第2話 雑誌記者
「はじめまして鮠眉さん」
「誰ですか」
その女は突然にやってきた。依頼者には見えない。差し出された名刺には記者とある。
「月刊メー」
「ご存知ですか?」
「いや」
「結構有名なんですよオカルト雑誌として」
「すみません。何の用ですか。僕も暇じゃないので」
「あー待って待ってください。ワタクシ、
「お引き取りください」
「ストップストップ! 聞いてください! 実はここを紹介してくれたのがこちらの所員であられる檜山君でして、彼とは幼馴染のツテと申しますか」
「あのバカが……彼はウチの所員ではありませんし、許可許諾の覚えもないので勝手な真似は控えていただきたい。どうぞお引き取りください」
「ハングドマン!」
鮠眉は芹川とようやく目を合わせた。
「調べてらっしゃるんですよね? 私もです!」
芹川は子供っぽく無邪気に笑った。
「貴女もこの町の出なら幾らかはご存知でしょう。やたらめったら噂の域を出ない妙な話がまことしやかに飛び交って、大きく取り上げられはしないが時折現実味をのぞかせる。大抵大人になれば馬鹿馬鹿しいと誰も心底信じちゃいないが現実的な話だけでは説明のつかないことが実際には起きている」
「まるで経験者のような語り口ですね」
「いや、僕も信じちゃいませんよ。で? 取材とはなんですか。僕には話すことなんてありませんよ。依頼のことなら尚更だ。信用商売なのでね」
「この事件の裏には"ハングドマン"の話が絡んでますよね。私はそれを追ってきました。そういう雑誌ってのもありますけど、何より私自身がまだ十代の、この町で暮らしていた頃からあった話ですから。この事件が起きた時は私たちの中でも結構話題になったんですよ。ハングドマンの手口と瓜二つだったんですからね」
「ハングドマンねえ」
ハングドマンは十代の若者を中心に囁かれる都市伝説だった。脱獄した凶悪犯だとか精神に異常をきたした狂人であるとか、大柄の男だったり髪の長い女であるなど容姿のディテールも語り手によって様々だったが、ハングドマンが殺人鬼であること、またその手口が御堂ミサキ殺害の方法そのものであることは共通していた。実際にミサキの事件が報じられたことでハングドマンを想起する若者たちは少なくなかったと芹川は語る。噂に影響を受けた愉快犯か、或いはその噂を利用した、得体の知れない猟奇事件を偽装したものである可能性を鮠眉は指摘する。御堂ミサキ死亡とほぼ同時に行方をくらませた須賀沼を疑うのは定石と言えた。ただ須賀沼の犯行説には疑問な点も少なくはない。先ずハングドマンの模倣が捜査の撹乱を狙ったにしても殺害方法があまりにもまわりくどく、噂程度の存在を犯人に仕立て上げること自体が粗末である。またハングドマンの犯行を示唆するのであれば事件直後に自身が行方をくらますことも悪手であるはず。実際、須賀沼の犯行を裏付ける物証はなかったものの彼は今や追われる身となった。
「先生」
「誰が先生だ」
「私、俄然興味が湧いてきました。記者であることは一旦置いといて助手として調査に同行させてください!」
「断る。僕は助手を取らない主義なので」
「そうなんですか? 檜山君はあなたの弟子だと言ってましたけど」
「奴のアタマがおかしいだけだ。とりあえずこれ以上邪魔しないでもらいたい。こちらも仕事なのでね」
「取り引きしましょう!」
「キミも大概だな。応じない。以上だ。出てってくれ」
「私が独自に調べ上げた警察も知らないハングドマン事件の情報だと言っても?」
「 」
「先生は正直な方ですね。芹川八尋! 頑張ります!」
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