第5話 ものづくり


「イシュ、作りたいものがあるんだけど」

朝食が終わってムシキが言いました。

「あれ、前に沢山作ったはずだろう?」

「うん、十分足りてるよ。でも入用なんだ」

ムシキは昼食の下準備に取り掛かっていました。他の三人は決してムシキの仕事を手伝おうとはしません。

「何か手伝えることある?」

ザルいっぱいのインゲンが目の前に置かれました。

「筋取りお願い。助かるよ」

ふう。筋取りのあと、泣きながら、玉ねぎの皮むきを済ませ、食器類を噴き上げて塔子はようやく一息つきました。こんなに大変な仕事をムシキは三食、毎日努めているのです。

「これ終わったら、トーコ時間いいかな?」

「うん、大丈夫」

そう言って、裏庭からビオトープとは反対方向の森へ向かって行きました。

確か、温室があると、オーウォンが言っていたはずです。その通りに、森を入ってすぐに温室はありました。ドーム型のガラスで出来た温室です。

「ここは何?」

「オーウォンのものだよ。何があるのかは知らない。けど、入室禁止」

ふうんと、不思議に思ってムシキを追いかけました。

「お待たせ、どうだい?」

そこには、大きな板の作業台に屋根付きの窯と、その前にはイシュが立っていました。

「土の準備は整ってる」

「いいね。じゃあ、早速作ろうか」

「何を?」

「トーコのカップをさ」

塔子の瞳がパチクリ。

「私の?」



風が優しく森の中を駆け巡っています。

塔子は土をこねる作業に奮闘しています。

土の中にある空気を抜くのにはなかなか力が要りました。途中、イシュが手伝ってくれて、ようやく、次の段階へ作業が進みました。今度はろくろを回しながらの形作りです。

少しため息をつきながら、ムシキは首を左右に。

「ムシキは何を作っているの?」

「ん?型」

そう言って、穴の開いた小さなロの字のようなものをいくつも作っていました。塔子は両手で包めるくらいのサイズで、吸い口部を広がるように作り、把手は人差し指を入れて調整しました。

「他の皆にもそれだけは自分で作ってもらってる」

ムシキは既に終わらせて塔子の作業を眺めています。

「手作りなのね。みんな、素敵なカップだなって思ってた」

「トーコだけお椀で代用してもらってたから、気になってたんだよ」

イシュが進み具合を確認に来ました。

「こっちは出来たよ」

「私も・・出来た」

頷いて、イシュは屋根のある棚へと運んでいきました。これから数日、あの場所に置いて、完全に乾くのを待つようです。

それから、一週間が過ぎた頃、イシュからの号令でムシキと一緒にまた森の作業場へ行くことになりました。イシュは作品の素焼きから、本焼き前までをやってくれていたようで、着いて、塔子の作業は絵付けだけでした。

「今年は乾燥までが早かった」

前より、どっしりとして少しだけ大きくなったように感じました。

「これから、これに下絵を塗る」

そう言って、イシュは下絵の絵の具を台に並べていなくなりました。

「さあ、塗ろうか」


絵付けの作業は思ったより時間がかかりました。散々悩んだ末、ベースの色を薄い水色に。桜色の水玉を。なるだけ同じ大きさのないように。

「どんなのにしたんだい?」

「桜の花が舞っているみたいに」

「へえ」

トーコはまじまじと眺めながら静かにイシュが来るのを待ちました。

「よし、完成は明日だ」

「はい!じゃあ、さっさと戻るよ。昼食の支度!そろそろタネが落ち着いたかな。肉団子ちゃん」

塔子は出来上がりがとても楽しみで、一日中ワクワクした気分で過ごせたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る