02 報告:卯月の実家
――はい、着きました! 卯月の実家がある小山の麓。
レオンに乗ると移動はメチャクチャ楽だ。最初の頃は加速Gで白目を剥いていた俺だったけど、慣れは恐ろしい。高速飛行も慣れてしまった。
卯月の神社は強力な結界を張っていたから麓で降ろしてもらった。ルークやエナさんも、そして俺も麓からの入り口で違和感を感じていたからだ。いきなり境内にレオンで降りると、結界に弾かれる恐れもある。
今回はどうだろうか?
参拝用の階段が見え隠れする所まで歩いていく。もう数歩、歩けば前回ルークやエナさんが苦しみ始めた場所だ。
「エナさん、多分大丈夫だとは思うんですが、私達と一緒に行きますか?」
「う~ん、どうしようかしら? 前回はアザエルが居たから、気にはならなかったけど、今回は一人でしょ? ウーツキに付いて行ってもいいのかしら?
結界に弾かれるかもしれないわ?」
「ダメだったら、仕方ないですけど、一歩踏み込んでみたらどうですか?」
「そうねぇ~。じゃ~あ、エイ!
アレレレッ⁉ 大丈夫みたいかしらよ?」
「良かった~。じゃあ、エナさん一緒に行きましょう~」
なんだ、どうした? 今回は結界に弾かれなかったぞ。もしかして、俺がこの神社の御神体である草薙剣を持っているからなのか? そもそも、この神社の強力な結界は、あの御神体を守る役目でもあったからな。その御神体は俺が持ち主になっているから、結界が解けちゃったのだろう。
まぁ、いいや。後で、婆ちゃんに聞けば分かるだろう。
それでも、エナさんを紹介するのは驚くだろうな。前回の時に、駅で見送ってくれた時に、エナさんをみてビックリしていたもんな。思い出すだけで笑ってしまう。
前回こちらを見送る二人は、俺達の方を見るとギョッとした表情をして固まっていたもんな。
おい、二人共
「ガォ~ン」でた、出ました!
久しぶりに見た、アゴンゲリオンの新型機が二体でシンクロしてるぞ〜。ってな感じだった。
まぁ、どうにかなるだろう……。
こうして、ルークは俺のポケットの中で眠りながら、エナさんと共に卯月に先導されて、長~い石段を上がるのであった。
例の長~い石段も前回初めて来の時ほど苦にはならなかった。まぁ、例の浮島での命を削る戦いがあったから、俺の身体能力は上がったのかも知れない。
それはそうと、いきなり押しかけて卯月の家族は驚かないのだろうか?
階段を上がりながら、試しに聞いてみた。
「卯月ちゃん、突然押しかけて皆、驚かないかなぁ~?」
「大丈夫よ聖也さん。さっき、石段を上がる前に、電話したから~。
みんな揃って待っているって言ってたわよ」
「そうなの? エナさんを見て驚かないかな?」
「そりゃ~驚くでしょうけど、そこは私がしっかり説明するから大丈夫よ。
エナさん、魔力を押さえておいて下さいね」
「まぁ、妾も場の空気を読むから大丈夫よ。殺気を感じなければ、妾だって大人しくしているかしら。美味しいモノが有れば妾は満足かしらよ」
「魚は、お父さんが又釣りに行って大漁だって言ってたから、期待しても良いかもよ」
「まぁ、ウーツキったら。楽しみにしてるわよ」
又、食べる話かよ。まぁ仕方がないか。朝早く起きて朝食を食べてから、レオンに乗って鞍馬山の大天狗に会いに行ったその後だから、時刻は昼過ぎだ。
腹も減るよな。
◆ ◇ ◆
昼飯の事を考えながら石段を上がると、頂上では祖母の葉月と母親の弥生が待っていた。
うわぉ~~。よく見れば薙刀を構えて待ち受けていた。やっぱりか~~!
「おのれ妖!我が孫を
薙刀をブンブン振り回しながら、決め台詞をきる葉月。
そんな祖母の対応に卯月も驚く。
「おばあ様、この方は味方です。落ち着いて下さい」
「そんな筈は無かろう。大量の妖力が溢れておるぞ。ワシは騙されん」
「ちょっと、聖也さんも何が言ってー」
「婆ちゃん、落ち着いて。エナさんは、悪い人じゃないんだよ。
ほれ、俺が神器を持っていても反応しないだろう。頼むから薙刀を納めてくれよ」
「そうよ。妾は、何もしないかしら。でも、敵意を向けるなら容赦はしないかしら」
そう言うとエキドナは、鉄扇を杖に替え地面に突き刺す。
すると地面から土槍が現れ、葉月と弥生を取り囲む。
「「ひえぇ――。な、な、なんという……」」
「エナさん、頼むから話をややこしくしないでくれよ」
「だって、殺気をガンガン飛ばしてくるものだから、実力の差を見せつけないとねぇ」
「も〜う。エナさん、土槍を引っ込めて――。
おばあ様も、薙刀を納めて〜」
そんなこんなで一悶着はあったけど、一旦はエキドナは神代家に渋々受け入れられた。
「先程は、誠に申しわけ有りませんでした。ど、どうかお怒りをお沈め下さい」
「別に気にしてないかしらね」
「エナさん、お祖母様とお母さんを許してあげてね。反省してるから」
「大丈夫よ、それよりマイウ~かしらね。この白くて細いモノはモッチモッチでコリコリで、弾力があってマイウ~かしら♡」
「マイウ~でしょう? これは今朝釣り上げたばかりの生きの良いイカです。イカは寄生虫が居るから横の薄切り千切りにしていますが、これが中々の食感。
今が旬! 生の刺身も良いですが、焼いて甘辛醬油で焼くと更に香ばしい。
どうですか?」
「良くてよ~! もっと持って来なさいな~。ワインはロゼが欲しいかしら」
「生憎、ワインは有りませんが、地酒の日本酒はいい感じに冷えておりますぞ」
何だか知らないけれど、エナさんは卯月の父親の幸四郎と楽しく飲み食いしている。
方や祖母や母親は、薙刀を持って迎え撃つように構えていたから、二人は恐縮している。
母親の弥生は謝罪したが、祖母の葉月はしかめっ面のままだ。
こまった頑固ババアだな。どうか、エナさんを怒らせないでくれよ……。
取り合えず、エナさんには美味いモノを与えておけば問題はないんだよな。
俺達も軽く食事をとったら、婆ちゃんに事の詳細の報告しないといけない。
例の浮島に居た義経が鬼化した事や、神器の覚醒を上手く伝える事が出来るだろうか。
卯月は大盛ご飯をかき込む様に一杯だけ食べ終えると、自分の目の前の食器を片付け始めた。
そして、一言――――。
「おばあ様とお母さん、食事が終えたら神殿で話が有ります。私は先に行って、待っていますから後ほど来てください。
あぁ~聖也さんも、お願いしますね」
「「は、はい……」」
「う、うん……」
何だか、卯月の様子が変だ。怒っているみたいだな。もしかして、エナさんを待ち受ける時に、祖母と母親がまさかの薙刀を構えていたのを怒っていたのだろう。卯月にとってエキドナは姉のようであり師匠でもある様でもあり戦友だ。
それが、歓迎ではなく薙刀を構えて待ち受けていたら、腹も立つだろう。
この神社の階段を上がる途中で、心配した俺の想通りだから、卯月の心情は腹が立つのは分かる気がする。
体中から怒りのオーラが発せられているのが俺でも分かる。婆ちゃんと、お母さんは、卯月の怒りのオーラがもっと分かるのだろうな。
卯月は自分の食べ終えた食器を台所へ持って行き、勢いよく水を流し豪快に食器を洗うと、神殿へと無言で歩いて行った。
マジか~。すげぇ~な、卯月ちゃん。完全に怒っているよな~。俺も、のんびり食べている暇はないよな。どうか、家族喧嘩に俺を巻き込まないでくれよ~。
ふと、目の前のテーブルの先に目をやると、既に出来上がったエナさんが一升瓶をラッパ飲みしながら、イカを満喫している姿があった。
エナさんの向かいの席には、卯月の父親の幸四郎が、鼻の下を5㎝は伸ばしているのを俺は見逃さない。
おい、お父さん、チョビ髭まで伸びてますよ~。初対面の時の明治維新に出てくるイメージが丸つぶれだ。威厳もなにも有ったもんじゃない。
色気があって話が合うし、まさに絶世の美女! プルンプルンでボインボイン、良いですなぁ~。ボインボイン、ボインボイン。ひゃほぃ~~。
幸四郎の心の声をエキドナは聞こえる事は、彼は知らない。
いくら、ウーツキの親だとしても、程々にしてほしいかしらね~。
鼻の穴に割り箸が刺さっても知らないかしらよ~。
なぜか、俺には二人の心の声が筒抜けで、聞こえた気がしたのだった――。
ひえぇ……。どうか、なにも起きませんように……。
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