第2話 遭遇②

「次は妾が問う番ぞ。純恋、何故なにゆえ妾の社に足を踏み入ったのだ?」

「……罰ゲームで。」

「ばつげえむ。知らぬな。もう少し話してみよ。」

「クラスメイトのパシリをさせられてたんだけど、いちゃもんつけられて罰ゲームに駆り出されたの。」

玉藻前は無意識に口元をしぼめた。

「はて……知らぬ言が増えた。」

「えっと……仲間の言いなりになって買い物に出たんだけど、言われてたものを買ったのに『これじゃない』って一方的にケチをつけられて、罰として……。」

「ほぉ。」

玉藻前の眉間の深いシワが純恋の緊張を煽る。

「ごめんなさい!」

「む?なぜ謝る?」

「だって、自分の社を罰ゲームに使われるなんてよく思えないはずだし。」

「ククッ……ククク。」

「ッ?」

「ハハハハハ!!愉快、実に愉快ぞ!」


「あの……なんで?」

玉藻前はヒィヒィとひとしきり笑いきってから、純恋に顔を向けた。

「人間というのはいつも勝手に妾に価値をつける。」

「価値?」

「姿を見れば“妖艶”と色めき立って尻を追いかけてきたが、少しでも気に入らなくば掌を返して化け物と罵った。そして石に封印されれば次は妾を毒の石と呼び慄き、かち割った。」

「それが、殺生石?」

「然り。荒唐なものよ、妾は変わらぬというのに。」

純恋が恐る恐る相槌を打つと、玉藻前は誇らしげに純恋のスマホを指差して話を続けた。

「そして欠片が散り散りに散った挙句に、一番大きな石の欠片を温泉地の名所に仕立て上げた。」

「ここって、相当有名なところだよ。強い匂いがして実際に具合悪くなる人もいるって。」

玉藻前は不服そうに鼻を鳴らした。

「否。瘴気は確かにあるが、あれはもともと山を敵に回して毒を浴びるところを当てただけのこと。童の瘴気は人をも殺す。そうさな……わかりやすく言うと痛点のようなものだ。」

「それは確かに腹も立つかも。」

「純恋は素直でよいな。」

玉藻前は純恋の頭を撫でた。


「今や、この社以外に石の力は残っておらぬ。それもたったこぶし大よ。」

「えッ!小さッ。」

「それを見つけた人間が守銭奴だったおかげで、『この石に罪を打ち明け、懺悔しなくば地獄に落ちる』と吹聴してここまで崇め奉られ、今や罰ゲームの場よ。」

「やっぱり失礼だったよね。」

「なぁに、失礼も無礼もない。妖は良くも悪くも信仰がなくば消滅してしまう。人間の身勝手のおかげでここまで命を繋いだのだ。」

「逸話みたいなものかな。」

「ご名答。」

純恋は玉藻前の嬉しそうな反応に胸を撫で下ろした。

「それより妾が怒りを覚えているのは、その罰ゲームとやらぞ。」

「え……あぁ、それは仕方ないよ。」

「仕方ないものか。純恋は理不尽に屈辱と恐怖を味わったのだぞ?」

「でもここで言い返したところで何も変わらないよ。」

「……純恋は優しい、妾の愛い子ぞ。それをここまで押さえつけられて誰が耐えられようか。」

「ちょ、大丈夫だよ!これで私が我慢すれば、同じ目に合う人が出ないんだから。」

「なにを?まさか、純恋以外にもるのか?」

「まだだけど……。」

「“まだ”とな?!」

「いや、その……私のクラスで起きてるそういう嫌がらせってさ、誰か一人を標的にしてみんながそれを黙認することで成り立ってるの。下手に庇うと次の標的はその人。だから私で止めておかないと。」

「なんと愚かな!そんなもの尚、純恋が被ることあるまい。」

「でもッ。」

「でもも糸瓜もないわ!……うむ……だが、周りの身を案じるのも純恋の良さか。良き心ぞ。」

「へ?」

「うむ!良き良き、気に入った!」


玉藻前は純恋の手を握った。

「純恋、妾と契ろうぞ。」

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