押し、現実世界へと意識を戻す。
……いつの間にか五時になってた。
「んー……あぁっ……疲れた」
このまま寝てしまおうと思ったが、俺は面倒に思っていた夏休みの課題を少しやっておいた。
早めに終わらせたいが、俺の脳みそでは解くのが難しいのでチマチマとやる形になる。
だがまぁ、結局プリントの計算式と英単語、ついでに漢文とかなので楽っちゃ楽だ。
私立校でよかったよかった。
「あ、もう限界だ……寝よ」
ほんのちょっとしか課題は出来なかったが、ゲームを大いに楽しめたのでOKだ。
俺はベッドに入り、そのまま眠りの世界へと誘われた。
鞘華が起こしてくれるまで俺はぐっすりと寝た。
翌日。
「あぁ……いつんなったらあの二人の風邪は治んだよ」
今日治らないようなら、明日にでもお見舞いに行ってやろうか。
先輩もハルもいないと、折角手に入れた小鬼王シリーズを自慢する相手がいないだけに寂しくなってくる。
「へへっ、まぁいいさ……俺はソロで色々と遊んで楽しんでやるし」
折角エクストラシリーズも手に入ったんだ。
気分を切り替えていこう、俺。
……因みに、エクストラシリーズに関しては攻略サイトには載っていなかった。
まぁこのゲームってサービス始まってからまだ一年経たずだし。
初見のダンジョンをソロでクリアってのは基本無理があるからな。
レベルを上げまくってから、推奨レベルが余程低い所にでも行かないと無理だろうし。
俺の場合はある意味奇跡の賜物だ。
「さて、今日はハルに追いつくためにちょっとした狩場にでもいっ」
と、俺が歩き出そうとしたところで、後ろから何かにぶつかられた。
「あ……」
俺が後ろを振り向くと、身長が小さい女子がいた。
中学生くらいか?なんだか身長に合わないサイズの槍を持った奴だ。
髪の色も青……ハルがリアルで桃色なだけに気にならないもんだな。
「あ、その……ご、ごめんなさい」
「お、おう……前見て歩けよ」
人に偉そうに物を言える立場ではないが、人にぶつかられた時は取り敢えず言いたくなる台詞だ。
ついつい口から出てくるんだよな、こういう台詞。
「あの、ところでその装備……」
「あ?コレか?どうした?」
もしかしてコイツは俺の装備のことを何か知ってるのだろうか。
まさか、この女はエクストラシリーズを持っているのか?
「か、カッコいいですね!」
「あ、そう……そりゃどうも」
なんだコイツは。
意味深に俺の装備のことを訪ねて来たと思ったら褒めただけだ。
「そ、それじゃあ」
と言って、そそくさと逃げるようにどこかへと行った。
俺は頭をぼりぼりと掻きながら、当初の予定であった狩りに行くことにしたのだった。
が。
「……その前に、スキルの習得でもするか」
攻略サイトや掲示板で情報を予め見ておいて、俺はスキルの習得を優先することにした。
何せキングゴブリン戦はかなり苦戦したし、次あのダンジョンに行くときは本当のボス戦をしたいし。
何よりもいつイベントとやらが開かれるかはわからないが、イベントが開かれた時のために強くなりたい。
取り敢えず、今の所持ってるスキルの上位スキルを身につけておきたい所だな。
「まずは、【セカンド・シールド】と【セカンド・スラッシュ】辺りか……」
この二つは割と習得が簡単な奴だ。
セカンド・カウンターを見る限りもしやとは思っていたが……これらはファスト・シールドとファスト・スラッシュを使いまくればいいだけだ。
「さて、じゃあ狩りと同時進行でいいか」
俺は折角だし、小鬼王シリーズの強さを活かすために狩場へと足を運ぶのだった。
えーと、確かレベル20の狩場となったら、確か【迷いの森】とやらに行けばいいんだっけな。
と、俺はうろ覚えな攻略サイトの情報を頼りに歩き始め、レベル20代にオススメと書かれていた狩場へと向かった。
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