俺は『悪魔の書』を手にする権利がある
ディック氏はハルシオンの頭を撫でた。「それより、君の身に危険が迫っている。ここは一旦、退こう」
「ええ」
二人は俺達と合流すると、旧寮へと急いだ。旧寮に辿り着くと、玄関前に男が立っていた。
黒いマントに仮面をつけた男だ。「来たか」
その声は若い男のようだった。「お前が黒幕か」
俺が尋ねると、男は首を横に振った。「違うな」「なら、誰なんだ?」
俺が追及すると、仮面の男はあっさりと答えた。「俺はジャック。ただのしがない悪魔祓いだよ」
「ジャック?」
その名を聞いた途端、ハルシオンが反応した。「まさか、あなたは」
ハルシオンが口を開くと、ジャックはハルシオンを指差した。「久しぶりだな。『神の子の使い』」
>「知り合いなのか」
俺の問いにハルシオンは答えた。「はい。『七つの大罪』の悪魔の一人です」
「何だって!?」俺は驚きを隠せなかった。
「おい、悪魔ってことは、こいつも敵か?」
俺はハルシオンに尋ねた。「いえ、この人は味方です」
「へぇ」
俺は感心した。「よくわかったな」
「ええ、まぁ」ハルシオンは曖昧な返事をした。俺は疑問に思った。「なんでわかるんだ」
「それは……内緒です」
ハルシオンが口を閉ざす。「ところで、君はどうしてここに来たんだ? この前の一件以来、俺達の邪魔をしなくなったと思っていたんだがな」俺はハルシオンと会話しながら、ジャックの様子を窺っていた。「いや、お前たちを止めようと思ってきたわけではない」
「じゃあ、何の用だ」
俺は警戒を強めた。「俺は、この寮の取り壊しを中止させにきた」
「何だと?」俺は思わず聞き返した。「そんなことできるのか?」
「もちろんだ」
ジャックは自信たっぷりに言い放った。「俺の目的は二つある。一つは、お前たちがやろうとしていることを阻止するため。もう一つは、この寮を俺の隠れ家にすることだ」
「ふざけるんじゃねぇ」俺はジャックに詰め寄った。「そんなこと、認められると思っているのか? お前が何者だろうと、これは魔法界全体の問題だぞ」
「そうだな」
だが、ジャックは全く動じていなかった。「だが、俺にとっては些末なことだ。この寮を俺のものにすれば、いつでも好きな時に使えるからな」
「何だと?」
俺は面食らった。「お前は何を言っているんだ?」
「言葉通りの意味だよ」
「そうは思えないな」
俺はハルシオンに目配せした。「なぁ、ハルシオン。あいつは何者だ?」
「わかりません」
ハルシオンがかぶりを振る。「ですけど、あの人が悪魔であることは間違いないと思います」
「ふぅん」
俺が鼻を鳴らすと、ジャックが話し始めた。「俺の正体が知りたければ、お前たちの目的を教えてくれないか? そうすれば教えてやってもいい」
「いいぜ」
俺はニヤリと笑った。「俺たちの狙いは、旧寮の地下にあるっていう『悪魔の書』だ」
「悪魔の書?」ジャックは眉をひそめた。「いったい、何の話をしている?
『悪魔の書』なんてものは知らない」
「しらばっくれるなよ」
俺は挑発的な口調で言った。「お前が、あの女を使って、エリファス・レヴィを殺したのを知っているんだぜ」「エリファスだと」
ジャックの顔色が変わった。「なぜ、エリファスのことをお前達が知っている?」
「俺達はエリファスの研究を引き継ぐために、わざわざこんなところまでやってきたんだよ」
俺はジャックに説明した。「だから、あの女の研究成果を手に入れるためなら、何でもやるつもりだ」「エリファスの研究成果?」
ジャックはますます困惑した様子だった。「お前たちはエリファスの研究室に忍び込んだのか?」
「いいや」
俺は首を振った。「残念ながら、俺の実力じゃ、あの部屋のセキュリティを破ることはできなかった。だから、お前が何かしたんじゃないかと思ったんだけどな」
「俺は何もしていない」
ジャックは即座に否定した。「あの部屋には鍵がかかっていたはずだ」
「だったら、どうやって入ったんだ」
俺は質問した。「お前は、あの部屋に入ったことがあるのか」
「いいや」ジャックはかぶりを振った。「俺はエリファスと直接会ったことはない」
「じゃあ、誰がやったというんだ?」
「わからない」
ジャックは困ったように肩をすくめてみせた。「しかし、エリファスは確かに死んだ。俺が殺したからだ」「お前が殺してどうする?」
俺は呆れた。「研究資料を盗んでこいと言ったのは、お前だろ」
「いや、あれは俺じゃない」
ジャックは首を横に振った。「エリファスが死んでしまった以上、俺にはどうしようもない」「信じられるかよ」
俺は吐き捨てるように言った。「お前はエリファスを自分の手で殺しておきながら、その責任を逃れようとしている」
「待ってくれ」
ジャックが慌てる。「俺は本当に何も知らなかったんだ」
「知るかよ」俺は冷たく突き放すと、「エリファスはどこで殺された?」と尋ねた。「旧寮の中だ」
「旧寮の中に死体があったって言うのか?」
俺は驚いて聞き返した。「ああ、あったとも」
ジャックが答える。「しかも俺が駆けつけた時には血の海になっていた」「嘘をつけ」
俺は一蹴した。「お前はエリファスの死体を始末するために、旧寮の取り壊しを延期させようとしているだけだろ」
「いや、違う」
ジャックは否定した。「エリファスが殺されていたのは事実だ。そして、俺が駆け付けた時、彼女は既に死んでいた」
「だったら、どうして旧寮が取り壊されるのを止める必要があるんだ」
「それは……」
ジャックが口ごもる。「まさか、エリファスが殺されたのが旧寮だからとか言わないよな」「……」
図星らしい。「なるほどね」
俺は苦笑いした。「それで、お前はエリファスの死をなかったことにしたいわけだ」
「違う!」
ジャックが声を荒げる。「俺はただ、あの場所を守りたいだけなんだ」「どういう意味だ?」
俺はジャックに問いかけた。「俺はこの学園で『悪魔の書』を探している」
ジャックは語り出した。「俺が探していたのは、エリファスの遺した研究資料だ。俺の目的はそれを手に入れて、俺だけの楽園を作る事にあった」「パラダイス?」
俺は聞き返した。「つまり、その『悪魔の書』さえ手に入れば、旧寮が壊れても構わないということか」「そういうことになるな」
ジャックはあっさりと認めた。「それが、お前の目的なのか?」
俺は確認した。「ああ、そうだ」ジャックは肯定した。「そのために、エリファスを裏切ったのか?」
俺は尋ねた。「そうだ」
ジャックがうなずく。「俺は『悪魔の書』を手にする権利がある。だから、俺はあの女に近づいた。『悪魔の書』を手に入れた後で、俺の邪魔をする奴は殺すつもりだった」
「そうか」
俺は納得した。「お前の目的はわかった」
俺はジャックに向き直ると、こう宣言した。「だけど、旧寮の取り壊しを中止するわけにはいかない」
「どうしてだ!?」
ジャックが声を上げる。「理由を話す必要はない」
俺は断言した。「俺達の仕事は、旧寮の取り壊しを阻止することだ」「馬鹿を言うな! 俺がお前たちを妨害すれば、お前たちだって黙っていないだろう。そうすれば、この寮は取り壊せない。そうすれば、俺は『悪魔の書』を手に入れることができる。どちらが得になるかは明白じゃないか」
「損得の問題じゃない」
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