第6話

「おぉっ!」


「ギャギャギャ!」


俺は加速と加力の時間内にホブゴブリンを倒すことを考え、踏み込む。

ホブゴブリンはゴブリンの上位存在……と言えば聞こえはいいが、AIがワンパターンだ。

ゴブリンは攻撃の方法を工夫してやってくるようで、槍やら毒武器やらを使ってくる。

ゴブリンメイジとやらがいた場合は連携も取ってくるし、レッドハウンドに乗ったりすることもある。

だがホブゴブリンは力任せな攻撃が多いようだ。


「斬撃波!」


『グゥァッ!』


斬撃波を一発放ってみる。

ホブゴブリンはガードの体制を取って、クリティカルである頭への直撃を避けた。

まぁ、腕のあるモンスターなどは大体こうしてくるからな。


『グォッ!』


「っと!」


もう一体のホブゴブリンが振り下ろして来た拳を俺は盾で受け止める。

俺のVITはあまり高くないので、当然押され気味になる。

HPバーが少しだけ減るが、ホブゴブリンは追撃に来ない。

さっき叩いた方は様子を伺っているだけ、なら!


「ファスト・スラ――ぶがっ!」


「ガァッ!」


焦れた俺がスキルを使おうとしたところで、顔面を殴られた。

あぁ、様子を伺っていたのは俺がスキルを使う瞬間を待っていたのか。

割と高度なAIだな。

工夫をしなくなったと言うよりも、わざわざ武器などを使う工夫を必要としてないってことだったのか。

つか、今ので俺のHPが七割も削れたぞ。

……やっぱ、攻撃力高いなコイツら。

これ以上攻撃を貰うわけにも行かないし……ソロってのはやっぱどこかでキツくなる運命か。


「全く、やりやがるぜ」


俺は初めてアイテムストレージからポーションを取り出して、飲むことになった。

今まではポーションを飲むほどじゃなかったし、攻撃もまともに受けてなかったし……たっぷりと余ってる分死にさえしなきゃ問題はねえな。


『ギャァァッ!』


『グルアッ!』


「ファスト・シールド!ファスト・カウンタァァァッ!」


二体のホブゴブリンはのっしのっしと重い足を動かしながらこっちに突っ込んできた。

ので、俺は片方をファスト・シールドを出現させて止め、もう片方にはカウンター。

無事にクリティカル部位である頭に叩きつけてやれたぜ。


『ギャッ!』


『ガアッ!』


「ファスト・スラッシュ!」


俺はカウンターを叩き込んだ方のホブゴブリンの首へファスト・スラッシュを放つ。

首もクリティカルの部分に入るようで、ホブゴブリンのHPバーは大きく削れた。

あと四割ちょいかと思っていると、俺が展開したファスト・シールドがバリンと言う音と共に砕け散った。


「壊れるの早えなオイ!」


斬りつけた方のホブゴブリンのパンチをジャンプで回避し、一歩下がる。

さてどうするか。

相手だって当然こっちの動きを少しずつ学習するだろうし、もうカウンターを使うのは難しいか。


「斬撃波!」


クールタイムの終わった斬撃波を、さっきシールドで足止めした方のホブゴブリンに向けて放つ。

すると、予想通りにホブゴブリンは腕をクロスさせてガードした。

よし、一瞬だけでも片方の動きが止まった……今なら!


「今だ!」


さっきシールドで足止めしたホブゴブリンが腕をクロスさせた一瞬を狙って、俺は足を進めた。

HPが削れている方のホブゴブリンに踏み込み、スキルを放つ。


「エクストーション!」


『ギャオッ!』


「咆哮!」


エクストーションはまさに文字通りと言うかなんというか、俺の左手によるホブゴブリンへの押し出し攻撃だ。

……ただの突っ張りや張り手と大して変わらないようなモーションだが、別にいい。

もう一つのスキルである咆哮を使うと――


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!』


耳を劈くようなけ俺の声そっくりなけたたましい雄叫びが、このフロア中に響き渡る。

ホブゴブリンは両方とも耳を抑え込み、同時に怯み状態となった。


「ファスト・スラッシュッ!」


『ギャ……オ……』


片方のホブゴブリンは倒れて淡い光に包まれ、ガラスのように砕け散ったと共にポリゴン片となった。

あと一体、それも怯み状態に入っているから、こっちも安心してスキルのクールタイムを稼げる。

加速と加力もあと数秒なので、わざわざ無理するよりも一度切れるのを待つ方がいいな。

この二つのスキルのクールタイムは硬化時間の二倍ほどだから、出来れば時間を稼いでからコイツを倒そう。

動きはそこまで速くないし、防御力だって硬いわけじゃあないから、何とかなるだろう。

……SPがゼロになったから、俺はSPポーションをアイテムストレージから取り出して飲み干す。

SPだって自然回復はするが、スキルを乱発すると自然回復じゃ補えなくなるからな。

と、俺がポーションを飲み干したところでホブゴブリンの怯み状態が解除されたようだ。


『ガアアア!』


「よし、第二ラウンドと行こうじゃねえか!」


ホブゴブリンは俺に向けて拳を両手で組んで叩きつけて来るが、見切れる速度なので難なく避ける。

そして俺はスキルを詠唱しておく。


『ギャァッ!』


「ラッキー!ファスト・カウンターッ!」


返す刀でホブゴブリンは裏拳を放ってくるが、俺はタイミングよくファスト・カウンターを発動させた。

俺の剣がホブゴブリンの頭へ叩きつけられ、クリティカルが発動して一気にHPバーを三割も削れた。


「エクストーション!」


『ギャッ!』


「でりゃああああっ!」


クリティカルが出てもホブゴブリンは気絶状態になっていないので、文字通りダメ押しの一発を頭に叩き込む。

ホブゴブリンだって俺の身長よりかはデカいが、腕が顔面に届かないって程じゃあない。

もう一度クリティカルが発動して、ホブゴブリンの残りHPは半分に落ちた。

ので、通常攻撃でそのまま押し切る!


「はぁっ!ぜぇっ!とりゃぁっ!」


俺のAGIと、剣道で培ってきた反応速度なら、ホブゴブリンの拳を見切るのは容易い。一対一なら、尚の事だ!

そのまま至近距離でホブゴブリンの攻撃を避けつつ、どんどん通常攻撃を加えていく。


「さて、フィニッシュならカッコつけねえとな……ファスト・スラッシュ!」


『ギャ……アアアア……』


ホブゴブリンの拳を当たるか当たらないかの所で避けた俺は残りHPがほんの僅かしか残っていない状態のホブゴブリンにスキルを叩き込んだ。

ホブゴブリンのHPはこれで全損し、無事ホブゴブリンは撃破出来た……が。


『グルル……よくも我が眷属を討ってくれたな、人間よ』


「お、キングってだけあって流石に喋るのか……」


喋るイベントに入ってくれたようだから、時間に余裕が持てそうだ。

俺はクールタイムがあと少しで終わる加速と加力を使う準備に入り、SPの自然回復を待つ。

さっきの通常攻撃乱打で十分にSPは溜まってはいるが……出来れば全快するまで待つ。


『貴様を滅す……加減はせんぞォッ!』


「さぁ来いよ王様!一揆してやるぜ!」


俺は剣と盾の耐久値を確認し、十分な数値かどうかを確かめて問題ないと判断したので、目の前のゴブリンキングに剣を向ける。


『テェァオッ!』


「加速!加力!」


ゴブリンキングが俺に向かって来たところで、クールタイムが終わった加速と加力を使う。

1.5倍に跳ね上がった俺のAGIはキングゴブリンの攻撃を避けるには十二分だった。

が……まぁ、ホブゴブリンに比べると圧倒的な速度とパワーだ。

こりゃ攻撃を頭どころか、手足に貰っても大ダメージになるだろうな。


「斬撃波!」


『【ファスト・スマッシュ】!』


流石にボスともなればスキルが使えるようで、ゴブリンキングのファスト・スマッシュと俺の斬撃波がぶつかり合った。

……別に斬撃波の威力に難があるってわけじゃあないが、ゴブリンキングのスキルの前には手も足も出ねえな。手足ないけど。


「チッ……フッ!」


『ヌゥンッ!』


ゴブリンキングの振り下ろすこん棒をジグザグに避けながら、最後はスライディング。

そのままゴブリンキングの懐に潜り込んだ。


「エクストーション!」


『ゴゥァッ!』


「てりゃああっ!」


ゴブリンキングの腹に向かってエクストーションを放ち、そのまま通常攻撃。

ダメージは……それなりに入っているが、HPバーは今の攻撃でもたった二割しか削れていない。

それも、コイツの三本もあるHPバーの内、一本の二割だ。

全体的に見たら、一割にも満たないくらいだ。


『【セカンド・スマッシュ】!』


「げっ……ファスト・シールド!」


ゴブリンキングはそのままこん棒を振り下ろして来たので、俺は慌てて盾を出現させる。

それに自分の盾も重ねるように翳し、何とか二枚の盾で攻撃を受け止めるが――


「ぐっ……肩が千切れるかと思ったじゃねえか!」


鎧、盾共に耐久値をそれなりに削られた。

それに俺はタンク職ではない以上、本体へのダメージもキッチリ入ってる。

こっちのHPも三割程削られてしまった。

自然回復スキルが早く欲しくなってくるところだな。


『ガァッ!』


「当たるかよノロマ!ファスト・スラァァッシュッ!」


掴みかかって来たゴブリンキングの攻撃をかわし、そのまま俺はファスト・スラッシュを放つ。

が、腹ではなくこん棒に受け止められたせいでまともにダメージを与えられていない。


「でりゃぁっ!」


『グオッ!』


「くぅぅらえぇぇっ!」


今度はゴブリンキングの足を台代わりにして膝蹴りを顎へと叩き込み、その勢いに乗せて盾パンチ。

クソッ、蹴りと合わせてたってコイツのHPが全然削れねえ!今までの攻防合わせても一本の内の三割、つまり一割だけだ!


「くったばれゴラァァッ!」


盾パンチの勢いでゴブリンキングの顔面を踏み台にするようにして―

空中からゴブリンキングの背中を斬りつける。


『ガァァッ!』


「チッ!ファスト・カウンタァ!」


ゴブリンキングの後ろに立った俺は、SPを全消耗するつもりでカウンターを詠唱。

そしてゴブリンキングが振り向きざまに放ってきたこん棒の打撃へカウンター!

頭に当たったから、クリティカルが出てようやく一本の内の六割……あと少しで一本落ちる!


『グゥゥ……』


「っと……威嚇か!」


ゴブリンキングは威嚇行動でこっちを睨みつけてくる。

モンスターはたまにこの行動をとってくれるので、隙が出来る。

だが直後に大技が来ることが多いので、俺はSPポーションを飲み干してSPを回復しておく。


『グゥゥ……【メガ・インパクト】!』


「チィッ!ファスト・シールド!」


ファスト・カウンターがクールタイムを終えていても、まだ詠唱時間を稼ぐ必要がある。

そのために俺はファスト・シールドを展開したが、無意味に等しかった。

地面にヒビが入り、衝撃波がビシビシと地面を割りながら俺の方へと向かってくる。

途中でファスト・シールドとぶつかるが――


「一瞬で割られっ――ウッソだろオイ!」


俺はファスト・シールドが割られた瞬間に横に跳んで避けた。

だがメガ・インパクトから伸びて来た衝撃で俺の剣が根元が砕け散った。

しかも直撃は避けたはずなのに、俺のHPバーが更に削られて、残りがたった二割だ。


「手に直撃しても即死じゃねーか!」


こりゃぁパーティ必須のダンジョンだ。

俺はアイテムストレージからHPポーションを取り出して飲み干す。

ゴブリンキングはスキルを放ったせいか動いていない。

この硬直時間がチャンスになるんだろうが……これ、タンク職のないパーティじゃ回復時間がこれってだけになるだろ。

回避盾ビルドだったら余裕かもしれないが、俺は回避盾と言うには少しステータスがおかしいからな。


「クソッ……面倒な事になったじゃねえか」


俺は剣の予備も取り出して、念のため左手にSPポーションを握りしめる。

盾は手に括り付けてあるのでわざわざ左手で持っている必要はないからな。


「斬撃波!」


「ゴォッ!」


硬直時間切れたてホヤホヤなゴブリンキングは俺の放った斬撃波をまともに受けた。

だがクリティカルは出てないので、HPバーはまだ一本も削り切れない。

それでも、俺の持つSPポーションと時間の許す限り攻撃するしかねえ。

アホみたいに買い込んでおいたポーションのおかげの戦術だけれどもな!


「ファスト・スラッシュッ!」


ゴブリンキングの攻撃をジャンプで避け、俺はゴブリンキングの腹にファスト・スラッシュを放つ。

これで一本目のHPバーは削り切ったので、やっと三分の一だ。


『グ……オオッ……ああっ……この、我に、膝をつかせるとはっ……許さぬぞ、人間……!』


フロアの中ボスとは思えないほどの覇気を感じさせるが、俺はスキルの詠唱をしておく。

HPバーが二本目になってからは行動パターンも変わるだろうが、攻撃をしないと言うことはない。


『ガアアッ!メガ・インッパクトォォォッ!』


「【セカンド・カウンター】!」


散々カウンターを使いまくって、ようやく気付いた。

さっきポーションを取り出した時、俺は新しくスキルを獲得していたことに。

それが、今俺が放ったセカンド・カウンターだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る