第4話 MTTB戦・初戦闘
いや無理でしょ。
こちとら剣なんて振ったことはないし。
そもそも猫だし。
四本足に何させようっていうの。
剣を握る手がガタガタと震える。
思わず勢いだけで出てきてしまったけど、どうすればいいのかわからない。
まるで死神のような、MTTBの双眸に対峙しているのが自分だという現実感もない。
「ル……ナっ!」
ミケの声にはっとなり、顔を上げる。
MTTBから伸びる触手がわたしに迫っていた。
「やめて!」
剣でガードするも、ガィンという音がして弾かれてしまう。ふらふらと体勢を崩しながらも、ここをどくわけにはいかないんだという気力だけで触手をさばく。
なぜなら、ここをどいたらこいつはミケにトドメを刺すだろう。だからここから動くわけにはいかない。
幸いにも攻撃はさっきの戦いの時よりも緩い。
きっと、ミケが手傷を負わせたからなんだろう。
それでも、わたしには荷が重すぎた。
だましだましに攻撃をかわしてきたのも、ここまでだ。
触手の攻撃のよって、わたしの体ははじき飛ばされた。
無理だよ。やっぱ無理。
こんな化け物にどうやって勝てっていうの?
どうしようもないよ。
ごめんね。ミケ。
わたし、あなたを守ってあげられない。
わたしが甘かった。あなたの忠告。ちゃんと聞いておくべきだったんだね。
わたしが諦観の中で、顔を伏せた時だった。
「顔を上げろルナ!」
それはほとんど、反射だった。反射で剣を動かし自分の喉下まで迫っていた触手を弾く。
「ミケ?!」
そんなに大声だして大丈夫なの? そんなわたしの心配よそにミケは続けた。
「よく見ろ! もう相手はもう完全に再生してるんだ。攻撃の苛烈さは俺と戦っていた時の比じゃない。それをお前はさっきからずっとさばいてるんだぞ!」
「……っ!?」
ミケに言われて、改めてMTTBの体を見る。ミケがつけた刀傷もレーザーが通った後の貫通傷も、もうどこにもなかった。
「英雄に、勇者になるんだろ! 大丈夫だ、お前なら勝てる、俺を信じろ!」
「うん!」
立ち上がると頷く。
触手の軌道をよくみて、弾く!
流れの中で別の触手へと、刀身を走らせそれも弾く。
弾く、弾く、弾く。
よく見れば、あんなに速く思えた触手の動きもそれほど速くも感じなかった。これなら問題なくさばける!
剣速は更なる剣速を呼び、いつしかそれは鋼の暴風となって暴れまわっていた。
MTTBの触手はパック詰めの海苔巻きのごとくスパスパと細切れにされ、もはや攻撃の体も成してはいない。
それがMTTB本体に届くまで、それほど時間も掛からなかった。
「はぁああああ!」
独楽のように体を回転させながら、MTTBの巨体を切り刻んでいく。
そして、MTTBは紙ふぶきのように散る。
しかし、まだ倒せてはいない。
地面から五本の触手が、わたしを囲むように出現した。それは、遠くにあったミケを打ち抜いたビーム触手。しかもそれが五本。そしてそれらが一斉発射する!
「……っ!!」
剣を滑らせながら、ビームを刀身の側面に角度をつけて当てビームの進行方向を屈折させる。それを丁寧かつ高速に、時間にすれば瞬きにも満たない一瞬の間に五回行う。
「――――――っ!!!!」
それは、はたして驚愕だったのか。それとも、気合であったのか。
全てのビームが、わたしを避けあらぬ方向に飛んでいくのを見て、MTTBは大きく咆哮をあげた。
五本のビーム触手は一度地面に引っ込むと、絡み合うように太く大きな触手として改めて地面から顔を出す。
それは、細切れにされ宙を舞う紙ふぶきと化していた本体をも取り込み肥大を続けていく。
そして、全長十メートルはあろうかという巨大なタコ状のよくわからないものとなってわたしの目の前に立ちふさがった。
おそらく頭にあたるであろう部分には、巨大な砲身が不気味にこちらを向いていた。
おそらくは、大技でケリをつける腹なのだろう。
なら、わたしもそれに応じてやる。
わたしは、剣を上段に構えるとMTTBと対峙する。
MTTBの砲身に光が収束する。
そして、今までに見たこともないような極太の光の奔流が放たれた。
「はあああぁああ!」
わたしは剣を握る手に力を込めると、ミケがやった真空切りを見様見真似で光の奔流に向けて繰り出した!
エネルギーとエネルギーがぶつかり合い、一種の拮抗状態を作る。
しかし、すぐにそれは崩れMTTBから発射されたビームがグニャリと変形したかと思うと、一瞬で霧散。次にはMTTBの頭から足元まで全てに届くような巨大な斬撃によって、MTTBの体は真っ二つになっていた。
雷が落ちたような轟音と共に、二つに分かれたMTTBの体が、砂埃を起こしながら倒れる。
それまで、何度も復活してきたMTTBの体は白く変色し、やがて灰となって風に舞い消えた。
「勝った……」
さすがに、もう再生することはないだろう。空に上る煙を見て、実感する。
「勝ったっ。勝ったっ。初勝利! わたしってば最強ね! ね、ミケ、わたし勝ったよ」
わたしは嬉々として、ミケを振り返る。
――――あれ?
「……ミケ?」
反応がない。駆け寄る。地面に横たわるミケはピクリとも動かずまるで――。
「うそ……、うそだよね」
「ごふっ……」
「――っ!?」
ミケの喉から何か空気の固まりが破裂したような音がした。
まだ生きてる。呼吸をしてる。
何を勝手に決め付けてるんだ、わたしは。
でも、わき腹に開けられえた穴はあまりにも大きく、流れ出る血が止まらない。
このままでは、命が抜け落ちて死んでしまう。
どうしたら、どうしたらいいんだろう。
気が動転してしまって、頭が真っ白になる。
ああもうっ。奇跡でも魔法でもなんでもいいから、なんとかしてよ!
《プルルルルルル。プルルルルルルル》
え?
その時、あたりに電話の発信音が鳴り響いた。
一体どこから? 音の出所は、どうやらミケの懐辺りらしい。まさぐってみると、飼い主様が持っているスマートホンとか言うのによく似た形状の光る板が出てきた。
多分鳴っている電話はこれだ。
えっと、これどうやって出ればいいんだっけ。確か飼い主さまはこっちの受話器の上がっている方を触っていたような。
ピッ!
「わっ!」
なんか音なった。
すると、電話の受話器から軽快な女性の声が流れてきた。
『お忙しい所申し訳ありません。こちらニャイチンゲール回復魔法サービスです。回復魔法のご契約はいかがですか?』
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