第13話 突然の決着
どうするの?
わたしは、マリリンの方を睨みつける。
あなたのせいで、わたしは剣が抜けないんだけど。
この、状況をどうするのかと非難を込めた目を向ける。
しかし、相変わらずマリリンは涼しい顔をしていた。
「大丈夫」
と口元が動いた気がした。
次の瞬間、携帯を操作していた男十数人が一斉に倒れた。
それに伴って、空中に展開されていた火球もその姿を消す。
よく見れば、男たちのニャルラトフォンも何かに砕かれたように、バラバラに分解されていた。
うわぁ、データのバックアップは大丈夫だろうか。とちょっと関係ない心配をしてしまう。
「なっ、なんや……」
呆然と立ち尽くす関西弁の男。
いつの間にそこに立っていたのか、男の隣に青髪の騎士風の青年が立っていた。
「もう、やめませんか。お店で戦うなんてよくないと僕は思いますよ?」
「お前は、勇者……っ」
搾り出すように男が言った。勇者? 何かの称号だろうか。勇者と呼ばれた青髪の青年は、あたりを見回すと、ふぅとため息をついた。
「ここは僕の顔に免じて、事を収めてくれませんか? お仲間も全員ダウンしてしまったようですし」
「くっ……」
青年が言うと、関西弁の男は苦虫を噛み潰したような顔をしてから、「クソが」と悪態をついた。自らを落ち着けるように髪を掻き毟ってから、落ち着きを取り戻し、
「ちっ、興が削がれたわ。他の店で飲み直すで。おい、お前ら起きろや!」
関西弁の男が声を掛けると、昏倒していた男たちが頭を振りながら体を起こす。
そして、最初にする事は、自らの無残にも破壊されたニャルラトフォンの残骸をみて絶望する事だった。
中には獣のように声にならない声で呻いているものまでいる。まあでも、その気持ちはわかるけどね。とわたしは内心で苦笑いした。
それにしても。と思う。
もしかして、あの一瞬で周りにいた数十人全てを昏倒させ、端末を破壊したのは目の前の青年の仕業なのだろうか。
だとしたら、この猫〈ひと〉すごく強い。全然、見えなかった。
わたし、勝てるかな。
もし今斬りかかってみたらどうなるんだろう。という妄想がはかどるが、マリリンの魔法があるので、実際は猫村正を抜く事が出来ないのがもどかしい。
「ほな、行くで!」
不機嫌な様子で関西弁の男が店を出て行くと、それに伴って数十人の男たちがぞろぞろとついて出て行く。その中には、わたし達の事を恨ましい目で見てくる者もいたが、特にトラブルに発展することもなく。彼らは店から出て行った。
彼らだけで、店のかなりの割合を占めていたらしく。すっかりと店内は静かになった。他の客たちも、事が終わった事を見届けると、各々の時間を過ごすために各々の席へと戻っていった。
そんな様子を見ていた、わたしに青年が声を掛けてきた。
「やあ、大丈夫だったかい?」
「え、あ、はい。わたしは」
「そう、それならよかった」
そういうと、青年は柔和な表情を作る。そこで、わたしは後ろを見た。そもそもなんでこんな事になっているのかを思い出したからだ。わたしの後ろでは、尻餅をついたままの姿勢の少女が呆気にとられたような表情でポカンと口を開けていた。
「あなたも大丈夫?」
わたしが声を掛けると、ちょっとスイッチが入ったのかコクコクと頷いている。まだ、心が落ち着くまでに、もうしばらくの時間が必要なようだった。
それから、わたしはわたしに即死の魔法をかけた女魔法使いの方に向き直った。
「ねぇ、そこの」
「マリリンよ。何かしら?」
「いい加減、この呪い解いて欲しいんだけど?」
わたしは親指で背後霊のようになっている死神を指差しながらマリリンに言った。
「だぁめ」
「なっ……」
なんで、とわたしが言う前に、マリリンが続けた。
「理由は、まだあなたの殺気が消えてないからよ。一体何を考えているのやら」
いや、何を考えてると言われましても。わたしはチラチラと青年の方を伺うと、
「いやぁ、この猫とわたしとどっちが強いのかなぁと」
そう言ってにゃはっと、笑顔を作る。
「はぁ?」
そんなわたしの態度に、マリリンが口を開け呆れる。
「はは、じゃあ、やってみる?」
「ちょっと、コジロー冗談はやめてよ」
青年が冗談交じりにわたしに言うのを、マリリンが睨みつけて黙らせる。どうやら、この青髪の青年の名前はコジローと言うらしい。
「はぁ」
マリリンはため息をつくと、
「どうやら、あなた相当の命知らずだわ。コジローは勇者なのよ。あなたなんかが敵うわけないじゃない。紅茶に入れた砂糖が溶けるよりも早く、あなたの体が血の海に溶ける事になるわよ」
やれやれと首を振った。えー、やってみなきゃわかんないじゃん。なんで決め付けるのよ。というか、
「勇者って何?」
「勇者知らないの?!」
え、常識レベルの事なの?
いや、単語自体はわたしも知らないわけではない。
一般的に勇者って単語はあれだよね。金ぴかの鎧で電気の魔法とか使う人の事だよね。確か、飼い主さまが遊んでいる、テレビゲームで見たことある。
ただ、わたしがテレビの前を横切る時に電源コードとかいうのに足を引っ掛けて、プラグから引っこ抜いたら、飼い主さまにすごい勢いで怒られて、三日くらい口を聞いてもらえなくなったトラウマがあって、あまりいい思い出はないけど。
「ははん、さてはあなた新米の使い魔〈サーヴァント〉ね。あなたが囚われているのは、初心者によくある驕りの檻なの。そのうち現実を知る事になるでしょう。いい? 勇者っていうのはね」
「いや、いいってマリリン」
マリリンがコジローと呼ぶ青年は、照れたように顔を紅潮させマリリンを制止する。
実力者なのは違いないけど、意外とやや幼めにみえる外見の通り、歳相応の性格なのかもしれない。
「勇者ってのは、ニャルハラで一番強い使い魔〈サーヴァント〉が得る称号の事だよ」
「……!? ミケ」
声のした方を見ると、ミケが立っていた。っていうかすごい今更な感じが、どうせ上でニヤニヤしながら見ていたに違いない。
「よお。久しぶりだな。コジロー」
「ミケ先輩ですか……。生きてたんですね」
「生憎、悪運が強すぎるもんでな」
コジローが流し目を向けるのを、ニヤリと口角を上げ受け流す。
どうやら、二人は知り合いのようだった。
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