第5話

俺がSBOを始めてから、一週間が過ぎた。

俺は先輩とハルにゲームのイロハを叩き込まれ、様々なことを知った。

このゲーム内でのスキルの習得方法や、効率的な狩場等。

他にも、このゲームはどうやらアップデートで行ける場所が次々に解放される、と言うことも。

今の所解放された場所は県一個分くらいの場所の広さ、らしい。

地理に疎い俺はよくわからないけど、きっととても広いんだろうな。

それに、有志が計測した広さってだけだし、何よりも行ける場所が広がるとか言われたって全てのフィールドを駆け回りたいってわけでもないし、俺には分からないままで良さそうだ。

というか、現時点で解放されてる場所の最果てまで行ったことねーし。

そんなことを考えながら、今日の俺は一人で足を動かしていた。


「ふぅ、ここか」


先輩とハルに鍛えられたレベルとこのゲーム知識で、初のダンジョンへと挑むことにしたのだ。

Gは使い切る勢いでアイテムを買い込んで、ストレージに詰められるだけ詰めてある。

装備もまぁ、決して最高の物とは呼べないが……モンスタードロップと店売りで良い物を選んだ。

あくまで、今の俺が装備条件を満たしていたりする中で、だからまだ強いとは言い切れない部類だろう。


「ようし。ダンジョン探索、一丁行ってみるか!」


因みに俺がソロなのは俺自身の力を試したいからだ。

先輩たちに色々教えて貰った時は、殆どついて行ってるだけだったしな。

それに、今日は先輩もハルも夏風邪でダウンしちゃったみたいだから、今日行くならどの道一人なのは決まってたことだ。

でも、ゲームの方は一人で寂しくなかろうとリアルの方で部活はボッチだったし、結構寂しかったな。


「クソッ、この寂しさはモンスターへの八つ当たりで晴らすか」


本当なら動物に八つ当たりなんて真似したら首チョンパもんだし、決して許されることじゃない。

でもここはゲーム内だし、相手が自分に襲い掛かってくるのなら倒すべきだ。


「とわあありゃあああっ!」


「ガルッ!」


ズバァッ、と綺麗な音と共に俺に襲い掛かって来た【レッドハウンド】と言うモンスターを仕留める。

まぁ、今の俺のレベルは19まで上がってるし、装備も変えたおかげで一撃で倒せる。

……このダンジョンの推奨レベルが15で、俺がスキルを使ってるってこともあるんだけどな。

それにこのダンジョンは随分と敵の防御力が低いみたいだし。


「【ファスト・スラッシュ】!」


「ギャア!」


このダンジョンで主に出てくるのは【ゴブリン】とレッドハウンドだ。

基本的には雑魚的だし、マップも予め攻略サイトで調べていたから問題ない。

記憶力がダメダメな俺はあっさり罠とかに引っかかるんだけどな、ついさっきも足を引っ掛けて転んだし。


「んー、しかし剣の予備を持ってき過ぎたかな?」


今回俺が装備している武器、鋼の剣は店売りの中でも安くて使いやすかったために沢山あった方が良さそうだな、なんて思って買ってきたのだが。

流石に五本も予備を用意することはなかったかもしれない、多すぎる。

現に、今一本でも余裕で中間地点まで到達して、もう余裕な感じなんだよなぁ。

HPポーションも、予めハルに頼んで少し多めに用意して貰ったけど、先手必勝の速攻勝負をしかければ大体の敵は倒せるので使う機会が滅多にないし、遠距離攻撃も矢掴みや盾を翳すだけで弾けるし、なんなら剣で落とせる。


「このダンジョン……推奨レベル15って嘘じゃねえのか?」


攻略サイトの情報を嘘と思いたくなるくらい楽だ。

俺がVRMMO慣れしていると言うこともあるかもしれないのだが。

やっぱりどうしても違和感がある。

俺のステータスの振り分けとかが、このダンジョンと相性が良すぎたりするのか?


「ま、悩んでも仕方ねえか、進むしかねえな」


誰が隣にいるわけでもない中、俺は独り言を呟きながらも道を進む。

ここで一発、いいスキルでも手にはいりゃあいいんだけどな。

この一週間で俺が習得したスキルは【加速】【ファスト・スラッシュ】【ファスト・カウンター】【ファスト・シールド】【斬撃波】だ。

加速は一定時間俺のAGIを1.5倍にしてくれるので、早く動き回れる。

ファスト・スラッシュは剣の威力と速度を上げた状態で剣を振ることが出来る。

ファスト・カウンターは敵の突撃攻撃などに対するカウンターを放ち、クリティカルの攻撃を当てられる。

ファスト・シールドは一枚の盾をその場に出現させて、足場にしたり壁にすることも出来る。

斬撃波は……まぁ、ただ剣から衝撃みたいなのを飛ばす、そんだけだった。


「ギャギャギャ!」


「ガルッ!」


「オギャギャ!」


と、自分が入手したスキルを振り返りながら道を進んでいると、今度は三体纏めて出て来た。

レッドハウンド一体、ゴブリン二体だがゴブリンの内の一体は槍、もう一体は弓持ちか。


「ファスト・シールド!」


俺はその場に盾を出現させ、突っ込んできたレッドハウンドを止める。

その間に槍を突き出して来たゴブリンへ斬撃波を放ち、HPバーを削り取ったところで、レッドハウンドの顔面に向けて一閃。

クリティカルが出るので、当然レッドハウンドへ与えるダメージは大きいもんだから一撃で倒しきれる。

最後の弓ゴブリンは、飛んでくる弓を察知して、剣と盾で弾いて――

加速で距離を詰め、ファスト・スラッシュで撃破。


「ま、こんなもんか」


大体ダンジョンの七割くらいまで潜り切ったが宝箱の一つもないし、貰えるのはモンスターからドロップしたアイテムと金だけだ。

しかもゴブリンの落とすドロップアイテムはなんかしょぼい。

錆びた剣とか、粗雑な槍とか……装備も出来ない、武器の形をしただけのアイテムだ。

説明文には『武器屋に預けると……?』と書かれてるので、多分これを武器屋とかに直して貰うんだろうな。

で、レッドハウンドのドロップアイテムは牙や毛皮なので、売ればまぁ金になりそうだ。


「……このアイテムだけは今すぐ捨ててえけどなぁ」


ゴブリンからのドロップアイテムに、「小鬼の服」と言うボロ雑巾みてえな布がある。

攻略サイト曰く、ドロップする確率が低い割りにゴミ同然のアイテム……のようだ。

売却価格が0Gだし、何かの合成や調合とやらにも使えないとも書かれていたし。

しかも見てて汚らしさ抜群、犬のトイレシートのような絶妙な汚さと臭さを醸し出している。

今まで大体ゴブリンを三十体以上は倒してきたが、このアイテムは何故か二十個も溜まっている。

出来れば焼き払いたいくらいだ、ってか誰か焼き払ってくれ。

ゴブリンのケツと股間を覆ってた布とか誰に需要があるんだよ。


「クソッ……INTでもあげて炎魔法でも習得してやろうか」


と、ブツブツと呟きながらも俺はダンジョンを進んでいく。


「あ?行き止まりか?」


がすぐに行き止まりに当たった……と思ったら、よく見ると扉っぽそうだ。

なんか縦線入ってるし、押したら開きそうだ。


「よっ」


俺は扉を押してみるが……重くて動かん。

頑張れば開けられるかもしれんが、VR世界で力を込めるのは苦手だ。

いやまぁ、出来るっちゃ出来るんだがログアウトした時に頭痛くなるんだよな。

思い切り力むのを脳波で出すわけだし……脳みそが力んでるようなもんだ。


「ぐっ……んぬぬぬぬぬぅっ……ぜぇぇぇるっぁぁぁッ!」


俺はこのアバターに込められているSTR分を全て込めるかのように、扉を押す。

にしても硬すぎるだろ……この扉!

明らかに複数人で押すことを想定して作られているような硬さだ!


「ぜぇっ、ぜぇっ……はぁっ……」


いくらVRとは言えど、無尽蔵のスタミナを持っているわけではないので疲れは来る。

だがまぁ……現実世界での俺ならこの扉を数センチ動かしたりするようなことは出来なかっただろ。

全力の力で扉を押してようやく数cmほど動いたのが、地面のグラフィックの違いでわかる。

……あとどれくらい押し続ければいいのか。


「こうなったら、出たとこ勝負だッ……でえりゃあああああああっ!」


俺は少しでもSTRを乗せられるように、今度は盾を用いて扉を押し続ける。

VRだから痛みは大幅に軽減されているが体中に痛みが走る程、今の俺の体には力が込められている。

しかし、それでも扉は開かない。

精々子供の靴一つ分程度ズレた、って所だし……僅かな隙間が出来た程度だ。

しかも奥が見えない程度の隙間。


「はぁ……いくら壁に松明があっても見えないんじゃ、こりゃあ大変だよ」


ダンジョン攻略を諦めて帰るか……と、俺は振り帰ってそのままダンジョンを出ようと思った。

……でも、やっぱりここまで来た以上はソロで攻略したい。

三日も前から計画して、ハルに金まで貸して貰ったんだ。

だったら、全力で扉をブチ抜く勢いで頑張るだけだ。


「ファイッッットォォォォォッ!!!いっぱあああああツッ!!!」


俺は剣を構え、『予備があるからまぁいいや』の精神で僅かな扉の隙間に剣を刺す!

ガツンッ!と言う音と共に剣は扉の隙間を突破できずに阻まれるが……

見立てでは、剣を用いて押し込めば……この僅かな隙間に突破口が出来るはずなんだ。


「いい加減……開きやがれゴラアアアッ!!!」


脳に異常を来して、ハードが緊急ログアウト措置を取らなければならない寸前までの叫びと、全力を越えた限界の突きが、扉の隙間をこじ開けた!

……剣だけ隙間の向こうにあるだけで、俺は通れないけどな。


「ふぅっ……ふぅっ……はぁっ、はぁっ……ゲホッ……ど、どーだ……あと少しで開けられるとこだぜ!」


誰に自慢するわけでもないが、俺は息を切らしながら笑みを浮かべる。

あとちょっと、あとちょっとだ。

よし、このまま一気にこじ開けてやるっ!


「でえええりゃぁぁぁっ!」


扉の隙間が開いたことで、扉が右と左に分かれた。

だが、ドアと言うのは両方とも開ける必要なんてない。

自動ドアだって、ぶっちゃけ片方開けばいいんだから!

だから、こうして右側だけに剣を強く押し込めば……押し、込めば……!


「しぃぃぃやぁぁぁ――ッ!!!!!」


……鋼の剣の方が耐久値の限界を迎え、バキリと砕け散った。

そのまま剣はポリゴン片となって、どこかへと消えて行った。

予備が沢山あって良かった。


「ふんぐぉぉぉぁぁぁあああ──ッ!」


と……この後の俺は見苦しいまでに叫び声を上げながら剣で扉を押し続け――

体感にして凡そ一時間ほど格闘し、扉を無事にこじ開けられましたとさ。

……因みに鋼の剣はまた砕け散ったので、残りが四本となった。

ホントに予備を沢山持っててよかった。


「はぁっ……はぁっ……も、もう、やり、たく……ねえっ」


一時間も扉を押し続ける作業で、俺はもうログアウトしてしまいたい気分に駆られた。

だが、まだダンジョンはあと少しばかり残っている。

なら最後まで攻略して、宝箱の一つでもドロップするのを待たなかったら格好悪くて、デスペナルティなんて貰ってられねえぜ。


「……にしても、よくあのクッソ硬い扉の所にモンスター湧かなかったよな」


モンスターの攻撃を利用してあの扉を開けさせるなどの処置を防止するためかな。

だとしたら運営には用意周到過ぎて、ぶん殴りてえくらいムカつくけどな。

一応、ここのモンスターは攻撃力だけ高い。

現に、防御力に極振りでもないとフツーに攻撃を受け止めてたらすぐ死ぬみたいだし。


「にしても、腹減ったな……。

疲れたし、さっきからモンスターがいねえし、優雅なランチタイムと洒落込むとするか」


ハードにつけられている時計を見る限り、とっくに十五時を過ぎているが……

俺にとってはお昼ご飯みたいな気分だから、これも立派なランチタイムだ。

で……まずはアイテムストレージから、サンドイッチとコッヒーと言う飲み物を取り出す。

セブンスブレイブ・オンラインの飯はまぁ、美味しくも不味くもないとは聞いてるけれど、この世界の料理を食べるのは今日が初体験となる。

因みに料理スキルを持ってるプレイヤーに作って貰ったサンドイッチとかじゃあない。

ただただNPCの露店で売ってて、見た目は美味そうだったから買っただけだ。

フランスパンみたいなパンに、レタス、ハム、トマト、ロースト肉を挟んでいる物だ。


「いっただっきまーす……あぐっ」


俺は左手に持ったサンドイッチに齧り付く。

やや硬めのパンに、シャキッとしたレタスと水分が多いトマト。

そして薄いハムと大差ないような味をしているロースト肉。


「……なんか、普通だ」


ぶっちゃけ、近所のコンビニで売っているレタスサンドの方が美味い。

サンドイッチの作り方に美味いも下手もそんなないだろうが……食材の問題だな、コレ。

ハムとロースト肉に差がない程度の味ってことは、相当薄く切って手抜きしてるだろコレ。

俺の知ってるローストビーフってのは、ハムとは違った、如何にもな「肉!」と感じられるもののハズだ。

薄いのに不思議なくらいの味わいでもあるが、とにかく『肉を食っている』と感じられる味だ。

なのに、このサンドイッチはこんな微妙な味で悲しくなってくる。

……よし、ログアウトしたらサンドイッチを買いに行こう。


「ま、気を取り直して次はコッヒーを」


コッヒー……名前からしてコーヒーみたいな飲み物だろう……多分。

香りはコーヒー牛乳っぽい何かを感じる。

で、早速一口飲んでみる。


「……普通だ」


自販機で売ってる缶コーヒーの方が美味い。

少し甘いだけの栄養剤を飲んでいるような味がして、コーヒーらしさがない。

インスタントコーヒーが恋しくなってくる。

……よし、ログアウトしたら缶コーヒーも一緒に買って飲もう。


「さて、残念ランチが終わっちまったから先行くしかねえか」


と、俺は一息ついたところで立つと、メニューに③と出ていたことに気がつく。

……なんかの着信か?と思ってメニューを開くと。


『スキル【咆哮】を習得しました』

『スキル【エクストーション】を習得しました』

『スキル【加力】を習得しました』


……どう見ても、さっき叫びながらあのクソ硬いドア押してたのが原因だよな。

まぁ、スキルは多い方がいいだろうし……いいか。


「よし!漢ブレイブ・ワン、まかり通るぜ!」


一直線に続く道を駆け抜けて、俺はまたもや扉を発見した。

が、勢いをつけた状態でジャンプしてから、そのまま蹴りをぶちかましたらあっさりと開いた。

さっきの異常なほど硬い扉はなんだったんだ。


「……お、ボスか?」


目の前には、さっきまで斬り殺しまくっていたゴブリンの二倍以上はあろう体格のモンスターがいた。

名前を【ホブゴブリン】……それも二体だ。

奥には、ホブゴブリンよりも更にデカい、【ゴブリンキング】。

まだダンジョンの最深部ではないな、攻略サイトで見たダンジョンボスは違う奴だし。

コイツらはダンジョンボスの前座戦ってとこか。


「へへっ、よく三人に勝てるわけねえだろ……って言うけど、今日ばかりは勝つぜ、俺」


俺は鋼の剣と盾を構え、スキルを詠唱する。


『グルルル……』


『グゥゥゥ……』


奥のゴブリンキングは、こん棒片手に鎮座しているだけで動かないようだ。

成程ね、ボスを倒したきゃ取り巻きから殺れってことか。

俺の前で唸って、拳をパキポキと鳴らしているホブゴブリンから倒さなきゃ、ボスは動きもしないと。

攻略サイトでコイツらを見た時は随分と気持ちの悪い見た目をしてたが……こうしてみると、ただの筋肉質なブサメンナイスガイってとこだな。肌が緑なのを除けば。


「じゃあ――加速!加力!」


加速の効果を鑑みるに、加力ももしかすると。

と思って同時に使ってみたら、やはりブースト系スキルみたいだ。

加速を使うと、靴のようなアイコンが俺のHPバーの隣に現れる。

そして加力を使った時、拳のようなアイコンが加速のアイコンの隣に現れた。


「さぁて、短期決戦に持ち込ませて貰うぜ!」

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