第9話
「で、その出現ポイントについたはいいが……どうやって出てくるんだ?」
「あぁ、コイツ……エリアボスの中じゃ結構特殊な奴なんスよ」
「特殊な奴?」
普通、エリアボスと言うのは一定の間隔で出現するものだ。
大体何時間おき、とかそんな感じだけど……このリザードマン・ロードと言うのは何か別の条件でもあるのか?
「リザードマン・ロードの出現の条件は、抜刀状態で出現ポイントに近づくことッス!」
エリアボスっつーか最早それイベントボスかなんかだろ。
……でも抜刀さえしなかったら現れないんだよな。
しかし、エリアボスと言うのはたまにアクティブモンスターだったりする場合もある。
となると、ある意味親切な設計と言えるかもしれない。
「ほら、ブレイブ・ワン殿。早くその腰に付けた剣を抜いて、あそこに近づいてくれ」
「なんで俺?」
「そりゃ、ブレイブさんがタンクなんだからブレイブさんが出現させて、ヘイト引き付けて貰わないと困るッスよ」
「なので、私たちは抜刀しててもここで待ってますから」
そう言うことか。
確かに合理的な判断だし、俺が文句を言うような事でもないな。
じゃあ俺が武器を抜いて、盾を構えてればいいってわけだな。
「りょーかいりょーかい、っと」
俺は腰から小鬼王の剣を抜き放ち、盾と一緒に構える。
すると、今俺たちの立っている位置の近くにある森の木々が揺れ始めた。
目の前にある……泉だけ池だか沼だかわからない水たまりがボコボコと音を立てた。
『我が眠りを覚ます者よ……そなたらの血肉を持ってして、酒宴を広げてくれようぞ……』
スッゲー怖い事言うなコイツ。
と言うのが第一位印象の水色の鱗を身に纏った、リザードマンが現れた。
俺たちの二倍くらいはありそうなサイズだ。
ゴブリンキングよりも少し大きい。
「ほらヤマダ!ブレイブさんに魔法かけるッス!」
「あぁ!【スピードアップ】!」
「防御アップとかねえのか!?」
「すまん!いつもの癖で間違えてしまった!許せブレイブ殿!」
アホか!……が、まぁいい。
加速を使う分のSP消耗が避けられたからまだいい。
「加力!」
俺は攻撃力のブーストをかける。
リザードマン・ロードが振り下ろしてくるカトラスをサイドステップで避ける。
そして次のスキルの詠唱へと入る。
「シュルルル……ガゥァッ!」
「セカンド・カウンターッ!」
リザードマン・ロードが伸ばして来た舌へ盾をぶつけ、回転するように俺はリザードマン・ロードの胸を斬りつける。
よし、カウンターでHPバーも結構削れたハズ……と思っていると、三本の内のHPバーの一本、その一割も削れてない。
「嘘だろ!?」
ゴブリンキングですらクリティカルを出せばあれだけ削れたのに。
コイツはクリティカル以外全攻撃のダメージカットとかそんな感じか?
「【ガードアップ】!」
「グルルゥッ!」
「くッ!」
ヤマダのガードアップが俺にかかったところで、カトラスが俺に向けて振り下ろされる。
避けてもさっきみたいな流れになるだけなら、と俺は盾で受け止め、弾く。
くっ……攻撃力の高さは馬鹿になんねえみてえだな……俺のHPバーが二割も削れたぞ。
HP割合防御力……残りHPの割合に応じて防御力がアップするが、それはHPが削れれば削れるほど防御力も低下するだけに、防御する側からしたら困ったスキルだ。
「ユージン、お前回避盾なら……アイツの攻撃避けながら叩けるか?」
「はい!出来るッスよ!」
「じゃあ俺のファスト・シールドで足場を作るから、クリティカルを出してくれ。
上手くいけば気絶が狙えるかもしれねえ!」
「了解ッス!」
今度は突き出されたカトラスを俺は盾で受けるが、じりじりと押される。
「ツッ……くっ、クソッ……!」
「せいっ!」
だが、俺のHPバーが大きく削れるよりも先にランコが槍でカトラスを跳ね上げた。
ユージンが走り出すのと同時に、俺はファスト・シールドを出現させた。
目論み通りユージンはシールドに飛び乗り、足場にしてリザードマン・ロードの顔面に飛び込んだ。
「ファスト・スラッシュ!」
「ガッ!」
「チッ、取り損なったッス!」
リザードマン・ロードは持っていた盾でユージンのスキルを受け止めた。
だが、そのおかげで顔面に盾が行っていて胴体は隙だらけだ。
「ファスト・スラッシュ!セカンド・スラッシュ!」
俺は袈裟斬り二発を両方ともスキルで放ち、×の字を書くようにリザードマン・ロードの胸を斬りつける。
そのまま剣を中心へと突き刺す!
「毒撃!」
小鬼王の剣の固有スキル、毒撃。
文字通り斬りつけた対象に毒を付与する効果だ。
ゴブリンたちは毒武器を持つからこその所以か。
リザードマン・ロードのHPバーの隣に毒のアイコンが現れる。
それと同時にコイツの体から紫色の泡のようなエフェクトが出てくる。
「ギャオッ……」
「おお、毒状態になったッス!
それにHPバーがちゃんと削れてるッス!やるッスねブレイブさん!」
ユージンが喜んでいるが、まだまだ喜べる範囲じゃねえだろ。
こんなのまだまだ序の口、本番はこっからとか言えるトコですらねえ。
後は毒撃の毒状態がどれだけ続いてくれるかを待ちつつ、さっきの流れを繰り返すしかない。
だがモンスターだって学習はしてくる以上、不測の事態に備えなくてはならない。
「もう一発来るぞ!」
「ガアア!」
「ファスト・シールド!」
リザードマン・ロードの握るカトラスが垂直に突き出されるので、俺はファスト・シールドを展開。
直ぐにバリン、と言う音と共に砕かれるが、威力こそ軽減された。
故に、俺は直接盾でカトラスを受け止めてから弾く。
「ユージン、ランコ!」
「はいッス!」
「【ファスト・ジャベリン】!」
ユージンは素早い動きでリザードマン・ロードの足元を三回斬りつけた。
……恐らく加速を使っているんだろうが、俺ならこの一瞬で三回も斬れない。
回避盾だから、多分AGIをかなり上げているんだろうな。
で、ランコがエネルギー状の槍を投擲したものの、リザードマン・ロードの盾に受け止められた。
「ガアアア……」
リザードマン・ロードは口に何かを溜めている。
おい待て、聞いてねえぞ!そんな攻撃するなんて!
と思ってユージンの方を見ると、コイツも驚愕してた。
三回も戦って三回ともあの攻撃を出されなかったのかよ。
「ガアアアオオオ!」
「チッ!セカンド・シールドッ!」
リザードマン・ロードが溜めてから放ってきた、水の塊のような砲撃。
俺はセカンド・シールドを展開して水砲を止めさせて見るが、直ぐに砕かれた。
ので、盾を翳して水砲を受け止める。
「ヤ、ヤベっ……」
思ったよりも威力があり、俺が押されて行く。
盾越しだと言うのに俺のHPバーはじりじりと減っていき、どんどん下がらされていく。
離脱しようと思えば出来なくはないが、ここで離脱しようものなら隙を晒すハメになる。
下手するとヤマダとかを巻き込みかねない。
「くっ……そ……がああああああッ!エクストーションッ!」
俺は破れかぶれに、盾でエクストーションを発動させる。
押し出す力が水砲よりも弱いせいで、直ぐに押し込まれるが……勢いこそ弱まっている。
が、リザードマン・ロードが追撃と言わんばかりにこっちへ迫ってきている。
ユージンが何とか注意を引こうとリザードマン・ロードを斬りつけているが……
まともにHPバーを削れていない。
「クソッ、なんで俺を無視するんスか!」
そりゃ、お前の攻撃力が足りなくて大した脅威じゃないって判断されてるからだろ……なんて言ってる場合じゃない。
モンスターのヘイトを稼ぐには、傷を負わせるか挑発系スキルを使うしかない。
だがユージンがリザードマン・ロードに与えているダメージは、さっき俺が放ったセカンド・カウンターと大して変わらない。
毒撃によって起こした毒状態で固定ダメージを与え続けている状況なら、当然ヘイトはこっちにしか向かない。
「チッ……すまん、避けるからお前らも避けろ!」
「心得た!」
「はい!」
ヤマダとランコが左右に散ってくれたので、俺は右足を軸にして水砲を受け流す。
水砲はそのまま真っすぐに進んでいって、地面を濡らしながら消えた。
だが同時に、受け止めっぱなしでいた俺のHPはもう半分を切っている。
「ガードアップ!」
「ファスト・シールド!セカンド・シールド!」
俺はシールドを二枚展開し、急いでメニューからアイテムストレージを開く。
そしてそのままポーションを三本程取り出し、三本纏めて栓を抜いて口の中に流し込む。
一つ一つのサイズが手で握れば隠れるくらいの小ささなので、三本纏めても飲めなくはない。
だがポーションは飲んだからと言って即時回復するわけじゃない。
攻撃された時と同じように、HPバーが伸びるかのように戻っていくだけだ。
「ガアアッ!」
何らかのスキルを使ったのか、リザードマン・ロードはカトラスを左右に振った。
するとファスト・シールドとセカンド・シールドは砕け散った。
ほぼ役に立たない程の硬度じゃねえかよ、クソが……!
「ファスト・スラァァッシュ!」
「ガオッ!」
ユージンが跳躍してからリザードマン・ロードの頭へと横薙ぎ一閃。
よし、いい時間稼ぎになってくれた。
が、クリティカルが出たと言うのにも関わらずリザードマン・ロードはHPバーの減りが薄い。
……このまま戦っても、倒しきれるだろうか。
「ガアッ!」
「ファスト・スラッシュ!」
リザードマンのスキルと思しきカトラスの振り下ろしを、俺はファスト・スラッシュで相殺する。
そのまま――
「ユージンッ!」
「はいッス!【ダブル・ライジング】!」
ユージンの短剣スキルか。
ググッ、と低く身を屈めた状態からユージンは回転しながらリザードマン・ロードを斬りつけた。
二本の短剣で放つスキルなのか、四回もリザードマン・ロードを斬りつけていた。
HPの減りは……一本の内の四割がようやく削れた。
「ヤマダ!」
「わかっている!【オール・パワーアップ】!」
ヤマダがかけた援護魔法で、俺たちの攻撃力が一.五倍になった。
よし、この状態なら。
「フシュルルル!」
リザードマン・ロードが伸ばして来た舌を俺は盾で弾き、リザードマン・ロードへ一歩踏み込む。
「セカンド・スラァッシュッ!」
「ギャッ!」
「今だランコ!」
「【乱れ突き】!」
リザードマン・ロードの胸元へ袈裟斬りで放ったセカンド・スラッシュ。
それはさっきの援護魔法で強化されていることと、毒の固定ダメージが入る瞬間。
ダメージが重なるように入ったため、リザードマン・ロードをグラつかせた。
そのままランコのスキルがリザードマン・ロードの腹部へと五発突き刺さった。
……乱れとか言ってる割にほぼ腹の方に集中してるスキルってどうなんだ。
「今です!兄さん!回復を!」
「あ?お、おう!」
俺はアイテムストレージからSPポーションを取り出して飲み干し、スキルを詠唱する。
相も変わらずリザードマン・ロードの注意は俺の方へと向いている。
「ガアアアッ!」
リザードマン・ロードは剣に赤いライトエフェクトを纏わせた。
誰が見ようが見てまいがあからさまにスキルとわかるものだ。
あんなに威力の高い物を受けたらタダじゃすまなさそうだな。
「ヤマダ!ランコ!」
「わかってます!」
「あぁ!」
「ユージン、俺の後ろに!」
「はいッス!」
ユージンは消えたかのような速度で俺の後ろに回っていた。
速すぎだろ。
お前最初のステータス振り、まさかAGIに極振りとかしてねえよな。
いやでも、だとしたら超加速を覚えていることになるから、それはない……な、多分。
「ガアアアアオッ!」
今までで一番大きな声を上げながら、リザードマン・ロードはカトラスを横薙ぎに振る。
それに、カウンターを合わせようとする俺。
だが、横薙ぎはフェイントであり、俺のカウンターは空ぶった――
ところで、俺のアバターは煙のように消えて行った。
「これは……」
「幻影属性、援護魔法、【ミス・カウンター】」
ヤマダの詠唱していた魔法。
俺も今の攻撃がフェイントだと気づかなかったし、下手したらセカンド・カウンターを外して死んでただろう。
だがヤマダがかけてくれた魔法は、色が薄くなった俺の幻影を俺を目の前に出して、カウンターを空振りさせた。
それは、カウンターをミスした俺を映し出すことで俺へフェイントの存在を伝えること。
「へへっ、前の失敗が生きたッス!」
「お前ら……ありがとよ。
セカンド・カウンタァァァッ!てえええりゃあああああッ!」
カトラスの振り下ろしを受け流すように避け、回転するようにリザードマン・ロードの頭の上から剣を振り下ろし、最大の攻撃へのカウンター……それにクリティカルを上乗せした一撃を放った。
それはリザードマン・ロードの三本あったHPバーの一本を、全損させるには十分な威力だった。
「よっしゃ!三分の一削ったッス!」
「これで今までの記録更新ですね!」
「だが、どうせここまで来たのだ。
倒し切らなければ勿体ないであろう」
「あぁ、どうせなら、カッコよく決めてやるよ!
漢ブレイブ・ワン!そしてその愉快な仲間たち!まかり通るぜ!」
「応!」
剣の切っ先をリザードマン・ロードへ向け、俺たちは声高らかに宣言した。
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