幕間
01 報告:大天狗
俺達は朝飯後、TVを見ながら情報の収集を行った。ってか、TV観ているだけなんだけどね。
チャンネルを変え、色々なワイドショーやニュース番組を見てみたが、結果は同じだった。例の魔物の話は一向に出てこないし、俺達の事も何も語られていない。不思議だ。島を調査した
更に驚くのは浮島が淡路島に向かって来ている事を報道し、ミサイルで浮島を攻撃発表した時に、パニックになった避難民達の交通障害の事だ。
和歌山で【ヘリーポッ
逃げまどう多くの人々。交通事故が長い渋滞を起こしていたのも覚えている。
それらの事も、報道されていない。マジか? 多くのケガ人や、パニックになった人はどうなってんだ? みんな、覚えていないのか? 何故、避難しているのかさえも忘れてしまったのか?
あのプロメテウスから譲り受けた隠者の杖ってのは、凄い力を持っているんだなと、俺は思った。
悠久の時を渡る原初の伝説の魔女はやっぱすげぇ~な。着てた服がゴリゴリのゴスロリみたいだったから妖しかったんだけど、エナさんが憧れるくらいだから凄いんだろうな。
卯月もフリーズしてたから、そうとうな魔力の持ち主なんだろうな。
でも、あのゴスロリ魔女は敵じゃ無くてよかったよ~。
俺の安堵する気持ちを他所に、卯月は
「ねぇ、アリス。私達が留守の間、何か変わった事はなかったの?」
「ハイ、
「—―エッ⁉ 毎日? 四日開けただけなのに? 毎日だったの?」
「ハイ、毎日です。恐らく留守を狙ったモノかと思いますが……」
「妾の美貌も罪かしらねぇ~。オ~ホホホッホッホ」
う~ん、確かにそうだ。妖艶な美魔女だから、そこらへんの男どもは風呂ぐらいは覗きに来るだろうな。
高笑いをするエナさんは放っておいて今後の事を考える。
いや、色々とあったけど何だか混乱するよな。色々と整理しないといけない。
卯月の婆ちゃんに報告する前に、大天狗に報告しなきゃいけないんじゃないかな。弟子の義経が鬼武者になって襲い掛かって来た事は言いにくいが、ちゃんと弁慶と一緒に昇天した事も言わないといけない気がする。義経の事を気に掛けていた大天狗なら納得してくれるはずだろう。
「ねぇねぇ、卯月ちゃんとエナさん。卯月ちゃんの実家に行って婆ちゃんに話す前に、大天狗に話した方がいいと思うんだけど、どうかなぁ?」
「そうね、大天狗は弟子の義経の事を気にしていたから、そりゃ報告しなきゃいけないわね」
「妾はどちらでもいいかしら。ウーツキに任せるわよ」
「じゃぁ~これから行っちゃう?」
「うぇ、これから行くの?」
「そうよ、レオンに乗ってひとッ飛びすれば、すぐじゃない?」
「卯月ちゃん、疲れてないの?」
「大丈夫よ、一晩寝れば元気ハツラツ!オロナミンGoよ!」
「じゃぁ、レオンを呼ぼうかしら?」
うわっ~。余計な事言わなきゃよかったよ。卯月とエナさんは大丈夫みたいだけど、俺は結構疲れが抜けていないんだよな。今日はユックリ昼寝でもしていたいんだよな。
卯月はすぐさま動きやすい服に着替えると、エキドナと一緒に外に出た。
ちょっと、待ってくれよ~。二階に俺専用のジャグジーとサウナ作る予定だったのに、予定変更じゃねぇか。仕方が無い、ここはアリスに業者を呼んで頼む事にした。
「そういう事だから、後はよろしく頼むよ」
「了解で~す。聖也さん、行ってらっしゃいませ~」
おぉ、ツンデレ
感心してると、外から卯月の声がする。
「聖也さん~。早くしないと置いてっちゃうわよぉ~」
「分かった、分かった……。すぐ行くよ!」
◇ ◆ ◇ ◆
――そんな、こんなで着きました!ハイ、京都の鞍馬山。鞍馬山の奥の院。
レオンに乗ると移動は楽チンだ。飛行機のようにチケットを取る手間もお金も必要ない。好きな時に、好きな場所へひとっ飛びだ~。
エキドナの隠蔽の術で昼でも関係なく空を飛べる。
「グテングテンの大天狗様~~~~。
うわぁ~、ゴメンナサイ。又、変な事言ってしまったわ~。
どう~しよう~?」
オィオィ、又してもやっちまったな~。グテングテンはエナさんじゃ無いか?
すぐさま空から声がする。
「その声は、いつぞやの女子と仲間達であるな。すぐに降りて行くので
――バサバサ――。
鳥の羽ばたきの音と共に、目の前に大天狗が現れた。赤ら顔の好々爺だ。
表情はニコニコ顔だ。おい、良い事あったのか? それとも濡れ女とイチャイチャしてたんか?
「大天狗様、例の島へ行って鬼達を退治してきました。あの弁慶の薙刀はメチャクチャ役に経ちました。ありがとうございました~」
「大天狗様、神器:草薙剣も無事に扱える事が出来ました」
俺達が興奮冷めやらぬ勢いで大天狗へ話す。
「そうか、よくやったな。島の外の戦いは
しかしながら、よくやったな。牛鬼は強敵だから心配しておったのじゃが、どうしてどうして。なかなかの連携であったな」
「えっ? 大天狗様。ここから島の事が観えたのですか?」
「あぁ、雲外鏡があるから此処からでも島の外なら見える事が出来たが、島の中の事はさっぱりじゃったな。しかしながら、島の中でも切り抜ける事も出来たのであろう? ここに居るのはそういう事であろう?」
「えっ? 雲外鏡ってなんですか?」
「これじゃよ、これ」
大天狗は片手を上に上げると、何も無い空間から何かを引き出した。
それは、古ぼけた一枚の鏡。直径一メートルぐらいの大きな鏡だった。
「それって、鏡ですか?」
「そうじゃよ。これは雲外鏡といって、鏡に憑りついた付喪神の一種じゃな。
鏡の世界を通して見える世界を映してくれる。これに妖力を込める事によって見える範囲に限界はあるが、此処からでも島の外での戦いは観る事は出来たのじゃ。
しかし、島の中での戦いは観る事は出来なかったがのぅ」
「へぇ~そうなんだ~。便利ですね。
実は大天狗様、島の中には義綱の怨霊がいました。それで……」
卯月は語った。島の中での戦闘を……。
相手は紅い帽子をかぶった
そして、薙刀に弁慶の念が宿り、神器と一緒に義経の鬼武者を倒した経緯をユックリと話した。
話し終えた後に、大天狗は空を見上げた。
数度の深呼吸を繰り返すと、卯月に穏やかな顔を向けた。
「そうであったか……。よくやってくれた。礼を言う……。これで、
あやつも辛かったであろうよ。あの最期をみれば、怨みによって鬼になる事は容易に想像は出来た……。
弁慶もそれを危惧して居ったのであろう」
「大天狗様……」
「よいよい。全てわかっておる。ソナタ達は、大いに頑張った。
本来なら、側に居て助太刀でもしたかったのだが、ワシはここから離れられぬ故に、よくぞ、義経の無念を救ってくれてありがとう。
それと、
「大天狗様……」
「しかし、我が思うには、ソナタ達の戦いは未だ続きそうではあるな。三種の神器もまだ二つ残っておるぞ」
「うぇ、そうか~。そうだよな。思えば女子高生の連続不審死も、後二件あったな。って事は、もう二体の魔物が息を潜んで居るのかよ?」
「又、何かあれば何時でもここに来ればよい。力及ばずかも知れぬが、知恵ぐらいは貸す事も出来るであろう」
「分かりました。又その時は、お知恵をお貸しください」
「うむっ。いつでも来るがよかろう」
こうして俺達は、鞍馬山の大天狗に報告を終えた。
俺達の話を聞いていた大天狗は、物悲しそうな表情をしていたが、話が終わる頃には穏やかな表情に変わっていた。
愛弟子である義経が昇華した事に納得したのだろう。
さて、次は卯月の実家――。
卯月の婆ちゃんの葉月にも報告しなければいけない。なにせ、俺は卯月の神社の御神体の神器の解放者なのだから……。
大天狗以上に根ほり葉ほり聞いて来るんだろうな?
俺達は再びエナさんにレオンを呼んでもらい、鞍馬山から卯月の実家へと向かった。
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