第4話 気がかりなこと
「あの・・欲しいものがあるの」
アクタは興味深々な眼で塔子の顔を覗き込みます。
「何かな?」
屋敷から離れたところで、塔子は木板をノコギリで切り落としていました。
「何が欲しいかと思えば、工具とはね」
アクタは木の端に腰を下ろして作業具合を眺めています。
「でも、それじゃ、昼食に間に合いそうにないね。どれ、僕に貸して」
昼食のメニューはチキンソテーとオニオンスープ。
柔らかくて、パサついていないチキン。そして、添えてあったソースはさっぱりしていてバルサミコ酢と似ています。
初めて飲むレッドクローバーのお茶は飲みやすくて、ほんのり甘い。
道端に咲いているただの雑草がハーブなどとつゆほども知りませんでした。
「あなたたち、裏庭で何しているの?」
ムシキが、不思議そうに二人を見つめています。
「工作さ、僕は、塔子のお手伝いをしているだけだよ」
「そうなんだ。まあ、出来上がったら見せてね」
「うん」
塔子はにっこりと、頷きました。
そのことが気に入らないのはオーウォンでした。オーウォンは、アクタのように塔子の力になりたいと思っていました。けれど、きっかけがつかめなくて歯がゆい思いを感じているのです。
「トーコ、何かあったら、僕にも言って。僕も君の力になるから」
「ありがとう、オーウォン」
実はオーウォンにここを案内してもらった日の翌日、こっそり裏庭の水たまりを見に行ったのでした。その水たまりは殆ど手付かずで、お粗末に置かれた板は腐っていて、ヘドロと泥の悪臭のひどい有様でした。
川幅は狭く、それも水たまりになる原因のひとつでしたから、いっそ水たまりをきちんと広げて、岩から流れ落ちてくる川の水を引き込めるかもしれないと考えたのです。
塔子は何故かこの場所をどうにかしたいと使命にも似た気持ちに駆られました。
工程はこうです。
まずは、川のヘドロを排除と清掃。その後、川幅を広げる。そうすれば、水の勢いにも負けないで更に、程よく循環出来るはずです。
この作業は一番神経を使うものでした。そこに住む生き物たちを傷つけないようにしなければなりませんから。少しづつ・・少しづつ岩を積み上げて、炊事場の完成です。
“全ては、この場所の正しい調和のため”
「何してるんだい?」
お茶の用意が出来たことを知らせにオーウォンはやって来て、塔子の手元を覗き込みました。
「ここに住んでいる生き物たちの記録」
塔子はアクタにもらった画材で小さな魚から虫までをスケッチしていました。
「へえ、絵を描くのが上手いね。それに、ただの水たまりをこん最高最高にしちゃうなんてさ。僕は、ここまで丁寧に仕事が出来ないから、色々がああなんだなあ・・・・」
1日のほとんどを塔子はここの管理と足場の修復費やしました費やしました。
水の濁りを待ちながら、木板を周りに囲い、固定の釘を打ってようやく完成です。
「できた・・・」
「まさか、トーコがビオトープを作っていたなんてね。今晩は、デザートにクレープシュゼットも作ったんだ」
その晩は完成のお祝いとお披露会会。
大きなミートローフと一緒に焼いていたローズマリーを皿の箸に寄せ、
何を言うまでも無く、オーウォンは無言でそれを運び、せっせと会場作りを始めました。スージーの摘んできたスミレをテーブルの花に。
スージーはいつものようにハーディ・ガーディを。
晩餐会が始まりました。
ヘルミが少し遅れてやって来ました。大きなバケツを抱えています。
「少しだけど、ホテイアオイよ」
塔子はお礼の言葉を伝えて、早速水に浮かべました。
水面に月が浮かんで、水の音が心地よくて。
その頃には記憶のすべてを思い出せなくなっているこ塔子は塔子は気づかずにいました。
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