第4話
夏休みはまだまだ始まったばかりなので、剣道部の部活は夏休みだろうと続く。
故に俺と先輩と盾塚の三人は、朝早くから昼まで部活動を行っていた。
で、今丁度練習を終えて俺たちは学校からの帰路についていた。
因みにウチの学校は体育館を使える時間が各部活ごとに限られているので、長時間かつ大人数での独占にならないように、剣道部は三回ほどに分けて使用を申請している。
そのため、俺たち三人だけがこんな時間に集まると言うのはおかしい話とかではない。
「今日の先輩、結構ため息ついてましたね。何かあったんですか?」
「あぁ、昨日セブンスブレイブ・オンラインを始めたんだよ。
んで、プレイに熱中しすぎて飯の時間に遅れてさ、妹が怒りに怒って、許して欲しけりゃコーラを三本買ってこいって言ってきた」
「そりゃぁ、妹さんも怒ったりしちゃいますよ。
夕ご飯の時間と言うのは大切ですし、ほら、先輩の家はご両親が共働きと聞きましたし……中学生とは言えど、一人で食べるご飯と言うのは寂しい物ですよ?」
「……なんで知ってんだよソレ」
「実は、お友達から――」
「ダチにも言ってねえよ」
なんで盾塚は俺の家庭事情のことまで知ってんだよ。
俺のストーカーか何かなの?それとも地球上のあらゆる知識でも詰まってんの?
と、俺が怪訝な目で盾塚を見ると、彼女はやや強引に話題を変えるように先輩を見つめた。
「それで、太刀川先輩?ちょっといいですか?」
「どうした盾塚、声が低くなっているぞ?乙女らしからぬ声は私にも剣城にも毒になるだろう」
「何故……何故私を誘ってくれなかったんですか……!
先輩がダイブするのを待って、私ずっと始まりの街にいたのに!」
え?盾塚も俺が来るのを待ってわざわざ最初の所にいたのか?
俺は先輩しか見つけられなかったし、先輩以外の人から話しかけられたこともない。
「盾塚、お前それ何時頃だった?」
「えっと、少し家で親戚と少しお話が合ったので、三時頃にダイブしましたけど」
「そうか……俺は一時頃にダイブして先輩に色々教えて貰ってた」
そこまで言うと、盾塚はまるで渾身のボディブローを受けたボクサーかのように崩れ落ちた。
……そんなにショックなのかな、これから遊べたりなんだり出来るだろうに。
「フフ、残念だったな盾塚。
ゲームを始めたばかりの初心者にあれこれと教える優越感は私が貰った」
「くぅぅ……ズルいですよ太刀川先輩」
「物事と言うのはスピードこそが大切なのだよ、盾塚」
うわ……先輩のこのゲスっぽい顔初めて見たわ。
初心者に教えるのってそんな楽しいことなのか?
俺は自身は初心者を育てるってのを楽しめなかったなぁ。
スゲーめんどっちーし、自分のレベリングに集中出来ねえし。
「今日こそ、今日こそは一緒にプレイしましょう、先輩!」
「あ、あぁ。盾塚からも教えて貰えれば、早めに一人でやってけるくらいにはなりそうだしな」
そうだ、盾塚からも教われば俺は早めに独立できるだろう。
ソロでもやってけるようにもなれば、先輩の迷惑にもならないだろう。
「急ぐ必要はないだろう、ゆっくりと時間をかけてレベルを上げても良いんだぞ、剣城」
「俺はもっと早くレベルを上げないとダメでしょうよ、先輩。
先輩だって、自分のレベリングをしたいでしょ?」
「ふぅ……やれやれ、剣城。確かに私もレベリングはしたいさ。
でも、お前は一つ重要なことを忘れてはないか?」
「重要なこと?」
何もわからず、俺は首を傾げるだけだった。
「ゲームは楽しんで行う物、と言うことだ。
私は確かにあのゲーム内で強くなることは楽しい。
だが、友達と共にゲームを遊ぶことはずっと楽しい、そうだろう?」
先輩の今の言葉に、俺は胸がグッとなった。
彼女はゲームを楽しむ心まで、完璧な人だったのだから。
「そうですよ、先輩。それに、太刀川先輩はSBOで三番目に強いプレイヤーなんですから。
ちょっとやそっとレベリングが数日出来ないくらいで置いてかれたりはしませんよ。
SBOも今はアプデの予告もないですし、最低はあと二週間くらいはゲームの停滞期です」
「……は?」
盾塚の言葉を聞いて、俺は思わずフリーズした。
真夏だと言うのに、俺の挙動は凍り付いたのだ。
「そっ、そりゃどういう意味だ……?」
「フ、コレはお前がSBOを始める一か月前の話だ。
丁度その時、SBOはサービスを開始してから初めてのアップデートが来た。
それで……初アップデートとしての記念で、初のイベントが始まった」
「イベント?」
それでSBOの強さが決まる……参加者を募って、全プレイヤーでトーナメントでもやったんだろうか。
「制限時間は三時間、その時間を用いて参加したプレイヤーたちによるバトルロイヤルがあってな。
勿論大半のプレイヤーが参加したさ。私もそのうちの一人だ。
死亡数、累計与ダメージ、累計被ダメージ、撃破数。
それらによってポイントを得て行き、頂点を目指すイベントだ」
「私も参加したんですけどねー……五十位圏内にギリギリ入れなかった所で、プレイヤーの壁を感じましたよ」
「……で、先輩は」
「あぁ、そのイベントで三位に入った。
死亡数1、累計与ダメージ1155648、累計被ダメージ5700、撃破数999」
……化け物かよ、あと一人斬ってたら天下無双って名乗れる奴じゃねえか。
ってか、そんな先輩よりも更に上を行く奴がいたのかよ。
「因みに、二位とか一位ってどんな人だったんですか?」
「一位はSBO内じゃ有名なプレイヤーだ。
私の死亡数1も、彼につけられたものだからな。
乱戦の最中とは言えど、完全に不意を突かれた一撃だった」
SBOじゃ、上を見たらキリがなさそうだ。
トッププレイヤーに並ぶ、なんて今の俺じゃ考える事すら馬鹿馬鹿しいくらいだ。
だからまぁ、エンジョイ勢ってことで気軽に遊ぶとしよう、SBOは。
と、俺はそう思いながら帰宅して今日もまた、SBOの世界へと飛び込むのだった。
「ふー……やって来たぜ、SBO」
俺は前回ログアウトしたスポット、ファスト・ボアの生息する草原に座っていた。
……寝た体制からこうやって座ってる体制になると、やっぱ凄い違和感があるな。
これからは寝た状態でログアウトしないとな、宿屋とかで。
「さて、先輩から言われたクエストをやるか……」
『ハルさんからフレンド申請が届きました、承諾しますか?』
『はい』『いいえ』
急にポップアップメニューが出て来た……いきなり誰だよ。
と、思っているとメニューの方に①と言う記号が出た。
何かと思ってメニューを開くと、チャットの項目に①と出ていた。
チャットの方をタップしてみると。
『先輩、私です。可愛い後輩の私です。
フレンド申請飛ばしたのでとっとと承諾してください』
「お前かよ」
俺がログインした瞬間を狙いすましたかのような申請の早さに驚きつつも、俺はフレンド申請を承諾する。
これで晴れて盾塚ことハルとフレンドになった。
と、同時にパーティ申請が飛んできたのでそれも承諾。
先輩、俺、盾……じゃなくてハルの三人パーティだ。
先輩のレベルは40、俺のレベルは6、ハルのレベルは27だ。
「うひゃー、まだ四分の一にも満たないのか」
先輩のレベルは昨日見たけど、ハルのレベルだって俺よりもずっと高い。
で、ハルのアイコンは巨大な盾……ってことはアイツ、大盾使いか。
とパーティ欄を眺めて感心していると、またメニュー画面に①と出た。
またハルからのチャットだろうか。
と思って見てみると、今度はチャットではなくメールの項目に①と出ていた。
「今度はなんだ?」
そう思ってメールの項目を見てみると。
アイテム添付付きでメールが送られてきていた。
『レベルが15になるくらいまでは役に立つ装備を送っておきます。
それとアイテムもいるので、どうぞ』
添付アイテム:魔力シャツ(赤)、回避の指輪+2、鉄の胸当て、革のズボン(黒)、革の手袋、鉄のグリーヴ、HPポーション×10、SPポーション×5、解毒薬×5
……なんか色々アイテムが貰えた。
「取り敢えず、受け取れるもんは受け取っとくか」
俺はハルから送られてきた装備をアイテムストレージへ収納。
で、折角のことだから貰った装備を身に着けることにした。
驚く事にまぁ、採寸もしてないのに俺の体にピッタリと合う形になっている。
「なんか悪い気がしてきたな」
俺はそう思いつつ、先輩から言われたクエストを村人から受注した。
受注して受けた内容は、コケッコの肉集め。
前から持っている物と合わせると、あと5つ集めればいいことになっている。
剣がぶっ壊れるまでコケッコを狩っていた甲斐があったな。
「ようし、行くか」
先輩とハルとパーティを組んでいるのにも関わらず、俺は一人でコケッコ狩りを始めたのだった。
因みに、これは後で聞いた話だが先輩は俺と離れているのにも関わらずバニーガール姿でいたらしい。
俺の取得する経験値を1でも増やそうと、頑張ってくれているのは嬉しいんだが……先輩がバニー姿で人前をうろついていたと思うと、なんだか胸が痛くなったな。
だから、その恩にも報いるために頑張らないとな。
「せっ、ふっ、はっ!」
俺は前と違う感じで戦うためにコケッコを五匹をまとめて集め、攻撃の回避に専念しながら戦ってみた。
そのために盾は腕に通してはいるが、剣は両手で握る形だ。
「てりゃあああっ!」
「コケーッ!」
「せぇいっ!」
時にはパンチやキックなどでコケッコを攻撃する。
こうすると、結構戦いやすかったりするんだよな。
……まぁ、剣の一撃だけでコケッコがあっさり倒れるので、なんだか呆気ない気もする。
「とりゃあああっ!」
「コケェッ!」
「お、これで全部か……」
俺のリアルラックがいいおかげか、それとも先輩のバニーコスか。
はたまた、ハルが先輩のバニーコスのようにパーティメンバーへ影響を及ぼす装備をつけているのか。
と、アレコレと先輩たちのことを考えながら行ったクエストは、あっさりと終わった。
報酬は革の胸当てだった。正直今の俺にはいらねえ装備になるので、あとで売るか。
もう一つのクエストも討伐系で、内容はファスト・ボアの親玉であるセカンド・ボアと言うモンスターを討伐するみたいだ。
「そんな奴いたっけ……」
と思って辺りを見回してみると、普通にいた。
真っ黒で、ファスト・ボアよりも一回り程大きいイノシシがいた。
しかも、HPバーも二本あるし。
さっきまでは明らかにいなかったはずだが、クエストを受けることで出現するようになるのか。
「よし、やるか!」
俺は先輩に教えて貰った、ファスト・ボアとの立ち回りと同じようにセカンド・ボアに近づく。
横か後ろから、それならファスト・ボアは突撃するだけしか出来なかったから大体倒せる、と。
ではセカンド・ボアならどうか。
一応中型ながらもボスモンスターであることを考えると、行動パターンは違いそうなもんだが。
「シューッ……」
鼻息を鳴らしながら、イノシシは目標を俺に合わせ、足で地面を数回引っ掻いたかと思うと――
目にも止まらぬ速度で突撃してきたっ!
「おっぶね!」
「カッカッカッカッ!」
「鳴き声だけはなんかやたらとリアル!」
本当にイノシシの音声を撮ったのか、と思わせるほどリアルな鳴き声だ。
俺はセカンド・ボアの突進を避け、横からセカンド・ボアを斬りつける。
よし、HPバーが今ので一割も削れた。
いくらボス級と言っても、アイアンソードを持っていれば楽勝だったりするのか。
「フシューッ!」
「どあっ!」
が、ただでやられるセカンド・ボアなんていなかった。
セカンド・ボアは無茶苦茶に体を揺らし、その牙が俺の胸にガツン、と派手な効果音と共に当たった。
思ったよりも威力のある一撃で、俺は二、三歩分程吹っ飛んだ。
「いた……くはねえけど、ダメージの方はいってえな」
「カカカカカカッ!」
「だーたたたた待て待て待て!
ちょっとHPがマズい気がするから待て!」
俺はセカンド・ボアの突進を慌てて避ける。
さっきの一撃は胸当てが威力を軽減してくれたが、俺のHBバーは二割も減っている。
いくらVITを上げていると言っても、元のステータスが20しかない。
盾で防御力を上げていようと、それは盾自身の防御力だ。
盾+自分のステータスで計算されるのだから、盾で攻撃を受けなければ当然HPは結構減る。
「この野郎……ぜってぇ斬り倒して、肉は鍋かなんかにしてやるっ!」
セカンド・ボアは俺目掛けて突進の構えをしている。
俺はここである物を、折角の機会だからとお披露目することにした。
そう、それはスキルだ。
セブンスブレイブ・オンラインの情報をまとめられたサイトを見て知ったことだが、スキルは初期段階でいくらか貰える物らしい。
チュートリアルをスキップしてしまったから、知らなかったけどさ。
で、そのスキルを貰える条件が選んだ武器によって決まるものだった。
勿論、盾を組み合わせることで貰えるスキルも変化する。
「フシューッ!カカカカカカカッ!」
「俺の片手直剣、そして小盾の組み合わせで発動するスキル、とくと味わえっ!」
俺は事前にサイトで予習しておいた構えを取る。
スキルを発動するには、それ専用の構えが必要だ。
だから左腕に装着されたバックラーを前に出し、俺は剣を肩の高さまで持って行く。
「とぅぅぅりゃぁぁぁっ!」
「ギャンッ!」
セカンド・ボアの突進に合わせて放った俺のスキル――
【ファスト・カウンター】はファスト・ボアのクリティカル位置である顔面に吸い込まれるように剣が叩きつけられた。
で、やはりと言うかなんと言うか、スキルを使うとSPのゲージが削れる。
が、ハルから貰った装備に自然回復効果がついているようで、数ドットずつ回復していっている。
これでセカンド・ボアのHPバーが今ので四割も削れた。随分デカいな、ダメージ。
「よし、このまま一気に!」
スキルのクールタイムもあるので、またすぐに突進へのカウンターとはいかない。
だが、今のカウンターでセカンド・ボアの頭の周りにはヒヨコと星のマークがくるくると回っている。
そしてセカンド・ボアが転倒してじたばたと足を動かしているのを見るに、クリティカル攻撃によったスタン状態だ。
言わば、気絶したのと同じ扱いだが……なんで足を動かせるかは知らん。
「てぇっ!とりゃぁっ!たぁぁりゃぁぁぁっ!せぇいっ!とぅらぁぁぁっ!おらっ!せぇいっ!」
セカンド・ボアが気絶している時間、体感にして凡そ五秒と言ったところ。
その時間、俺はセカンド・ボアの頭を滅多斬りにしてやった。
当然クリティカルが働くので、ダメージ量は増える増える。
七回斬りつけたことで、セカンド・ボアはポリゴン片となって、ガラスのように砕け散って消えた。
「よし……何とかクエスト達成か!」
で、何故か俺のHPバーが六割ほどしか残っていないことについては、忘れよう。
気絶している最中のセカンド・ボアの角に当たり判定があったことなんて忘れよう。
気絶しているからと言って調子に乗っていたことも忘れよう。
「さて、と」
俺はG、CP、経験値、セカンド・ボアのドロップ品であるセカンド・ボアの肉を入手し――
村へと戻り、無事に俺は革の靴を手に入れた。
が、村の道具屋でにさっきの革の胸当て諸共売り飛ばした。
……そこで一つ気になったのが、モンスターを倒した時にCPは入手出来て、物を売った時には入手できなかったことだ。
後で、先輩に聞いてみたりするか。
と、俺はレベルが7に上がったことを喜びつつも、自分が疑問に思ったことを忘れずにいた。
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