第14話 勇者のパーティ
「まさか、俺の後をついて離れなかった泣き虫のお前が勇者になってるとはな」
「いつの話をしているんですか……」
あれ、もしかして仲悪いんだろうか? 妙に険悪な雰囲気が醸成されているような気がする。
「もうミケ先輩より、僕の方が全然強いんですから。いつまでも、僕の事を見下すのはやめてもらいたいですね」
「へえ、そうなのか」
「そうですよ」
そう言うと、コジローは腰の鞘から剣を引き抜いて、切っ先をミケに突きつけた。それを見たミケは目を細める。
「聖剣エクスカリニャン……。なるほどな」
「わかってもらえましたか」
ミケが言うと、コジローは剣を鞘に戻した。
「もう、僕はただミケ先輩達の帰りを街で待っていただけの僕じゃない」
コジローはそう言って、冷ややかな目をミケに向けると、
「ちなみに、僕達はミケ先輩が倒せなかったAAA級MTTBを倒しましたよ。あなたが倒せなかった敵を倒し、あなたが抜けなかった剣を抜いた。僕の方がミケ先輩よりも強いのは火を見るよりも明らかでしょう?」
「確かに強くなったみたいだな」
ミケの言葉に満足したのか、コジローは表情をミケが来てから初めて緩めた。
二人の険悪な雰囲気に呑まれて、他の猫たちは話に入っていけない感じだった。
わたしもマリリンも二人のやり取りを見守るしかない。
「それで、なぜ今更戻ってきたんですか?」
コジローに問われて、ミケがチラっとわたしを見る。
「ま、こっちにも色々事情があるんだよ」
「事情ですか。いかにミケ先輩がかつての勇者とはいえ、今更最前線に復帰するのは容易ではないと思いますけどね。戦いの次元はミケ先輩がいた頃よりも遥かに進んでいるんですから。それに、個人的にはもうミケ先輩にパーティを作ってもらいたくはない」
「へえ、なんで?」
「リーダーの資質がないからですよ」
コジローは吐き捨てるようにそう言った。
「僕達がまだヒューマガルドで野良をやっていた時、僕を含めた数十匹があなたについて行った。その結果僕らは保健所に捕まりガス室送りにされたんです。
ミケ先輩が判断を間違えたから、みんな苦しんで死んでいった。
助かったのは、ガスが充満する瞬間猫乙女〈ニャルキリー〉によってニャルハラに導かれた僕とミケ先輩だけだった。
そして、ニャルハラでもミケ先輩は勇者と周りからおだてられた結果、無謀な戦いをして、またパーティを全滅させた。まさか、三度目の正直……とでも言うつもりですか?」
コジローの言葉に、ミケは黙り込んでいた。
わたしには彼らが何を話しているのか、さっぱりわからない。それでも、二人の間には何か複雑な事情があり、ミケはその事で責められている。その事くらいにはわたしにも分かった。
「ミケ……」
わたしは不安な目で見つめると、ミケは自嘲気味に笑った。
「確かに、そう言われると俺はリーダーに向いてない気がしてくるな。でも、安心しろよコジロー。このパーティのリーダーは俺じゃなくてこいつだから」
そう言うと、ミケはわたしの事を指差した。
「えっ!?」
思わず驚きの声を上げてしまう。このパーティ……と言ってもまだわたしとミケだけなのだが。このパーティのリーダーってわたしだったのか。今、初めて知った。
これにはコジローも驚いたのか、わたしも目をぱちくりさせていたが、彼も目を白黒させていた。
「もう、その辺でいいのではないですかな? コジロー殿」
やたらと低くて聞いているだけで心が落ち着く紳士的な声がコジローに声を掛けた。
「舞鶴〈まいづる〉駅長」
コジローはその声の主に、舞鶴駅長と声を掛ける。
おそらく舞鶴駅長というのがこの低い声の主の名前なのだろう。わたしもそちらを見る。
「うわ……」
そこには、フルフェイスタイプの西洋甲冑の兜を被った。セーラー服を着たおじさんが立っていた。
顔が兜で隠れて見えないのになんでおじさんとわかったのかと言うと、ミニスカートからホワイトソックスまでの太腿から脛にかけてまでに生えているすね毛を見たからである。
いや、やってきたのは舞鶴駅長だけではなかった。
舞鶴駅長の隣にはブーメランタイプの海水パンツしか履いていない熊ほどもあろうかというマッチョの色黒の巨漢の男。
そして、魔法少女の服を着た一見すると女の子に見えるが、明確に男な男の娘も一緒だった。
「茶虎三号。アステルも」
茶虎三号と呼ばれた男は、ガハハと豪快に笑い。アステルと呼ばれた魔法少女の男の子はキッとわたしの方を見た。
「おい、お前。今、こいつなんで女装してるんだって思っただろ?」
「うっ」
見抜かれていた。
「言っとくけど、僕の趣味じゃないぞ。こいつがやらせてるんだからな!」
彼はマリリンを指差すと、頬っぺたを膨らませる。
マリリンがやれやれと手を上げた。
「やっと揃ったわね。パーティ全員が揃うなんて、どのくらいぶりかしら」
「さあなぁ。半年振りぐらいじゃねぇか? ガハハ」
なんか知らないけど、彼らは再会を喜んでいるようだ。
ミケは彼らを、ざっと一通り見ると、
「それが、お前のパーティか?」
「ええ、最強のパーティですよ」
コジローが誇らしげに言うのに、
「確かに、強そうだな」
と頷いた。ミケのその反応はコジローが想像していたものとは違っていたのか、驚いた顔をした。それから、軽く瞼を下げふぅと軽く息をついた。
「そうですね。僕が大人げなさ過ぎたかもしれません」
今のは舞鶴駅長に対する言葉だ。そう言った後、コジローはわたしの方へと、歩み寄ってきた。なんだろう?
「君の名前は?」
そして、わたしの顔を見る。
「ルナよ」
「ルナか。いい名前だね。ミケ先輩を頼みます」
そう言うと、コジローはわたしに頭を下げた。わたしは面を喰らってしまい、それに対して何も言えなかった。
コジローはわたしの沈黙を肯定と受け取ったのだろうか。その清濁合わさった表情からは、彼の真意は読み取る事は出来なかったが、とりあえず満足はしたらしい。
「じゃあ、ミケ先輩。僕らは〈先〉に行きますよ」
「ああ」
ミケがぶっきらぼうに頷くのを見てから、コジローは自分の仲間の元へと合流し、去っていく。
「じゃあね。子猫ちゃん」
最後にマリリンがわたしにウィンクした。
すると、わたしの背後にいた死神が霞のように霧散した。
「はぁ、やっと消えた」
やっとのことで、即死魔法から開放されてわたしは安堵の息を吐きながら脱力する。くっそー、あの女、いつかはにゃんと言わせてやるんだからと、ジト目を向ける。
そんな彼らの後ろ姿を見ながら、さすが勇者のパーティというだけのことはあって、ある種異様なオーラを放つ集団だったとわたしは思った。
そして、苦虫を噛み潰したような顔で立ち尽くすミケに、わたしは歩み寄った。
「ミケ……」
ネズミを獲り逃した猫のような声で名前を呼ぶ。落ち込んでいるんだろうかと思ったからだ。
そんなわたしの声に対して、ミケは小さく首を振った。
そして、わたしの頭に手を置いた。
「しょぼくれた顔すんな。別に、あいつに嫌われてようと、俺は気にしねぇよ。それに、これは俺の問題だしな。お前が気にするようなことじゃない。それよりも――」
ミケはと横を指差した。
「そっちの子はほっといていいのか?」
「へ?」
指差した先を視線で追う。そこには、尻餅をついて放心していた先ほどの女の子がモジモジと落ち着かない様子で立っていた。
「あの、あの……」
なんて言っている様子はまさに小動物。いつの間にか、完全復活されていたようだった。
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