老保母の定年退職

 私が第1作目で起承「頂」転結の「頂」の一番のポイントとしたのは、表題に挙げた通りの節です。


老保母の定年退職


 ここで扱われている「老保母」というのは、やっと40歳になるかどうかのやり手の男性園長の大先輩でもある保母さん。この時代、結婚か、そうでなくても転職などで養護施設という職場を去っていく人が多い中、このお方は、終戦直後のそれこそ、私の両親が生まれた頃から、まだ18歳か19歳という年齢でこの職場に就職し、途中出産の理由での休職期間があったとはいえ、当時の定年である55歳まで勤め上げて、その年度末、定年退職という形になったわけです。

 それはたまたま、その方が独身(というなら、出産とは何ぞやとなるし、実際そうではないですけど)か、はたまた母子家庭なのか(それならあり得るかも?)というと、そんなこともなく、夫もいて子どもさんもいるわけね。かと言って、その夫たる人物がとんでもない甲斐性なしとか、そんなわけでも、ない。

 にもかかわらず、彼女は、「職業婦人(なんか、時代を感じるね~苦笑)」の一人として、よつ葉園という養護施設に勤め続け、最後の数年は、自分の後輩でもある年少の男性園長の下で働くことにさえ、なったわけね。

 今なら、というか、昔でも、教師の世界とか、そういうところでは普通だったと言えるのかもしれんけど、養護施設という場所においては、事実として一定数こういう方もおられることは確かだが、全体からしてみれば、むしろ例外に近いケースです。


 ただ、こういう女性というのは、どうしても男性以上に保守的な言動をしがちなものでして、特に子どもらにとっては、特に中高生にもなった子ら、男女は問わないが特に男の子にとっては、あまりいい存在とも言えないのよね。まして、昔ながらの感覚で接してこられたあかつきには、そりゃあ、たまらんよ。

 そんな、ぶっちゃけ「クソババア」なんかの話、聞いてられるか、ってなるわな。


 そんなことは、年少の園長だって、百もお見通しですわな。

 てなわけで、その「旧態依然」の象徴たる彼女にお引取り願うことは、遅かれ早かれ、園長の大槻氏にしてみれば、やらねばならないこと。

 なし崩しでずるずる来られても、決して、彼にとって、いいことにはならん。

 そうなれば、こういう話になるのは、必然と言えば必然なのね。


 ちなみに、定年退職というのは、一般企業のそれも大手であれば、ルーティン業務として会社側がさっさと処理してくれるのでしょうけど、この手の福祉施設では、行政との絡みもあって、結構、こういうことに関わる書類には、うるさいところ、あるのです。ですから、一見現実的でなさそうに見えても、実は、この世界、まして、若いうちから定年まで勤めた人がそれまでいないような「職場」で、しかも先程述べたような事情がある場所であれば、「定年退職届」という「文書」は、いやでも必要になるというわけなのです。


 でも、元銀行員の大先輩に書籍化前にお読みいただいたら、

「君、このようなシーン、現実的じゃないのでは? そんなもん、会社側が通知ひとつ出して、あとは金が振り込まれて終わりだろう・・・」

と、びっくりされました(苦笑)。


 それはともあれ、ふと気が付くと、私、今年で53歳なのよ。

 モデルにさせていただいたその保母さんと接触していた頃の、その方の年齢くらいには、なっているのよね(汗汗・苦笑)。

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